呑まれゆく【死霊術師】は普通になりたい ~役職バレたら即処刑、禁忌役職の隠匿生活~




「いい加減しゃべれや!」

 マルチウェイスター衛兵隊の牢の一室で手足を拘束されて、質問を繰り返されること数時間。黙秘を貫き続けるのももはや限界だった。

「〈スキル〉使用許可がおりた。尋問を再開する」

 衛兵たちが俺を取り囲み、一枚の巻物を取り出した。スクロール、一時的に特定のスキルが使えるようになる魔道具だ。

「〈正直ものよ〉名前は?」
「【■■■■】ナイク」

 これまでずっと黙秘を貫いていた俺の口が思わず答えた。おそらくこれがこのスクロールのスキル。自白させるスキルだろう。

「役職は?」
「【■■■■】」

 俺の持つ〈隠匿〉のスキルをつかって自分の言葉をなんとか塗りつぶす。自分の役職を隠す最後の抵抗なのだが尋問を行っている衛兵たちは顔をしかめた。

「その〈隠匿〉を解きなさい」

 無視すると衛兵の一人が俺の頭を掴んだ。もうひとりの衛兵ががら空きになった俺の脇腹を蹴る。

「テメェ! マルチウェイスター舐めてんのか?! テメェみたいな身元不明のガキなんて何人吊るそうがこちとら問題ねぇんだよ! 衛兵隊を殺そうとしやがって! フリカリルト様がいらっしゃらなかったらあの子たちは本当に死んでたかもしれないところだったんだぞ! 貴様が! 死ね!」

 衛兵たちに腹を蹴られ、手を踏まれ、顔をガンガンと机に叩きつけられる。

 鼻がツーンとするような痛みとともに、血が出て口の中が鉄の味でいっぱいになった。折れたというほどじゃないが、鼻から血が溢れてきた。

 何度も蹴られ、殴られ体中な内出血と痛みで熱くなる。

 尋問という名の暴行はしばらく続いた。せっかく食べることができた生肉が逆流して吐き出る。真っ赤なのは血のせいなのか元々なのか判断ができなかった。

 もちろん俺が吐いた程度で暴行は止まるわけもなく、彼らは入れ替わり立ち替わり満足するまで俺を殴り続けた。

 心が折れそうになるほどしこたま殴られた後、再び尋問が再開した。

「〈正直者よ〉貴方について教えて下さい。出身、年齢、レベル」
「ガンダルシア直轄領第25開拓村。18歳。レベル11」
「〈正直者よ〉目的は。ガンダルシアからはるばるこの街にきた目的」
「役職を変える手段を探すため。王国一のマルチウェイスターの技術力なら何か見つかるかと思って」

 俺の目的を聞いて衛兵たちが顔を見合わせて少し驚いた表情をした。そして馬鹿にしたように無理だろと笑い合う。

「〈正直者よ〉なぜ役職を変えたい?」
「俺は【■■■■】じゃない。役職を変えて俺は俺の人生をとりもどすんだ」
「とりもどす? ならなぜ衛兵を殺そうとした。そんなことすればとりもどすどころか人生終わるぞ」
「殺そうとはしていない! 攻撃されたから逃げるために反撃しただけ。誰も死ななかったはず。首は折っても頸髄をねじきってない。ちゃんと〈ヒール〉で治るように加減した」

 さっきまで声を荒げていた衛兵たちもすっと冷静な顔になった。全員が警戒するように俺を見つめる。全方位から視線が突き刺さる。

「うわ、よく見ればいつでも逃げられるように縄ほどいてやがる」
「すぐ縛りなおせ! 封印スキルもちを呼べ! 全力で拘束するぞ!」

 衛兵隊たちが何人かで俺を押さえながら大慌てで出ていく。羽交い絞めにされて地面に押し付けられた俺は目の前の衛兵を見つめた。

「ま、待ってくれ。 俺はいったい何の罪で拘束されているんだ?」
「公務執行妨害、殺人未遂、他者に対する攻撃スキル無断使用、あと窃盗。ゴミ漁りも犯罪だ」
「ゴミ漁りはそうだけど、他は違う。俺は衛兵隊を語る異常者たちに襲われたから抵抗したんだ。彼らは衛兵隊だと俺に言わずに攻撃してきた。だから衛兵とはわからずに反撃したんだ」
「〈正直者よ〉本当に衛兵とわからず攻撃した?」
「いいえ。でも明言されなかったから反撃しても大丈夫だとおもった」
「ぶち殺すぞテメェ」

