呑まれゆく【死霊術師】は普通になりたい ~役職バレたら即処刑、禁忌役職の隠匿生活~






「しょうもない男になれ」




 親にそう言われて育った。


「ナイク、お前は悪だ。生まれながらの邪悪。いつかわかる日が来る。だから俺には、お前をとびきりまともで、とびきりちっぽけで、とびきり優しいやつに育てる義務がある。英雄になんてならなくていい、弱くていい、モテなくていい、誰にも必要とされなくていい。お前は誰よりしょうもなくて、誰より人を愛せる男になれ」

 そんな父は俺が11歳の時に魔物に食われて死んだ。辺境の開拓村で最強の戦士だった【槍聖(そうせい)】は魔物の群れに食い殺された。子供たちを庇って少しずつむしり取られていく父の姿を俺はただ見ていることしかできなかった。


 父が食われている隙をついて他の子供たちを率いて村に逃げ帰った俺は邪悪だったのだろうか。


「ナイク! 忘れるな! お前は普通になれ!」

 背中から投げかけられた父の言葉は今でも心に刺さっている。魔物に居場所をバレてはいけなかったから返事することはできなかったけど、それが俺と父の最期の会話だった。



「普通ってなに? 魔物を恨むこと?」


 みなしごになった俺は一人で父の葬式をした。村人たちが止めるにもかかわらず夜な夜な危険な森に入って魔物を狩り、肉片も残らなかった父の代わりに棺の中にもぎとった魔物の頭蓋を山ほど入れた。

「いつかここに魔王の首を入れてあげるね」

 そう決意した幼い頃の俺は今思えば間違いなく危険で邪悪な子供だっただろう。村の大人達にまじって魔物と戦い、彼らにしごかれているうちに復讐心だけで戦ってはいけないことは分かった。

 守る心が大切なのだ。
 子供を、家族を、友を、恋人を守りたいという想いを胸に戦う開拓村の仲間たちをみているうちに、守る心を持つことこそが父が俺に望んだ人を愛せる男になるということだと理解した。


「俺は父と同じ【槍聖】になる。親父のように子供たちを守れる男になる」

 そう決心したはずだったのに。
 村のみんなも笑顔で応援してくれたのに。
 



 【死霊術師】
~優れた剣士が1人で3人殺す間に、 優れた魔物使いは100人殺し、 死霊術師は城を落とした~


 女神様の神託を告げる水晶の中から浮かんできた文字は、俺の役職をうつしてクスクスと笑うようにゆらめき踊った。

『人類の1/3を殺した最恐最悪の六禁役職だよ! きゃっ! 大変だぁ!』

  水晶に書き足されたその言葉は、その場でくるりと一回転し、そのままぴょこぴょこと跳ねている。 その姿はまるで面白いものを見つけた悪戯な女の子のように見えた。


「ナイクさん。あなたを〈拘束〉させていただきます」
「そんな……何かの間違いだろ」

 【祭司】は悲しげに首をふり俺の手に手錠をかけた。その瞬間に体に痺れが走り、指一本たりとも動かせなくなる。おそらくこの【祭司】のスキルだろう。もはや何の抵抗もできなかった。

「残念ですが、女神様はヒトの人格、能力、嗜好、すべてを見通して役職を授けられる。あなたはまだ何もしていませんが死すべき極悪人です」 
「少し時間をください。一晩だけでいいんです。両親に別れをいいたい。ここまで育ててくれた両親にさようならを言わせてください。お願いします」


 自分でもビックリするほど流暢にでてきた嘘。神託のためにこの村を訪れただけの【祭司】は俺の両親がとっくの昔に死んでいることなど知る由もなく、その言葉に感動し俺を解放した。

 一晩だけの約束。【祭司】は一晩だけ役職を誰からも秘密にしてくれると約束してくれた。






 その晩、俺はその【祭司】を殺して村を逃げ出した。