呑まれゆく【死霊術師】は普通になりたい ~役職バレたら即処刑、禁忌役職の隠匿生活~


 衛兵たちにボコボコにされた傷が癒えてきたころ、俺が住みついた中央公園のゴミだまりに一編のニュースが舞い込んできた。


「ナイ坊、聞いたか? 大規模クエストの受付がはじまったらしい」

 この辺りの浮浪者のまとめ役の兄貴は嬉しそうにそういった。彼は以前声をかけてきた三人組の一人、【舞闘戦士】アオテア。

 俺が衛兵隊と一悶着を起こした後、傷だらけで寝床を探してふらついていた俺に浮浪者三人組が声をかけてきた。聞くところによると彼らは俺が衛兵に連れて行かれたのを見ていたらしく、見て見ぬふりしてしまった罪滅ぼしとして、何も聞かずにここに置いてくれることとなった。

 ありがたい話だ。

 公園の水場からほど近い場所を開けてくれたお陰で雨風のしのげるだけでなく水浴びもできる。

「今回は放置されたダンジョンの探索らしい。魔物もウヨウヨいるが報酬はかなりいいぞ。いかないのか?」
「前にもいいましたけど俺は冒険者にはなれませんよ」
「でもなりたいんだろ? 後生大事に冒険者ギルドのチラシ持っているじゃないか」

 兄貴がボロ布の隙間に挟まっている紙切れを指さす。あの少女からもらった冒険者ギルドの紹介チラシ。チラシには冒険者ギルドの場所と行き方が書いてある。

 見上げた空には巨大な冒険者ギルドが浮かんでいる。浮かぶ街の中でも最も大きい地区、通称;浮遊街。この公園の真上から天を貫く様に縦方向に聳えている浮遊街のその真ん中あたりにある派手な金色の建物が冒険者ギルドだ。

「錬金都市マルチウェイスター……」

 錬金術師の治める街というだけあって、領主関連の建物は全部金色で分かりやすい。


 あの少女は俺が【死霊術師】であると気が付いていた。

 逃がしてくれたということは秘密にしてくれるということだろう。だが彼女がどういうつもりなのかは想像もつかなかった。【死霊術師】は全人類の敵。そんなことは過去の【死霊術師】の記憶をみた俺が一番よく知っている。匿う理由などない。

 もう一度会って話さないといけない。そのためにはいわれた通り大規模クエストに参加するのが一番確実だろう。

「ナイク坊やはあれか? 助けてもらったっていう女の子が気になるとか」
「はい。そうです。名前はたしかフリカリルト」
「フ、フリカリルト様?!」

 兄貴はその名をきいてあんぐりと口を開けた。


 「フリカリルト様に会いたいならなおさら大規模クエストに参加すべきだ」と兄貴にいわれた俺は、その足で冒険者ギルドに向かった。兄貴によると大規模クエストには人数を確保するべく、正規の冒険者以外も参加できる制度があるらしい。

 街中にある短絡通路というものから浮遊街に上る。この通路のおかげで誰でも街のどこからでも浮遊街にアクセスできる。蜘蛛の糸のように街全体に通路を伸ばした浮遊街の異様な姿は錬金都市マルチウェイスターの錬金都市たるを象徴していた。

 素晴らしい仕組みだが、通路に乗った瞬間に体が上空にふっ飛ばされて、気が付けば目的地にたどり着いているというのは正直不気味だった。

 そもそもどうやって街が浮いてるんだよ、とつっこみたくなる気持ちを落ち着けて、近くの通路から飛ぶ。

 たどり着いた冒険者ギルドの集会所の大規模クエスト受付はたくさんの冒険者で溢れかえっていた。皆、良い装備を身につけていて強そうだ。俺のようにボロ布を着ている人はいない。

「見つからないな」

 兄貴の話ではフリカリルト様とやらは冒険者ギルド受付をしているらしいのが、どこを探しても彼女は見つからなかった。

 しょうがないから大規模クエストの受付を案内する声に沿って、人だかりのなかをフラフラと流れていった。

「おい、どけよ。ここはお前みたいな浮浪者が来るとこじゃねぇんだよ」

 新規参加者受付の列に並んでいると目の前に金髪の青年が立ちふさがった。年は同じくらいだが、ピカピカの金属製の鎧と槍のおかげで冒険者としての貫禄がある。ボロ切れ一枚の俺との差は歴然だ。

