◇
久瀬のばあちゃんの家は、広い敷地に建った古い木造二階建てで、冬になるとひどく冷える。
凍えながら廊下を小走りでやり過ごし、居間に飛び込んだ俺は、炬燵の一辺に滑り込んだ。
石油ストーブは、ぼうっという低い燃焼音を立てながら部屋を温めていて、独特の灯油の匂いがうっすらと漂っている。加湿器代わりに乗せられたやかんが、ストーブの上でかすかに蓋を鳴らしていた。
俺がこの久瀬に引っ越してきてから、年が明けた元日。この町で迎える、初めての正月だ。年末は大掃除に駆り出され、そのうえ母さんとばあちゃんは正月料理だなんだと、ずっとせわしなく動き回っていた。
その反動みたいに、今は二人そろってこたつに根を下ろしている。
みかん、お菓子、湯呑み、急須、ティッシュの箱まで、しばらくここから動く気はないと言わんばかりに、手の届くところへ寄せ集めてある。テレビでは正月特番が流れていて、ばあちゃんは「この子よう出とるなぁ」だの、母さんは「また変なこと言うとるわ」だの、ろくに真剣に見てもいないくせに、好き勝手に画面へ相槌を打っていた。
「あんた、なんか食べたいんやったら、お節とかお雑煮とか適当に摘まみぃ」
そう声をかけてきた母さんの言葉には、私はもう動かんで、という意思がはっきり滲んでいる。
そういえば、確かに腹は減っている。朝いちど起きて新年の挨拶をして、三人でお節を食べたあと、俺はまた部屋で少しうとうとしていた。今はもう昼過ぎだ。
俺はこたつから抜け出して台所へ向かった。お節の重箱と取り皿、それから袋に小分けされた餅を二つ、無理やり抱えるみたいにして居間へ戻る。ストーブの上のやかんをいったん脇にどけ、金網の上に餅を並べていると、ばあちゃんと母さんが俺の持ってきた重箱を勝手に開けた。
「取り皿と箸、あとふたつ持ってきてやぁ」
案の定だ。極力こたつから出ずに俺を使うつもりらしい。少しだけ不服に思いながらも、俺は二人分の取り皿と箸を取ってきて、こたつの上に置いてやった。
餅が焼けるまでには、まだ少しかかりそうだ。俺はまたこたつに足を突っ込む。
「あんた、今日、夜宮行くんちゃうの?」
母さんが黒豆をつまみながら尋ねてくる。
「ああ、うん。もうちょいあとでね。今行っても、澄どうせ手伝いで遊べないし」
「ああ、そっかそっかぁ。母さんもあとでお参り行こかな。一緒に行ってええ?」
「お好きにどうぞ」
適当に相槌を返しながら、ふと目を落としたスマホの画面に通知が来ていた。届いた時間は朝だ。俺が二度寝をかましているあいだに入っていたらしい。
足元はじわじわと温まってきて、ついそのままこたつに沈んでいたくなる。けれど、メッセージを見た瞬間、その気分はあっさり吹き飛んだ。
俺はほとんど反射で立ち上がる。
「母さん、俺やっぱもう行くわ。餅、二人で食って」
「え? そう? はいはい、わかった。いってらっしゃい」
部屋に戻って、ダウンを引っかけ、マフラーを巻き、耳当てまでつける。そのまま小走りで玄関を出て、自転車にまたがった。
外へ出た瞬間、空気が頬に刺さる。鼻の奥がつんとして、吐いた息はすぐに白くほどけた。
真冬の田舎道は静かで、タイヤがアスファルトを擦る音だけがやけに響く。道の脇には枯れ草が寝ていて、畑には薄く霜が残っていた。
最初のうちは手袋越しでも指先がかじかむし、耳も痛いくらい冷たい。けれど、ペダルを踏み込んでいるうちに、ダウンの内側に少しずつ熱がこもってくる。マフラーの奥は自分の呼気でじんわり湿って、首元だけが妙にぬくい。
白い息を吐きながら、俺はまっすぐ夜宮へ向かった。
神社に近づくと、参拝客らしき人たちが石段へ向かっていくのがちらほら見えた。それを自転車で慎重に追い越しながら、石段の下の空いた場所に自転車を停める。
