爆発は一瞬だった。
数えきれない無数の記憶が、頭の中を駆け抜けて消えていく。
死霊たちの最期の輝きを力に変えて、俺の右手は爆ぜた。
消えゆく魂たちが残した虹色の光があたりを包み込み、俺の体は衝撃で吹き飛ばされた。死霊たちの補助を完全に失い。衝撃波にもみくちゃにされる。
空中に投げ出された体は、どっちが上で、どっちが下かすら分からなくなり、受け身も取れないまま、地面に激突して無様に転がった。
しばらく転がったあと、俺は岩にぶつかって、ひっかかるように止まった。
頭を強く打ったせいで、視界がぼやけている。
どうなったのかの確認のために、隠匿竜がいた方を見るが、そこにあったのはえぐれたような爆発痕と地面を転がるアンヘルだけだった。
『ナイク! 上!』
見上げた空に大きな口。
隠匿竜がふってくる。
咄嗟に槍を抜き、地面に〈叩きつけ〉て、自分の体を転がす。
隠匿竜は狙いを外し、俺の横の空間を押しつぶした。
こいつ!
まだ生きている!
下顎が消し飛び、
二度と閉じることができなくなった隠匿竜の口から血と唾液がまき散らされる。
ダメージは入っているが、致命傷には至っていない!
隠匿竜の殺意はゆるめることなく、むしろ憎悪を増したようにこちらに襲い掛かってきた。
情けなく、はいずりながら隠匿竜から離れようとするも、さきほどの0.5秒の無茶の影響か、ほとんど体は動かなかった。
「〈樹壁〉」
「〈結界〉」
地面から木の根が生え俺を包み、白い結界がその上を覆う。
【榊】と【僧侶】が竜と俺の間に挟まるように立ち塞がった。
「うちらが前衛かい」
結界の上からガンガンと叩かれ、何度も何度も割られながらも、彼女たちは割られるたびに結界や壁を付け足していった。
【榊】さんの腕で庇われながら隠匿竜の攻撃を耐える彼女たちを見守る。
だが待っても前衛たちが起き上がる気配はなかった。
「ガキどもが頑張ったのに、あんたらが寝とってどうすんねん!」
【榊】さんの叫び声から一拍おいて、バチチチと大きな音がして矢が隠匿竜の背中に突き刺さった。
隠匿竜は痛みで叫び声をあげる。
閃光で照らされた隠匿竜の背中はアンヘルの攻撃の爆発で抉れていた。鱗は一枚残らず剥がれ落ち、青緑の体液が滴っている。
爛れたブヨブヨの肉に、一本、二本と矢が刺さる。
再生した片手片足だけで跳ねながら、【雷弓】は再び口で矢をつがえた。
隠匿竜は【雷弓】に標的を変えるも飛び上がろうとした隠匿竜の脚は何者かにつかまれた。
地面を這いずってきた【炎刃】と【水斧】が必死に両足を押えている。
がら空きになった隠匿竜の背中に今度はブスリブスリとナイフが刺さり、隠匿竜は苦しさに身悶えした。
「ナイク。あんたはようやった」
【榊】さんが戦いの隙をついて、俺の右手を握って〈ヒール〉をかける。
彼女はフラフラと、すでに足元がおぼつかないほどに疲弊しながらも、それでも確実に俺の吹き飛んだ右腕を治した。
「あとは任せとき。なんかあっても一人で逃げるんやで」
【僧侶】が常に〈スキルブレイク〉を維持しなければいけない都合上、冒険者たちの治療は【榊】ひとりに集中していた。彼女ももう限界。MPも尽きるだろう。
それでも、彼女はまた立ち上がり、目の前の隠匿竜に啖呵を切った
「大丈夫! うちはまだいけるで!」
木の根が地面から生えて隠匿竜を包みつぶそうとする。
必死に暴れようとする隠匿竜の脚を押える【炎刃】と【水斧】。そこにいつのまにかアンヘルと【暗殺者】、【雨乞い巫女】まで加わり、隠匿竜は完全に抑え込まれた。
全員ギリギリ。
木の根が隠匿竜の顎をさらに引き裂く。
ふらっと崩れ落ちる【榊】をささえて、俺は震える指で自らの腕輪を外し、彼女の方へ左腕につけた。俺の装備品の古き邪神の腕輪を左手につけるとMP自動回復効果がある。気休めにしかならないかもしれないが、ないよりはマシだ。
「MP回復…………です」
「逃げろってのクソガキ」
【榊】が俺を振り払って、また立ち上がる。
「野郎ども!気張れや!」
【榊】の言葉に冒険者たち全員が隠匿竜に向かってゆっくり立ち上がった。
『ナイク』
フリカリルトの羽虫ゴーレムがこちらをジッと見つめた。
『あなたはいい冒険者になれます。死なないでください』
隠匿竜の方をみれば、巨大な嵐が隠匿竜の上に落ちたところだった。
嵐に囲まれて逃げ場を失った隠匿竜は気持ち悪くなるくらいの重低音でうめきながら、またすべてを振り払い再度飛び上がった。
バチっという音と共に雷のような矢が隠匿竜を追いかけ、その腹に綺麗に突き刺さった。そして爆発するように高電圧の電流が矢から流れ、隠匿竜は発光し、雷のような柱が立った。
隠匿竜はうめき声を上げ、ビタリと地面に落ちた。
「今じゃぁぁぁぁぁぁ!」
【暗殺者】の言葉を皮切りに冒険者たちから最後の力を振り絞った魔法やスキルが雨のように降り注ぐ。
炎の刃が肉を焼き、嵐が足を掬う。投げられたナイフが喉奥に刺さり、幾重にも重ねられた魔法玉が何度も何度も隠匿竜の背中を殴りつけた。
耐えきれなくなった隠匿竜は大きく腹を震わせた。重低音の金切り声が、地面を揺らす。
倒せる!
そう思った時、周囲がいきなり真っ暗になった。
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「なにが…………?」
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『情報! 第一班が光咲く大樹の木霊討伐! それに伴いダンジョン中の明かりが落ちました』
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「【槍聖】! 隠匿竜はどこじゃ!」
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「見えない…………」
「見えない? ナイク!」
もう死霊はいないのだ。俺には何も見えない。
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「ライン!」
「いる! 近く! 【僧侶】さんの!」
グチャ。
何かがつぶれた音がした。
『■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■』
「!? ■■■■」
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先ほどまで聞こ■■■た声すら聞こえ■■■る。
それと同時にダンジョン中を覆っていた〈スキル繝悶Ξ繧、繧ッ〉が消え、〈■■〉がまた使えるようになった感触がした。
俺も、隠■竜も、
〈隠匿〉がまた使えるようになった。