「俺が先に並んでましたよ」

 浮浪者であることは否定しないが、それを理由に抜かそうとするなんて釈然としない。

「あ? 浮浪者の分際で……」
「ちょっと、アンヘル! 不良みたいなことはやめて」

 青い髪のこれまた同い年くらいの可愛らしい女の子が俺たちの間に飛び込んできた。二人は何か話した後、彼は最後に一回舌打ちをして黙って後ろに並んだ。
 金髪の彼は並んでいる間、ずっと不満そうにしていたが、青髪の子に腕を掴まれてしょうがなくおとなしくしているようだった。

 彼が何が不満なのか全くわからない。俺からすれば同世代の女の子と仲良くしているだけでも羨ましい限りだ。もし彼の立場になれるなら目の前の浮浪者に時間を割くなんてもったいないことはしない。

 そんなことを考えているうちに列は進み、自分の番がやってきた。

「次の方、では冒険者登録証をお見せください」

 冒険者登録証?

 受付のお姉さんも、ニコリと笑った顔のまま固まっている。俺が冒険者登録証を出すまで話が進みそうにない。

 兄貴……話が違うぞ。
 冒険者登録してなくてもいけるって言ってたじゃないか。

「あの、ないんですが……」
「新規登録ということでしょうか?」

 受付のお姉さんは相変わらず笑った顔のままそう返した。ゴソゴソと机のしたから水晶のような取り出そうとしている。

 登録はまずい。
 俺は【死霊術師】だ。

「いや、そうじゃなくて。登録しないけど参加したい……的な」

 苦笑いしながらそう返すと、受付のお姉さんは笑みをやめて別の方向へ視線をやった。

「ここは冒険者登録してる方の受付でして、仮登録はあちらになります」

 受付の女性が指し示した先には小汚い浮浪者の人だかりがあった。

「だから言ったろテメェの来るとこじゃねぇって」

 後ろから投げかけられる先ほどの青年の言葉に、冒険者達の中から「ちげぇねぇ」と嘲笑が沸き起こる。俺は恥ずかしさに顔を伏せ、ちくちくと突き刺さる針のような視線を背中に受けながら浮浪者の人だかりの一番後ろにそっと並んだ。