東京の有名な神社なら、初詣なんて馬鹿みたいな行列ができるものだけど、夜宮神社は俺からしたらずいぶん平和なほうだ。
とはいえ、この久瀬の中では、今年はかなり人が来ている方らしい。そのせいで、例年なら年末年始ものんびりしているはずの澄まで、手伝いに駆り出されたのだと聞いている。
石段を上がると、境内には思ったより人がいた。
拝殿の前に短い列ができていて、社務所のあたりにも何人か人がたまっている。甘酒だか焼き餅だか、あたたかい匂いが少しだけ漂ってきて、冬の神社らしい空気だった。
「お、陽翔や」
「あ、ほんまや」
不意に聞き慣れた声がして顔を上げると、クラスメイトの男女が数人、甘酒のテントの前に固まっていた。紙コップを手に、立ちのぼる湯気に顔を寄せるようにして飲んでいる。
「あけおめー」
「陽翔も甘酒飲む?」
声をかけてくれたクラスメイトのほうへ歩み寄り、新年の挨拶を返す。けれど、口では適当に応じながらも、俺の視線はなんとなく境内のあちこちを探していた。
「今年、人多いよな」
「地元の人だけちゃうっぽいよな」
「ほら、夜宮のじいちゃんのご祈祷、ちょっと人気出とるらしいし」
俺が境内の賑わいにきょろきょろしているように見えたのか、そんなふうに説明が飛んでくる。
なるほど、と内心で思う。
全員の顔を知っているわけじゃないけど、たしかに見覚えのない人が多い。地元の人とは少し雰囲気の違う、観光ついでに寄ったような顔ぶれも混じっている。社務所の前には人だかりができていて、受付のところには英語表記が見えた。
澄のじいちゃん、俺の動画がきっかけで、ちょっとした名物みたいになってしまったらしい。
「陽翔、このあと暇?」
人の流れに目を取られていると、不意にクラスメイトの一人が声をかけてきた。
「このあと、みんなで山下んち行って、軽く新年会みたいなんするんやけど。ゲームでもしよって言ってて。来る?」
「あー、えっと……」
一瞬、言葉に詰まる。
澄との約束は、手伝いが終わってから、だったはずだ。まだ少し時間はあるし、そのあいだクラスメイトたちと過ごすのも悪くない。そう思いかけたのに、なぜかすぐには頷けなかった。
「行かんよ」
背後から、ふいに声が落ちてくる。
次の瞬間、コート越しに後ろから軽く抱き寄せられた。強くはないのに、体温だけは妙にはっきり伝わってきて、俺は思わず肩をすくめる。
「澄やん」
同級生の一人が、俺の背後に向かってそう言った。
腕がゆるんだところで振り返ると、そこにいたのは、白い着物に紺の袴をつけた澄だった。
「おお、かっこええやん。澄のその格好、初めて見たわぁ」
「ほんまほんま、似合うとるよぉ。なぁ、陽翔もそう思わん?」
「へっ……!」
急に話を振られて、俺はぴくりと肩を揺らした。少しだけためらってから、「う、うん……似合ってる」と頷く。
クラスメイトたちには言えない。
実は、俺はこれ目当てで、わざわざ少し早めに夜宮まで来たのだ。
朝、届いていたメッセージは澄からだった。手伝いで袴を着ることになったけど、寒すぎて中に重ね着しまくってる、みたいな、少し愚痴っぽいやつ。
前から思っていたけど、澄はやっぱり和装が似合う。
めちゃくちゃいい。
じいちゃんより、澄がご祈祷でもした方が、若い女の子の参拝客とか増えるんじゃないだろうか。
現に、向こうにいる外国人らしき女の人たちが、スマホを片手にちらちらと澄のほうを気にしている。たぶん、和装の男の子と写真でも撮りたいんだろう。けど、残念ながら、こいつは今、俺のことでそれどころじゃないのだ――と、そんな妙な優越感みたいなものが胸の奥に湧いてくる。
