会うはずのない君と出会ったら

友達とはすなわちなんなのだろうか。小学生の時にいたかいないか程度の知識しかない俺に現在1番深い悩みだった。
知り合い、クラスメイト、友達、親友様々な呼び方があるが友達とは一体どうなれば友達なのかまだ知り合い程度の関係の可能性もある。初めて友達が出来たと喜んだ数日前の俺に今の俺が聞きたい。友達になろうと言われたのかと。
日本語は線引きが曖昧すぎる。それのお陰で変化しない日常を手に入れていた俺が今はそのせいで悩まされているのだから自分に呆れる。
日々の変化は着々と進んでいた。隣の席の前園は皮膚に鱗が見えだした。富田さんは今も教室にいて、前の席の清水の羽はみるみると大きくなり現在それで登校中だ。担任の先生はロボットのまま黒板は電子化され授業中ノートではなくタブレットやつともっと未来的なメガネを通して画面を見ているやつもいる。未来的と表現した時自分の中で仮説がたった。この歪みはミルフィーユ状に重なっている時空が掛け違えられて歪んでしまったのではと。急な話だが俺はひとつ好きな脚本家さんがいる。その作品ではよく登場人物たちが意味深なことを言う。恋は靴下の片っぽのようにいつかなくなる。とか、人生には3つの坂があって上り坂と下り坂とまさか。だとか、聞くとついつい考えてしまうセリフが多用されていてその作品のあるひとつに納得した仮説があった。それが時空はミルフィーユ状なのだということ。何層にも重なっていて行き来できてしまう者もいると。もし今の現状がミルフィーユの崩壊なのであれば説明ができる。人間という種族以外の知性を持ったものが存在する世界から来た前園。浅枝さんではなく富田さんがいる世界。天使などという神話じみたものが存在する世界の清水。なのだとすれば掛け違えられただけでまだ存在しているはずなのだ、元々の世界が。ミルフィーユが隕石のせいで崩壊したとしても崩壊し続けるとは限らない。まだ変化している今崩壊は進行中、でも、いつか止まって戻って行くはずなのだ。そう考えると変化は気づくべきこと。嫌いだからと目を背けるのではなくどう変わっていってどう戻ったかを気づきつづけなければいけない。
そうと分かれば俺が気づいていないことについて気づかなければならない。木野葉をこの考えに巻き込むか否か。いつも通り家を出ると木野葉が既に家の前にいた。
「おはよう、卯助」
「おはよ」
カバンを木野葉に当たらないように持ち替えて並んで歩き出すが、さっき考えていたことがどうしても気になってしまう。
「卯助、今日もあの公園へ行こう」
「今日もか?あそこの公園特に遊具らしいものもないしもっと大きいとこもあるけど」
「いいんだ、砂場と休憩スペースさえあれば」
木野葉は俺の方をちらりと見て前を向く。声のトーンがいつもよりも低く感じた。
学校に着いた時校門が大きな口に見えた。
「木野葉、あれ…」
木野葉も足の動きを止め校門をじっと睨んでいる。
口は開き続け、生徒をパクパクと食べているようだ。その様子見ていれば、腕が後ろに引かれた。
「サボろうか、卯助」
「え、どうやって」
俺が喋り切る前に木野葉は俺の腕に掴んで走り出す。学校に背を向けて駅方面へ一直線だった。
電車に乗れば通勤ラッシュなるものが終わり席がまばらに空いている、奥に腰掛けて、走ったことで熱を持った身体を冷ますためネクタイを緩め第1ボタンを外した。
「このまま公園へ行こうか」
木野葉は乱れぬ制服のまま俺をじっと見つめている。
声を出さずに頷けば木野葉も頷いて前を見た。

電車から降りて公園へ向かう、電車から降りる時から俺の手は木野葉に掴まれていた。
迷子にでもなるのかと言うほどがっちりとだ。
でも、その手を解こうとは思えずされるがまま手を引かれながら道を歩く。制服の俺たちが浮いてないかだけ気になったが、周りの人は俺からすると人間に見えないものも多く自分が違和感になりうるのかどうかも分からなかったため、考えることをやめた。
公園へ着けばベンチへと問答無用で向かい座らされた。
「卯助、これからの話をしておかないかい」
「これから?」
唐突に始まった木野葉の言葉に思考が追いつかず聞き返す。木野葉は俺の手を握り直してこちらを見ながら再び同じセリフを繰り返した。
「これからの話をしておこう」
これから。それは何を指しているのだろうか、変化していくこの世の中で変わらないとも言えない俺たちのこれからなんて話こそしてもその通りになるかも分からない。なら、変わってしまっとしてどうするかを話し合うのだろうか。疑問が頭に浮かぶが声にはならず続きを促すように木野葉の目をみつめた。
「卯助は、こちら側の世界の人間だというが俺たちの他にもいると思うか?」
「いないとは言いきれないと思う」
「私もそう思う、でも、ここから先私たち以外で見つけた場合」
その場合、木野葉は離れてしまうのだろうか。
そこまで聞いた時、俺の頭にはその言葉が心で浮かんでいた。
