会うはずのない君と出会ったら

この状況を楽しもうと約束し、俺の考えも肯定してくれた木野葉と家の前で待ち合わせをしている。
明日は土曜日、部活もなければ家族との予定もない俺に木野葉は街へ出て様子見も兼ねて遊ぼうと言ってくれた。友達と出かけることに抵抗感しか無かった俺は初めての事にドギマギしてしまい、そんな俺を見て木野葉は笑いながら肩をそっと叩いてリラックスして来て頂けたらいいんですよと言ってくれた。
家に帰り明日の服をどうしようかと考えていると木野葉の顔がチラつくし、言葉が頭を占めている。
思い返せば木野葉はイケメンだ。俺を標準と考えて木野葉の見た目は確かに細いし透けそうだが弱さは感じない。身長もそこそこあるし、顔だって整っている。真剣な顔も笑った顔も見れるなんて整ってないとありえないことだ。しかも言葉に芯がある。木野葉の放つ言葉はいつも俺をドキリとさせてきた。怖さも心地良さもどちらも兼ね備えた木野葉の言葉に今も脳を侵されているのだから威力を感じざる得ない。しかも行動まで洒落ている。適度な距離感とボディタッチに俺は心を絆される。
手を掴まれても嫌じゃないのは木野葉の距離の取り方が上手いからこそ嫌味がないんだろう。
クローゼットの中は派手な色はなく無難な色ばかり選んできた俺の冒険心の無さが見えるようでため息が出る。木野葉は多分オシャレな服を着てくるだろう。そうしたら俺なんて隣を歩けるのだろうか。考え出すと止まらずクローゼットを閉めて布団へ背中を預ける。倒れて見える天井はいつもと変わらず、このまま目を瞑ったら明日が来て服が決まらず、いつものコーデを着て待ち合わせ場所に行くのだろう。簡単に想像できてしまう明日の自分に少し笑えて、もう一度気合を入れてクローゼットに向き合う。明日の自分が笑われてももういいだろう。それが俺なんだ。無難な中でも自分がオシャレだと思う組み合わせを作ってハンガーにかける。いつもなら確認もしないカバンの中をチェックして持ち歩かないポケットティッシュなんてものを入れてみたりした。
それらが終わると急にそわそわし始めてしまい、時計を見れば22時を回っていた。遅刻する訳には行かないと布団に入って目を瞑れば疲れていたのかすぐに眠気が来た。

約束の日家を出るまで後30分というところだった。
昨日決めた服を着て鏡の前に立ってやっぱなんか違うか?と考えあぐねている時チャイムの音が鳴った。基本うちはチャイムがなるような用事を持った人間が尋ねて来ることはないので不思議に思いながらカメラを見れば玄関先に立っていたのは木野葉だった。驚きながらも玄関に急ぎ鍵を開ければ俺が戸を押す前に扉が開いた。
「おはよう、卯助」
「おう、おはよう」
目の前に木野葉がいる現実に戸惑い上手く返事できない俺を置いて木野葉は靴を脱ぎ部屋へ入っていく。
誰もあげたことのないこの部屋に友達がいる現実も俺を戸惑わせていた。
「準備は整っているかい?」
肩にかけたボストンバッグを置きながら木野葉は問う。できていない訳じゃないが納得いっていないなんて言葉にもできず言葉も出ずに喉から音が漏れた。
落ち着けば目の前の木野葉は想像通り私服が俺とは違いいわゆるオシャレに着ていた。木野葉の服を見て俺の服に目を落とせば無難といえば無難な面白みのない格好に心にモヤがかかる。
「そんなことだろうと思って持ってきたよ卯助の服」
心を読まれたように木野葉のセリフに目を見開く。
「休日に出かけるなんてだいたいひとりなんだろうと思ってね、お出かけ用の服を見繕ってきたんだ」
ボストンバッグの中から出てくる服と小物に出かけるにしては荷物が多いと思っていた謎が解ける。
「ありがとう」
「なんて事ないよ、僕が誘ったんだしね」
木野葉は持ってきたトップスを何着か俺に合わせながらこれとこれを着てと渡される。自分が持ってない色物の服を渡され反射で受け取る。
「それ着たら出ようか」
時間は集合時間を少し過ぎた辺りだった。
「そうだな」
腕の中に抱いた色のある服に少し嬉しくなりながら自分の部屋へ足を動かした。

学校に向かうように駅までの道を歩く。
いつもと違うのは制服じゃないこと、その私服が木野葉のものだということ。普段街へなんてほとんど出ないからかそれとも隣に私服の木野葉がいるからか心がどこか落ち着かないそれがバレないように平然を装おうとしても多分だが木野葉にはバレてしまうのだろう。分かっていても隠したくなるのが多分プライドなるものなのだろう。
「街へは学校とは反対に電車に乗るんですよね?」
「そうだけど、もしかして初めてだったりする?」
「いや、まあ初めてといえば初めてだね」
考える素振りを見せながら含まのある言い方に質問しようかどうか考える。
「記憶にないぐらい昔とかか?」
「まぁ、そうだね、自分の記憶の中にある街とは今はだいぶ違っているんだろうと思っているよ」
制服時より幾分か細身の体が隠れているせいか年相応に健康な男子に見え喋っている内容がに少し疑問点が生じてもなんだかそれほど気にならないくらいには今の格好と髪型に見とれる自分がいる。駅に着いても制服の集団の中のひとりではない今誰かから見られているのではと1人分空いていた木野葉との距離を少し詰めてしまった。木野葉はいつもの如く喋らず前を見据えていてきっとまた唐突に話し始めるんだろう脈絡のない話を。少しだけ埋まった木野葉との距離に肩の力が抜けた気がして同じように前を見ると腰に木野葉の腕が回された。
感覚に驚き隣を見ると同時ほどで引き寄せられ木野葉の不敵な笑みが視界に広がる。
「せっかくならこのくらいは近くてもいいんじゃないかな?」
「え、いや、え?」
自分の常識の中で話すのはとても簡単だがその常識がみんなに当てはまるかどうかは考えなければならないと思って生きてきた。その中で友達との距離感というのは常識の中にさっきくらいのことを言っていると思っていてこんな引き寄せられて肩の服が触れ合うほどの距離というのは常識なのかと高速で頭を回っている。今ここにいるのは俺と木野葉だけ、なら、常識はふたつのみ。木野葉はこの距離で俺はさっきの距離。ならば簡単だ話し合って折り合いをつけてお互いの常識を再構築すればいい。電車が来ず、休日の昼間に人の影はない。今この時話し合わねば。
「木野葉、近すぎじゃないか?」
「ん?こんなものでしょう?街に行けば人は多くなります。幅を広げて歩くには少し狭くはありませんか?」
もっともな意見にでもとでかかった声にブレーキがかかる。どうするべきかなんて考える間もなく俺の右では繋がれた。
「街はこの方がいいですよね」
にこにこという表現がピッタリなほど木野葉は笑っていて学校で見るよりも輝いて見えた。
電車が駅へ入るアナウンスが流れる、それでも駅のホームで俺たちの手は繋がれたまま人気のないこの場所でこれから来る電車を体温が伝わるこの距離で何も言わずに待っていた。