 今度は誰に因縁をつけられることもなく粛々と列は進んだ。

 浮浪者の列の先にはデケェオッサンが座っていた。つるっぱげの真っ黒なオッサン、その体はまさしく筋骨隆々。ギルドの職員というより冒険者だと言われた方がしっくりきた。

「おい、ガキ! 貴様にここはまだ早ぇよ」

 さっきまで浮浪者達をぽんぽんと許可していたのに俺の番になってオッサンは急にそう言ってどっか行けというように手を振った。

「なんで……お願いします」
「あ? ちゃんと参加条件を見ろ。レベル10以上だ。それ以下は役にたたねぇ」
「レベル11です!」

 オッサンは俺の顔をジッと見て、苦々しげに首を振った。

「例えそうだとしても許可できなぇなぁ。クソガキ、貴様はアルケミスト系役職だろ。レベル11じゃすぐ死ぬんだよ」

 アルケミスト系?
 確かに【死霊術師】はアルケミスト系の役職だ。なぜバレた。

 まさかこのオッサンも〈鑑定〉で役職を見抜いている?
 なら今すぐにでも逃げないとまずい。
 こんな高レベル冒険者達の真っ只中で【死霊術師】とバレたら、即処刑だ。

「こちとら毎日毎日飽きるほど冒険者と仕事してんだ。顔見りゃ分かるんだよ。貴様みたいな口先だけは得意そうなやつはアルケミスト系って決まってやがる」

 驚いた表情をしていたのか、オッサンは吐き捨てるようにそう教えてくれた。
 顔でわかるとは驚きだがバレたのがその程度なら問題ない。

「お願いします。まともな食事もできていないんです」

 引き続き頭を下げてお願いする。まるで【蛇鶏】(コカトリス)のようにブンブンブンブンと振り回した。鬱陶しそうにこちら睨むオッサンがうなずくまで何度も頭を振る。

「はぁ。しょうがねぇ。レベル11ね。で、登録役職は?」
「登録役職?……それは当然【槍聖】、【槍聖】ナイク!」

 オッサンは俺の言葉に今日一番顔を顰めた。周りの浮浪者達は逆に大喜びしている。

「きたー!」
「【剣聖】系とはちょっと外してくるねぇ」
「こいつぁ期待の新人だ!」
「妙にリアル!」

「うるせぇ! 黙れ!」

 オッサンがドンと机を叩いて大声で周りを怒鳴りつけた。集会所全体に轟き渡るような大声に、浮浪者達だけではなく、冒険者たちも全員がシンと静まり返った。

「ほらよ。仮登録証だ。効力は今日からきっかり一年。無くすなよ。あっちに装備屋で鎧と槍貰っとけ。報酬から天引きだ。そんなボロ切れ一枚じゃ本当に死ぬぞ」

 手渡された金属のプレートには確かに『ナイク Lv11 【槍聖】(仮登録)』と書かれていた。

「一年?」
「そうだ一年だ」

 効力一年ということは、大規模クエストが終わったあとも一年間はギルドで素材の売り買いができるということだ。

 これで生肉や腐り肉を食べる必要もなくなる。

「槍よ、槍よ、運命(さだめ)を貫け♬
 嵐のごとく 舞い踊れ♬
 今こそ示せ 槍聖の誇り♬」

 ホクホクとした気持ちで装備を貰い、次は炊き出しに向かう。

 冒険者ギルドの空中区画のはしっこにある炊き出し場では簡易な長椅子とテーブルがずらっとならび、そこでたくさんの冒険者や浮浪者たちが飯にありついていた。貰える炊き出し品はパンとスープ。世辞にも豪勢とはいえない食事だが、魔物の生肉や、腐り肉を喰らって生きてきた俺からすれば涙が出るほど暖かい食事だ。

 あまりにも美味すぎて、一瞬で食べ終わってしまった。

 口惜しい気持ちで空のお椀を眺める。当たり前だが、中身が復活することはない。

 もう一杯くらい行けるか?

 そもそも一杯だけとは言われてない。おかわりしてもいいんじゃないか?
 冒険者たちには炊き出しを食べない奴もいるだろう。数に余裕はあるはず。

 こっそりと炊き出しの列にもう一度並ぶと簡単にもう一杯もらえた。相変わらず、あまりにも美味すぎて、また一瞬で食べ終わってしまった。
 こっそりと炊き出しの列にもう一度並ぶともう一杯もらえた。相変わらず、あまりにも美味すぎて、また一瞬で食べ終わってしまった。
 こっそりと列にもう一度並ぶとちょっと変な顔をされたがもう一杯もらえた。相変わらず、あまりにも美味すぎて、一瞬で食べ終わってしまった。


「おい! 何杯食ってんだ?」

 怒鳴り声が頭の上から響く。声の方を見上げると先ほどの金髪の冒険者の青年がこちらを蔑むような顔で立っていた。


「2杯かな」
「4杯だろ! 数えてたぞ。しょうもない鯖読んでんじゃねぇよ。炊き出しは1人1杯だ!」
「数えてたって……随分、暇なんだな」

 カチャリと音がして、槍の穂先が机に突き刺さった。

「ざけんなよ。もう我慢ならねェ。俺はこういう甘ったれた奴が大っ嫌いなんだ。根性叩き直してやる」

 青年はそういって机から槍を引き抜き、再度を構えた。騒ぎを聞きつけたのか周りに人がどんどん集まってくる。

「ちょっとアンヘル。それは危ないわよ」

 隣の青い髪の女の子が彼を制止するよう手を伸ばしたが、アンヘルと呼ばれた青年はその手を振り払った。

「聞いたぞ。こいつは俺と同じ【槍聖】らしい。レベルも1つ違いだ。大事にはならねェ」


 同じ【槍聖】?!
 まさか、こんなところで本物の【槍聖】に出会えるとは思ってなかった。血縁者ならともかく幾万もある役職の中で父と同じ【槍聖】と出会えるなんてすごい偶然だ。

 感動している俺の様子など気にせず彼はこちらに向かって槍を構えるも、俺は首を横に振った。

 同レベル帯の【槍聖】に正攻法で勝つ気がしない。戦闘訓練を積んでない相手ならともかく【槍聖】に選ばれるくらいだ。彼もまた戦闘技術は高いのだろう。
 【槍聖】については【死霊術師】よりよく知っている。攻撃と速度がずば抜けて高く、1対1の戦闘においてこの上なく完成された役職だ。しかも低レベルで身体強化系スキルを獲得する。