運命の糸のように、壊れた世界で偶然であった俺たちが今こうしているのは唯一の共通点があったからで、その共通点を持つものが他に現れたらなんて考えてもいなかった。でも、そうなった場合。俺よりもそっちを取るのではないか、木野葉は選ぶのだろうか、どちらを取るかを。
「卯助、聞いているか?」
「え、うん。俺たち以外にいたらだよね」
「もしいたら、私は君以外は選ばないから間違わないでいておくれよ」
「え、どうゆうこと?」
言葉の意味を咀嚼しても、飲みきれない処理量に聞き返せば木野葉は綺麗に微笑みながら言う。
「何らかの選択肢を選ばなければならなくて、その中に君がいるのなら私は躊躇わずに君を選ぶ。」
言葉が心に届いた時、俺は何故か泣いていて木野葉は俺を抱きしめてくれた。その時俺は友達では何かとも言えないこの木野葉との関係に納得した。唯一無二の関係性だから、言葉などないのだ。
「木野葉、俺もだよ。」
「俺もなんだ?」
「俺も、木野葉以外を選ぶことはないから」
抱きしめられたのはいつぶりか、覚えてもいないほど昔の記憶て忘れていたけど、こんなにも暖かく、安心するんだなと木野葉の肩に顔を埋めながら思う。
「木野葉、いい匂いするな」
「そうか?自分ではどんな匂いがしておるのか分からなくてね」
「俺が思うにいい匂いだよ」
木野葉は俺が離れるまで抱きしめ続けてくれて背中をさすってくれていた。
気持ちが落ち着いて木野葉から離れればなんだか恥ずかしくなって目を逸らす。
「卯助、どうしてこちらを見ない?」
「いや、なんかさ、恥ずかしいと思って」
「恥ずかしい、何がだ?」
「別に、言わなくていいだろ、」
木野葉に言えず、ベンチで少し距離を取ればすかさず詰められて木野葉は手を重ねてきた。
「この世界に偶然にも会えたんだ、楽しまないとそんじゃないか?」
「楽しまないと…」
「もしこの世界が元に戻った時、かけ違えた世界で出会った私たちは記憶を持ったまま戻れると思うかい?」
確かにそうだ、この変化した世界の記憶を俺たちが持つなら、他のものも持っているはず。でもこんなふざけた世界が脳内にあったらおかしくなってしまうものも出るだろう。なら、この記憶は残らないのではないか。
「持って戻ることは、ほとんどないだろうな」
「では、楽しまないと損ではないか」
「そうだな、今のうちに楽しんどくか」
恥ずかしかったはずなのに、そう言った木野葉の表情が気になって結局そちらを見てしまう。
そよ風に揺れる髪と少し伏せられた目、緩んだ頬に俺はなんて綺麗なんだろうと感想を抱く。
「楽しむって言っても何するんだ?」
俺が朝考えていたことはすっかりとなりを潜め、楽しもうという誘いが温まる心となんだろうという期待感で頭の中は埋め尽くされていた。だからだろう、またしても木野葉の発言に身体が固まったのだ。
「まずは卯助が考えていることを教えてもらってから話をしようか」
そうだ、お互いが言い合わなければ対等ではないし俺だけ安心しても意味が無い。
考えを言うだけ、ただそれだけなのにどうしてか俺の口はピクリとも動かない。
「だいたいは分かっているよでも、卯助の口から聞きたいんだ」
握っていた手が離されて間もなく俺の手は木野葉の両手に包まれた。
大丈夫だとでも言うように。
「…俺たちは、戻るタイミングを知らないといけない。だから、変化して行っている今元に戻る変化を見逃さないようにしないといけないと思う。」
「そうだね、」
「さっき、木野葉は今を楽しもうと言ってくれた。それはとてもいいアイデアで俺もそうしたい。でも、変化を1番感じ取れるのは学校だと思う。」
俺たち学生はほとんどを学校で過ごす、しかもクラスがある分基本的に関わる人が変わらない。そうなると変化が進んでいるのか戻っているのかは学校がいちばん気づきやすい。
「とてもいい考えだと思うよ。卯助、ありがとう」
「ありがとうなんてそんな」
「ありがとうだよ。卯助が自分のことを話すのはとっても勇気がいったはずだよ」
木野葉は短い時間の関わりで俺のことをよく知っていると思う。今回だってこの話をするのにとても体力を使った。
「うん、頑張ったよ俺。」
「だから、楽しいことも変化を見逃さないことも学校でしようか」
「そんなことできるのか?」
学校と楽しいが結びつかない俺に木野葉はそっと頭を撫でながら言う。
「なんでもできるよ、私と卯助なら」
公園のベンチで、学校にいるはずの学生ふたりが秘密の話をする。前の俺なら全く想像もつかなかっただろう。でも、今の俺なら予想がつかないことも割と平気になったかもしれない。木野葉がいるなら今の俺はなんでもできる気がするんだ。
「木野葉、ありがとう」
「私は何もしてないよ」
「してくれたんだよ、だから受けとって」
木野葉の両手の上に俺の手を重ねて少しだけ力を込める。ありがとうが伝わるように。
ありがとうもそれを伝えたいと思ったことも今までの俺ならありえないことなのに、木野葉には届けたい。