明けない夜も、君のそばにいる。

「……どうして、そう思うの?」
「私、黒宮に来る前に、結明(ゆめ)さまに会って……。遥流(はる)さまが、王太子になったせいで、王室で孤立している、って聞いて……。それで、今日、あのパーティーの会場に行く前、海衣(かい)さんと会ったんですけど、その時、遥流(はる)さまの手が、震えていて……」
 月璃(るり)さんは、どこか遠い目をしている。
「そうですね……。あの二人の仲は、とても悪いよ。まあ、海衣(かい)さまが一方的に嫌っている感じだけどね。王太子さまは、海衣(かい)さまのことを嫌ってはないと思うけど。まあ、黒宮の人間は、みんな王太子さまのこと嫌ってるけどね。……王妃さま一族と一部の人間以外」
 そう、だったんだ……。
 結明(ゆめ)さまも月璃(るり)さまもそう言うのなら、絶対にそうなんだろう。
「……王太子さまは、なんにも悪くないのにね」
 第二王子なのに、王太子になったことが、海衣(かい)さんの怒りを買ったらしい。
「……黒宮では、すごく酷い目に遭っているの。私は、幼い頃にこの館に来たんだけど、王太子さまの分のお食事が用意されていなかったり、服が引き裂かれたり、蔵に閉じ込められたり……。海衣(かい)さまが殴ったり蹴ったりしているところを見たこともあるわ……。王太子さまを庇ったメイドがクビになったこともあった」
 そんなことが……。
 結明(ゆめ)さまから聞いたのは、遥流(はる)さまが黒宮で孤立しているという話だけだった。
 そんなに酷い目に遭っていたなんて……。
「……菜花(さな)さんなら、王太子さまを救えるかもしれない、って、王太子さまの婚約話を聞いた時に思ったの」
「え……?」
「だって、菜花(さな)さんは、白神から来たから、王太子さまが嫌われていること、知らないだろうなと思って。妃だから、王太子さまも心を許すかも、って……。私、一度だけ、王太子さまの、捨てられた靴を拾ったことがあるんです。その時、『月璃(るり)さんは、海衣(かい)さまの妃だから、僕とは一緒にいないほうが良い』って言われて……」
 どこか寂しそうな顔をしながら、月璃(るり)さんは話す。
「最初、王太子さまの婚約者は、黒宮で絶大な権力を握っている、五百城(いおき)家の姫だったの。えっと、五百城(いおき)家っていうのは……。海衣(かい)さまのお母さまの家は、波來田(なきた)なんだけど、そこの本家。…………海衣(かい)さまのお母さま……埜瑛(のえ)さまの親戚だから、もちろん王太子さまのことを嫌ってて……。だから、本当に嬉しかった。他国の姫が王太子さまの妃になる、って聞いたとき、これで、王太子さまも幸せになれるかも、って…………」
 そうか。
 私は、確かに何も知らなかった。
 …………結明(ゆめ)さんに聞かなかったら、遥流(はる)さまが王室で……黒宮で孤立していることも知らなかった。
「敵国の姫。って聞いたから、黒宮の人を嫌っているかもな、とか心配していたけど、菜花(さな)さんなら大丈夫だね」
月璃(るり)さん……」
「ねえ、お部屋の片づけが終わったら、二人でお茶でもしない?菜花(さな)さん、あんまりごはん食べてなかったでしょ?」
「ありがとう。じゃあ、片づけが終わったら、お部屋にお邪魔するね」