 MP(マナ量)以外は平均以下の【死霊術師】に勝てる道理がない。

「その子の言う通り、俺らは防御力は低めだから危ない。やめよう」

 アンヘルとやらは少し意外そうに目を見開いた。

「あ? テメェほんとに【槍聖】なのか。しょうがねぇ」

 彼は自身の魔法袋を取り出して、穂先のない柄をそこから2本持ち出し、片方をこっちに放ってきた。

「これでもまだ文句あるのか?」

 穂先のないただの棒なのだから大丈夫だろ、ということだろうか。

「いや、そもそも戦うつもりないって」
「なにが問題なんだよ。玉無し野郎が」

 周りに集まってきた冒険者たちも、そうだそうだと言って彼に味方をする。面白そうだからあちらに味方しているだけだろうが、旗色が悪い。

 それだけではない。

 辺りを見回して気が付く。ほとんどの冒険者は面白半分だったが、一部俺を警戒するように観察している人たちがいた。俺が警戒されている理由はわからないが、もしかしたら衛兵隊と一悶着あったのが知られているのかもしれない。

 考えても意味がないことを振り払って【槍聖】の方に向きなおる。

「俺に戦う利がない。お前の加虐欲を満たすために戦えと?」
「加虐欲?! それに利益だと? 危ないの次は得がないからやめようかよ。なら、もしお前が勝てたらなんでも奢ってやるよ。大規模クエスト中は俺の金で好きなだけ食ていい」

 彼は自分が負けるなんて微塵も思っていないようだ。おかげでなかなかいい条件が出てきた。ただ彼が勝てると確信してるのと同じくらい、こちらも勝てる気がしない。それくらい【槍聖】は強い。

 なにより今攻撃されたらせっかく食事をとれたのに吐く。

 だが周りの冒険者たちの警戒を解くためにも、戦って負けたほうが都合がいいような気がした。


「スキルなし、穂先を相手の体に当てた方の勝ちなら」

 誤解がないように渡された棒の先端を指差して、ここが穂先のつもりで戦うことを伝えた。

「ほんまもんの玉無しじゃねぇか。わかった。それでいい」
「えーと、【槍聖】ナイクさんは本当にいいの?」


 青髪の少女が確かめるようにこちらに確認した。彼女も彼女で【槍聖】アンヘルの勝利を確信しているのだろう。やめるなら今のうちよ、と言いたげな表情だが、その顔には少しの恐れが見て取れた。

「大丈夫。はじめてください」

 俺たちを囲む人だかりはまるで即席のリングようになっていた。青髪の女の子が呆れたようにため息をつき、大きく手を挙げた。


「お互いほんとにいいのね。じぁ始め」


 その言葉の次の瞬間、凄まじい速さの連撃が飛んできた。

 うちあっての弾きたくなるのを必死に堪え、そのまま後ろに飛び退く。ザワッと人だかりも後ろに動きリングはさらに大きくなった。


 相手は【槍聖】だ。レベル12とはいえ、レベル41の【祭司】以上のATKだ。ATKの差は歴然。槍を打ち合った瞬間に弾き飛ばされるだろう。絶対に触れてはいけない。

「遅え」

 再び超速度の突きが襲いかかる。かわしきれなかった一撃を槍で弾くと、俺の槍は吹っ飛ばされるような衝撃を受けてプルプルと震えた。

 震えを両手で押さえ込み、彼から離れる。離れるついでに足を薙いでみたが、ひょいと飛んで避けられた。

「おいおい、それが攻撃か?」

 また突きが飛んでくる。防ぐことすらできないATK()の差のせいで、後ろに避けることしかできなかった。

 それすらも、追いつかれ、
 追撃するように胸元に伸びる一撃を全身全力で叩いて弾き飛ばした。

 衝撃でお互いによろめく。

 槍を横からぶん殴ったのに、こっちも反動を受けるのか。
 攻撃を受けるだけで精一杯だ。反撃をする余裕がない。

「どこが【槍聖】だ。か弱いな」

 俺の動きをみて彼が煽る。

 だがあるのは役職の差。戦闘技術だけなら俺の方が上。確かに彼もよく練習しているのだろうが訓練量も俺の方がはるかに多そうだ。それだけに俺の努力を嘲笑うようなその発言は少しムカついた。

