呑まれゆく【死霊術師】は普通になりたい ~役職バレたら即処刑、禁忌役職の隠匿生活~

 翌日、大規模クエストの2日目も1日目同様に大失敗だった。
 犠牲者こそ出なかったものの、進展も無かった。

 1日目の失敗を踏まえ、大規模クエスト運営は2日目から森を全て焼き尽くす方針に変更した。【炎刃】さんはじめとする炎系のスキル持ちが集まって全力で森を焼き、残った人員で焼き残したところを草刈りをする……はずだったのだが、1日かけて焼くことができたのは第一階層から第二階層へのルートのみで、第一階層全体を焼くことはできなかった。

 このダンジョンは予想以上に大きく、そして湿気も高かった。火をつけても煙ばかり出てまともな炎にならなかったようだ。

 結局、2日目は最後まで仮登録組の出番はなく、全員ダンジョンの入り口付近で待機しているだけでその日の探索は終了した。俺としては仕事がないので気楽なものだったが、【炎刃】さんたち炎スキル所持の冒険者はMPを使いすぎてしばらく動けなさそうだった。


 しかも残念なことにこのダンジョンは植物にもマナが与えているようで初日に俺たちが刈った辺りは既に下草が生えてきているらしい。

 つまり2日目にして、大規模クエストは振り出しにもどったといえた。
 決して戻らない多数の死者を除いてだが。


「雰囲気最悪だ」


 配給を受け取り、空いている席に座る。食事場として開かれているテント内は明らかに険悪なムードが立ち込めていた。食事時であるにもかかわらず不自然な沈黙が場を包み込んでいる。仲間同士思われる冒険者たちも一言も話すことなく食事をすませてすぐに退散していく。

 まさに一触即発。少しでも乱そうものなら、ここ2日の無茶な進行で溜まりたまった冒険者たちのうっぷんが爆発しそうだった。

 幸い俺には仲間といえる人もいない。誰かに話しかけられることもないので雰囲気を乱すような愚行を起こすことはないだろう。


 食事を味わえるという幸せに感謝してさっさと退散しよう。

 そう考えていた矢先、突然トンっと正面に人が座った。大柄の妙齢の女性。フリカリルトが辺境の片田舎にはいないタイプというのなら、まさにその逆、開拓団でよくみた心身ともに強そうな女性だった。

「アンタが【槍聖】ナイクね」
「は? 俺に何の用でしょうか?」
「〈正直者よ〉アンタ。どうおもう? この大規模クエストの現状」
「普通に最悪だろ。昨日あんなに死人だしといて、今日は楽しくBBQバーベキューして終わりとか。この肉も取れたての新鮮な魔物肉だってな。おいしいよ」

 口が勝手に答えた。これは衛兵隊にも使われた自白用のスキル。
 しかも衛兵隊より練度が高い。確かに思っていたことではあるが、ここまで露骨に批判するつもりはなかったのに自重する暇すらなく言葉は口をついた。


 沈黙しきった食事場で俺たちの会話は浮いている。

 止まらない口を押えようとするが、まるで何かに操られているように口は動きつづける。

「俺としては有難いけどな。ただで飯食える」
「ふーん。ならどうするべきだったと思うの?」
「どうって……そうだな。もっと事前に検証してさ。そうすればもう少しマシな作戦立てれただろ」
「逆になぜ、その事前検証をしなかったと思う?」
「さぁ、知らね」
「教えてあげるわ。このダンジョンがうるさすぎるからよ。下草が視覚を完全にはばみ、木々のさざめぎが聴覚を壊し、一面に香る樹液が嗅覚をつぶす。そんなところに少人数の調査隊を入れたらどうなると思う? 全滅するでしょうね」
「だから下草を刈り、森を燃やしてダンジョンを黙らせようとしたってわけか。結果、俺たちのほうが静かになちゃったな」


 周囲を見回すと、食事場にいたほぼ全員が静かにこちらを見ていた。

 言葉が止まらない。不要な煽りが堰を切ったように口から出てくる。この人が誰だか知らないが、口ぶり的に大規模クエスト運営側だろう。俺は今はフリカリルトと協力する立場だ。進め方に文句はあれど敵対する気はないのに、一切自重できず煽りまくってしまった。