 俺を押さえていたひとりの衛兵が殴りかかってくる。拳を額で受け止めて逸らす。人数が減った拘束を抜けて、そのまま縄の隙間に殴ってきた男の体をはさんだ。そして彼の顔面をつかまえ、両方の眼球に親指をかける。いつでも貫けるようまぶたを抑えながら彼の恐怖におびえる顔を見つめた。

「〈ヒール〉も間に合わない戦い方もある」

 親指で彼のまぶたをなぞる。このまま目を貫き、脳をかき乱せば即死させることができる。だがそんなことをする気はない。

 俺は指を離して、そのまま尋問用の椅子に座りなおした。

「本当に殺そうとはしてません。正当な判断をお願いします」

 渾身の懇願……だったにもかかわらず。俺はその後、何重にも拘束され、殴られた。

「衛兵なんていつでも殺せるってか。【(仮)槍聖】ナイク。最後に質問だ。〈正直者よ〉今まで何人殺した?」
「■■■■■■」
「答えろよ! クソが!」

 さっき眼球に指をかけて脅した衛兵からもう一度本気で殴られる。彼はまるで恐慌状態になった新兵のように何度も何度も俺を殴りつけた。

 【死霊術師】はDFE(頑健さ)のステータス値のひくい役職。子供の頃から戦士として鍛えてれていたから何とか耐えられているが体には簡単にダメージが入った。

「洗いざらい答える気になるまで続けるからな。テメェが正しいかどうかなんて関係ない衛兵隊が明日の殺人鬼を野放しにするわけにはいかない。絶対に吊るしてやる」

 そう言われて、俺は再び床に転がされた。ありとあらゆるスキルで体を拘束されて牢に封じ込められた。



 それから四日。光すら届かぬ牢の中で俺は完全に無視された。


 尋問も扉越しで行われだれも牢の中にはいってこない。飯どころか、水も与えられず自分の体がどんどん衰弱していくのを感じていた。

 子供ころから父にしごかれていたおかげで、痛みには慣れている。少し殴られるくらいなら耐えられるが、この状況はあまりにもどうしようもない。俺は悪くないといっても信じてもらえなかった。

 〈隠匿〉で隠していることがあるせいで、真実を喋っても信じてもらえない。そして隠していることは喋るだけで処刑台送りの秘密だ。絶対に打ち明けることはできない。

 どうすることもできない。
 このままいつまでも自白するまでこの拘束が続くのだろう。
 俺はゴミを漁っていただけ、何もしていないのにどうしてこうなった。

「明日の殺人鬼は今日既に殺人鬼か……」

 衛兵隊の言葉を思い出す。彼らは俺が危険人物だと思い込んでいた。野放しにできない危険人物だから拘束していると。

 状況を待っていても何も変わらない。助けてくれる人も、傷を〈ヒール〉してくれる人もいない。俺は開拓村の【槍聖】の息子ではなく、ただの怪しいゴミ漁りだ。

 どうしようもない。
 あまりの無力感に泣きそうになった。

「泣いちゃうの?」

 突然声がして頭を上げる。

「毎回暴れて対処できないってきいてきたのに」

 目の前に立っていたのは俺を捕らえた金髪の少女だった。牢の扉は開いていない。煙のように突然目の前に現れた彼女はジッと観察するようにこちらを眺めて、大きくため息をついた。 

HP(生命力) 0。やりすぎ」
「HP?」
「あ、私〈鑑定〉スキルあるから」

 〈鑑定〉は情報スキルの頂点だ。鑑定している道具の効果や、相手の名前、レベル、役職、そして所持するスキルや現在のステータス値まで全てを見通すことができる。とても優秀なスキル。
 〈鑑定〉を覚えているだけでどこに行っても仕事に困ることはないと言われてい……

 名前、レベル、役職!