「ふさわしくないな。お前は【槍聖】にふさわしくない」
 
 さっさと槍に当たって負けるつもりだったがこの男が調子乗るのは面白くない。

 殺したい。

 槍を上段に構えて、そのまま体勢を落とす。
 ジリジリとゆっくり前に詰めるように進むと彼は少しだけ後退りした。

 地面を蹴って前に飛ぶ、前に突き出された彼の攻撃を、槍の回転で受け流して懐に詰める。


 そのままの勢いで、槍の底の裏金で彼を殴りつけ……彼にあたる前に槍が止まった。

 手で抑えられている。
 手で抑えられていた。

 抑えている手の小指を捕り、横向きにへし折った。


 咄嗟に彼が俺の体を蹴ろうとするが、浮いた足を薙いでずらす。折った指をさらに逆方向にぐりぐり回し、痛みで俺の槍を離してくれることを期待したが彼はなかなか手を離さなかった。

 つづけて中指、薬指もへし折る。もげるほど反対側にえぐってようやく槍を取り返したのもつかの間、俺は蹴り飛ばされて転がった。

「アンヘル! 大丈夫?! 今すぐ治療する!」
「やめろ。まだだ。まだ勝負は終わってない。こんなやつに負けられるか」

 【槍聖】アンヘルが青髪の女の子の治療を拒否してこちらに槍を向ける。

「テメェ遅えよ。【槍聖】を舐めんじゃねぇ」

 彼はそう言って再び槍をしっかりと構えた。
 挑発にもなってない。

「身体の使い方が下手だな。体術だけで勝てそうだ」

 笑いながら煽り返すと、彼は苦々しい表情でこちらを睨みつけてきた。煽りが効いてるのがよくわかる。これは煽りがいがある。

「ああ、わかった。鍛錬もせず自分の槍磨きしかしてないわけだ」
「テメェ! どういう意味」
「そのお嬢さん可愛いもんな。槍磨き(オナニー)もはかどると」
「殺す!」

 声に怒気がにじんでいる。これはもしかして図星か?
 いいね。このまま無残に潰してやる。

「センスがないのはテメェの方だろ!【槍聖】のくせに、力もねぇ、足もおせぇ」


 怒りのあまり力任せに振るわれる槍。指が折れていることもあって先ほどまでの澄んだ一撃よりはるかにさばきやすかった。

 連撃をいなしつつ、槍を軸に上に飛ぶ。

「自己紹介ありがとう。お前は大規模クエストでも皆に覚えてもらえそうだな。弱い方の【槍聖】って」

 上から髪の毛を掴んで毟る。ぶちぶちと引き抜く感覚がした。
 ひと束抜いたおかげで少し頭が禿げている。

「ずいぶんスッキリした。俺に任せろ。もっとオシャレに、覚えやすくしてやろう。お前はセンスが、少し足りないようだからな」

 抜いた金色の髪を捨てながらそう煽ると、煽った瞬間に、嫌な気配がした。
 相手の体の底から、なにか力が湧き上がってくるようなそんな感覚。


「ちょっとアンヘル!」


 横の女の子がそう叫ぶ。

 【槍聖】の身体強化スキル

 そう考えた瞬間に俺は反射的に槍を持ち上げ、構えていた。



 〈槍投げ〉


 放たれた槍はブレることなく一直線に彼の顔面に向かって飛んでいった。怒りに満ちた彼の顔面に吸い込まれるように槍が直撃した。


 穂先は顔面直撃! 
 勝った!

「あっ」

 顔に槍が直撃して、吹っ飛んで転がる彼の姿を見て、俺は我に返った。

「スキル反則……」

 完全に沈黙しきった周囲を見回した。
 俺が反則したからしらけかえってるのだろうか?

「あの、えーと……【槍聖】さんにはすみませんでしたって伝えてください」


 青髪の子に、借りた槍を返して、俺は一目散にその場を後にした。



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あとがき設定資料集


【槍聖】
※HP 5 MP 3 ATK 8 DEF 4 SPD 7 MG 3
〜ああ、死んだ。魔物に襲われた旅人がそう思った瞬間、一筋の光が走り、魔物は真っ二つになった〜

簡易解説:戦士系統の役職。槍にまつわるスキルを多く覚える。剣聖系の役職の一つであり、強い感情によって発動する特殊なスキルを持つ。これによって生み出される力は全てを撃ち貫くと言われるほど強力。