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「……くるみちゃん」
一ヶ月ぶりに訪れた教室で、日向は窓際に立ってこちらを振り向いた。
「久しぶり。待ってた」
「……日向。この前は、ごめんなさい」
「ううん。不安になるのも当然だよ。そもそも君たちを苦しめている原因を作ったのは僕だから。本来なら、くるみちゃんの言う通り、関わるべきじゃないのかもしれない」
「それは……」
言い淀むわたしに、日向は強い決意を秘めた目を向けた。
「でもね、やっぱり僕、諦められない。白川胡桃が、あの頃みたいに、心の底から笑う未来を。自分の罪滅ぼしをしたいだけだと思われても仕方がないくらい、身勝手なことだと思う。けど、たとえそう思われてもいい。僕はもう一度、貴女の本当の笑顔を見たい。それだけなんだ」
希望を口にしたはずのその顔は、けれどどこか苦しそうで。
「くるみ先輩が言ってた。辛いって思わないように、考えないようにしてるって。でもそれは、辛くならないかもしれないけど、幸せでもないんだと思う。辛いの反対が幸せなわけじゃない。だから、僕、決めたよ」
そして、久しぶりの笑みを浮かべた。
「ふたりとも、幸せにする」
幸せ。そんな抽象的なものを約束するなんて、馬鹿げていると思った。でも何も言えなかったのは。
きっと、わたしは彼に期待していたからだ。再会して早々、「笑顔にする」とか言ってきて、決めつけた、適当なことばかりいってきて、それでもわたしは、彼がなにか変えてくれるんじゃないかと期待していたのだ。
わたしとあの子を救ってくれると。
「前にした約束、訂正させてくれる?」
そう言って、軽やかに笑う。
もう、今のままで十分だと思っていたのに。あの子が声と記憶を失くしたままでもいいと、思っていたはずなのに。
わたしは全然、苦しくなんかないと、思っていたかったのに。
彼と一緒にいると、わたしが自分についた沢山の嘘の防壁を崩されていくみたいだった。痛いのに、なぜだかいやじゃなくて。
「……うん。ありがとう」
零れ落ちた小さな音の振動を、彼はちゃんと受け取って頷いてくれた。