 俺は痛みも空腹も忘れてガバリと飛び起きた。

「見えてる?!」

 焦って飛び起きた俺を見て、少女は面白そうに笑った。

「意外と元気だ。残念ながら見えてません。あなたのステータスは〈隠匿〉のせいでほとんど見えない。この私が頑張って目を凝らしてようやくステータス値が見えるくらい。多分衛兵隊の人たちでは逆立ちしても破れないと思う」

 すこし悔しそうに、それでいて自慢げに胸を張る彼女の胸は、少女というには大きい。というか、低い身長から考えるとかなり大ぶりなほうだった。

「だからやりすぎたんでしょうけどね」

 少女はそういうと、うんざりしたように首を振った。

 とりあえず【死霊術師】はバレてなさそうだ。

 一安心して倒れ込むと、ポトリと目の前に何かが落ちてきた。

 食事と水そして、とられていた槍の穂先と腕輪だった。

「あげる。パパの形見大事にしてあげてね」

 パチンと少女が指を鳴らすと俺を縛っていた縄は萎れてカラカラになった。

「今回の件、私の方で全て確認しなおしました。基本的にあなたが100%悪い。人の家からでたゴミはその人の所有物、街が回収した後は街の所有物。その間に奪い取るあなたの行為は窃盗です」

 久しぶりに自由になった手足に感動している俺の前に少女は屈みこんだ。

「そこまではあなたが悪い。ただし、そこからはあなたの主張通り衛兵隊の方にも非があった。本来拘束の衛兵隊の公務執行前には勧告と証明が必要です。証明もなしに攻撃すれば街民にも反撃する権利がある。衛兵隊の隊服は見たら分かるからそんなことは普通は起きないのだけど……あなたはよそ者だもんね。知らなくて反撃してもおかしくない。あなたの罪は、あくまでも窃盗に過剰防衛と過失致傷であって、傷害罪にも殺人未遂にも当たらない。それにもかかわらず衛兵隊はあなたを不当に拘束しつづけ、HP0になるまで暴力を振るった。さらに私物である装備品も没収しようとしている。完全に越権行為です。衛兵隊に任せたのは私だけど、いくら衛兵隊といえど私の街民にこのような横暴は見過ごせません」

 少女はエッケンだのカジョウボウエイだの難しい言葉をいくつか並べた後、もう一度俺の顔を見つめた。


「あなたの罪と衛兵隊の暴力行為を過失相殺といたします」


 少女がパチンと指を鳴らすと物置の奥に扉が現れた。扉は音を立てずに開き、そこはそのまま外の空中に繋がっていた。そしてすぐわきに下へ向かうための乗り物のような自動人形(ゴーレム)がぷかぷかと浮かぶ。

 少女はどうぞというように外へ手をむけた。

「いいのか? 俺色々隠してるけど」
「はい。ステータスを隠すのは罪ではありません。嘘の役職を詐称したとかなら話は違うけど、あなたは調査にちょっと非協力なだけの普通の街民です」

 先ほどの衛兵たちとのあまりの態度の違いに少し戸惑うが彼女は面倒くさそうに首を振った。

「ですが衛兵隊にも面子があります。なのでひとつ、あなたには懲罰労働を課します。今度、冒険者ギルドが大規模クエストを発行いたします。それに参加してください。そこでしっかりと課せられた仕事を成し、あなたは犯罪者ではなく、有用な冒険者だと示しなさい」

 彼女はそういって一枚のチラシを押し付けてきた。それは冒険者ギルドの勧誘のポスターのようであった。

「彼らには私から話しておくので、ややこしくならないよう今日はこっそり帰ってください」

「あ、ありがとう」


 少し困惑しながら、礼を言うと彼女は嬉しそうに微笑んだ。俺は促されるまま、扉を通り、ゴーレムに乗り込む。少女がふたたびパチンと指を鳴らすとゴーレムは下にむかって下降しはじめた。

 少女に一度お礼を言おうかと扉の中をみるが、彼女はさっさと行け、というよな仕草をしながら、小さく口を開いた。

「必ず来てくださいね。【死霊術師】ナイク」

 扉はパタンと閉じ、煙のようにフッと消えた。


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あとがき設定資料集


【祭司】
※HP 7 MP 5 ATK 2 DEF 7 SPD 3 MG 6
〜祭りに怪我は付きものだ。でも祭司がいれば一安心。ぽぽいのぽいで元通り。さぁ、もう一回行ってみよう!〜

簡易解説:魔術系統の役職。神職。〈ヒール〉や〈キュア〉といった聖魔法を得意とし、高い防御力も相まって戦闘で祭司を倒すのは至難の業である。神職であるが良くも悪くも俗っぽい人が多い。