「いいぞ! 【仮聖】言ってやれ」


 どこかから声が上がった。聞き覚えのあるその声は昨日【巨大死肉蠕魔虫】との戦いで助けた【根菜農家】のおじさんだった。

「【仮聖】いいね!」
「言ってやれ!」

 後に続くように周囲から応援の声が沸いてくる。仮登録の冒険者たちは俺に味方するように立ちあがった。

 意外といける!?
 このまま勢いをつけて、皆の心を煽れば、死霊たちの願い通り大規模クエストの中止にもっていけるかもしれない。

 だが、目の前の女性は苦い顔をするどころか楽しそうにわらっていた。

「教えてよ。アンタたちの意見を。アタシ【大食姫】がS級冒険者としてその言葉運営に届けます」

「中止だ。この大規模クエストは中止にしろ。常昼の森ダンジョンは俺たち低レベル冒険者が立ち入るには荷が重すぎる。潜らぬダンジョンで死ぬことはない。俺たちを殺す気か」

 俺の答えに【大食姫】は感心するように頷いている。

「あんたの言う通り、潜らぬダンジョンで死ぬことはない。されど潜らなければ壊せない。一生ここにダンジョンを放置するつもり? それともダンジョンは高レベルの冒険者に任せて僕ちゃんたちは逃げるって言う話?」

「そうだ。同じダンジョンに潜るにしても、仮登録の俺たちとS級冒険者のあんたじゃリスクに差がありすぎる。はっきりいってしまえば高レベルの奴らより俺たちのほうがよっぽど危険な仕事してんだよ。身の程わきまえろよ強者ども」

 口が勝手に思ったことをしゃべる続ける。言わなくていい本音が駄々洩れになっていた。

 その本音に「そうだ」「そうだ」と俺に賛同する仮登録の冒険者たち。それを見て【大食姫】は大笑いした。

「正しい。正しいわ【仮聖】。自分の弱さをしっかり理解して、うまく逃げようとするのね。あなた最高。最高にムカつくわ」


 気が付けば俺は一瞬で空中に持ち上げられていた。

 目にすら映らぬほどの速度。俺はまるで赤子を持ちげるように簡単に首根っこを持ち上げられた。足をばたつけせて【大食姫】を蹴りつけても大木を蹴ったようにびくともしない。掴まれている指を折ろうにも魔法銀よりも固くまげることすらできない。


「こんな奴生きてる意味ある? あたしたちに危険を押し付けて後ろに逃げて、言うことが《《僕たち弱いからしょうがないんだ》》」

 さっきまで俺と一緒に騒ぎ立てていた仮登録の冒険者たちは【大食姫】ににらみつけられて完全に縮こまってしまっている。

「違ってはいない。でもムカつく」

 論点をすり替えやがった。弱いからここは危ないと言う話から、押し付けられた強い奴の感情論に。これでは俺の正しさは認められても、結局話は通らない。

「感情論押し付けんじゃねぇよ。それでしか反論できないっていってるようなもんだろ」

 宙づりになりながらも何とか反論する。というか口が勝手に反論してしまう。

 【大食姫】はそんな俺を見てまた笑った。

「アンタに守る価値がある?」

 どす黒い殺気の塊が、【大食姫】から叩きつけられた。
 思わず失禁してしまいそうなほどの寒気にあてられるが、なんとか意識を保つ。

「へぇ。じぁテストしよっか。アンタが守る価値ある人だと判断できたらアンタの言うことを聞いて逃してあげる。この大規模クエストは中止よ」


 【大食姫】は食事場中に聞こえるように大声でそうしゃべると、ぼとりと俺を落とした。


「よっしぁ!見せてやれ!【仮聖】」
「【槍聖】にも勝ったんだ!お前が仮登録の星だ!」


 解放された俺を見て仮登録の冒険者たちはまた元気を取り戻したようだった。

 なんでこうなるんだよ。
 弱いと証明するために力を見せないといけないなんておかしいだろ。
 冒険者はドイツもコイツも力こそ正義の脳筋思考すぎる。


 明らかな矛盾を感じるも自白スキルの効果はきれたようでわざわざ口に出すことはなかった。

「うまいもんだな。これが世論操作か」


 【大食姫】は俺のつぶやきを無視して、手のひらの上に大きなマナの塊をつくった。渦巻くように流れるマナは爆発するような力を無理やり凝縮したようで、ひどく不安定に見える。


「いくらなんでもレベル差があるからね。ハンデはガッツリあげるよ。私の術を崩してみなさい。当然スキルも使い放題。しかも私はここから一歩も動かないわ。動いたらあなたの勝ち。さぁはじめま………」


 〈槍投げ〉


 説明の終わりも聞かずにマナの塊へ槍を投げるも、飛ばした槍はもう片手でつかまれた。


「手癖わっる。フリちゃん趣味を疑うわ。じぁ改めて……」


 〈槍投げ〉

 俺は【大食姫】の両手が埋まっている今が隙、今度は皿を投げた。中身が飛び散り動かないと宣言した【大食姫】にぶちまけられる。

「ちょっと!」



 【大食姫】は慌てたように口で皿を噛んで止めた。そして手から俺の槍を離す。彼女の元から槍を取り返すと、【大食姫】は今度は槍をつかんだ俺の手を上からつかんだ。


「ちょっと悪戯が過ぎるわ」

 一瞬握りつぶされるかと思って、痛みに身構えたが、動きを止められただけであった。

 とはいえ、ここからできる行動も思いつかない。あるとすれば空いている手でマナに直接触れるくらいだが、さすがにあの不安定なマナの塊に直接手を突っ込む気にもなれない。


 本当に爆発でもすれば俺の体ごとふっとぶだろう。
 やっぱり。俺一人では無理だ。



「おい! いいのか! お前ら! このままじゃ。明日も常昼の森だぞ! 《《大規模クエスト終わらないぞ》》!! このマナを壊すだけでいいんだ! 手伝え!」

 大声を張り上げて、周りの冒険者たちに助けを求める。

「さすがに一対一のつもりなんだけど。あんたたち手を出したらわかるわね」

 【大食姫】がすごんでいるのに手を出す冒険者は一人もいなかった。

 冒険者は一人もいなかった

「【死霊術師】それホント?!」
「ちゅうしー」
「とめるぞー」
「ちゅうし!!」

 死霊たちが騒ぎを聞きつけて集まってくる。彼らは【大食姫】の目の前でふよふよと浮かんでいた。


「触るだけで壊れるかなぁ」

 死霊が一体に固まってマナの塊に手を伸ばす。

「これでおしまい?」

 そう煽る【大食姫】の真横でまさに死霊の先端が触れようとしていた。

「俺の勝ちだ」

 死霊がマナに触れると、渦巻いていた力が崩れた。均衡を保っていた力は四方八方を向いて飛び散ろうとする。

「は?」

 【大食姫】は一瞬本気で驚いた表情をして、そして、にこりと笑った。

「やるじゃん」

 ぐちゃりと手を握りつぶされた感覚がして激痛が襲う。
 手を潰されうずくまった俺の腹に、【大食姫】の拳が突き刺さった。


 それは痛み。というより強烈な衝撃だった。どんどんと遠ざかっていく地面と【大食姫】の姿。

 S級冒険者繰り出した、あらがえない強烈なパンチによって、俺は食事場から、水場、睡眠所、簡易休憩室、便所を通り越し、ダンジョン入り口のテントまで、吹き飛ばされた。

 体が動かない。


 首すら上がらない状態になった俺には、勝負がどうなったかなど確認するすべもなく、ひっかかったテントでぶらぶらと足を揺らして誰かが助けてくれるのを待つしかなかった。


 

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あとがき設定資料集


【大食姫】
※HP 9 MP 5 ATK 5 DEF 4 SPD 4 MG 3
〜いっぱい食べる私が好き。生まれてから死ぬまでの10万食。そのすべて私の人生〜

簡易解説:戦士系統の役職。〈捕食強化〉という食べ物や魔物を捕食することで食べたものの種類や特徴によってHPの回復や、攻撃力、速度を上昇させるスキルを持つ。また大食姫はどれだけたべても太らない。