「澄も手伝い終わったら来ればええやん、山下んち」
「んー、行かん。陽翔と遊ぶねん」
澄が袴姿に似合わない、少し子どもっぽい口調できっぱり言い切るものだから、
「また二人の世界やんか」
「ほんまや、相変わらずやなぁ」
と、クラスメイトたちから茶化すような声が飛ぶ。
澄のこういう感じは、今に始まったことじゃない。だからみんなも、本気で引いているわけじゃないし、本人がそうしたいならそうすればいい、くらいの軽さで受け流してくれている。
それでも、少し気になる。
せっかく誘ってくれているのに、このまままた二人だけでいることを選んで、わざわざ輪の外へ出ていくみたいになるのも、あまりうまいやり方じゃない気がした。
「澄の手伝い終わったら、一旦連絡するよ。みんな先行ってて」
そんなふうに場を収めると、背中にべったりくっついている澄から、無表情なくせに「なんでや」と言いたげな空気がじんわり伝わってくる。
甘酒を飲み終えたクラスメイトたちは、「ほなねー」と手を振りながら、連れ立って山下の家のほうへ向かっていった。
その場に残ると、すぐ背後から澄のやや不満げな声が落ちてくる。
「ふたりで遊ぶいうてたやん」
「あんまり断りすぎるわけにもいかないだろ。せっかく声かけてくれてんのに」
「そうやけど……」
わかっている。澄はやっぱりまだ、俺以外の人との距離をうまく埋められないままなのだ。
俺は少しだけ表情を緩めて、宥めるみたいに澄の肩を軽く叩いた。
「まあ、気が向いたらにしよっか」
結局また、俺の方が折れる形になる。
「んで、何時ごろ終わりそう?」
「あともう一回、祈祷あるけど、それ終わったらもうええよって言われとる」
「へぇ。澄も祈祷やんの?」
そう聞きながら、頭の中では勝手に想像していた。紙垂のついた大麻を持って、神妙な顔で祓っている澄の姿。たぶん、かなり似合う。
「やらんけど、じいちゃんの横で玉串渡したり、お下がり配ったりはする」
「ほぉーん」
「陽翔も祈祷してもらう? まだ間に合うで」
「え、暇だしやってもらおっかな」
「ほな、一万円」
「まあまあ高ぇな」
「じいちゃんとの記念撮影付きや」
「いらなさすぎるんだけど……澄の部屋で待ってるわ」
そんなふうに話をまとめて、そこでいったん澄とは別れた。
久瀬のばあちゃんの家は、広い敷地に建った古い木造二階建てで、冬になるとひどく冷える。
凍えながら廊下を小走りでやり過ごし、居間に飛び込んだ俺は、炬燵の一辺に滑り込んだ。
石油ストーブは、ぼうっという低い燃焼音を立てながら部屋を温めていて、独特の灯油の匂いがうっすらと漂っている。加湿器代わりに乗せられたやかんが、ストーブの上でかすかに蓋を鳴らしていた。
俺がこの久瀬に引っ越してきてから、年が明けた元日。この町で迎える、初めての正月だ。年末は大掃除に駆り出され、そのうえ母さんとばあちゃんは正月料理だなんだと、ずっとせわしなく動き回っていた。
その反動みたいに、今は二人そろってこたつに根を下ろしている。
みかん、お菓子、湯呑み、急須、ティッシュの箱まで、しばらくここから動く気はないと言わんばかりに、手の届くところへ寄せ集めてある。テレビでは正月特番が流れていて、ばあちゃんは「この子よう出とるなぁ」だの、母さんは「また変なこと言うとるわ」だの、ろくに真剣に見てもいないくせに、好き勝手に画面へ相槌を打っていた。
「あんた、なんか食べたいんやったら、お節とかお雑煮とか適当に摘まみぃ」
そう声をかけてきた母さんの言葉には、私はもう動かんで、という意思がはっきり滲んでいる。
そういえば、確かに腹は減っている。朝いちど起きて新年の挨拶をして、三人でお節を食べたあと、俺はまた部屋で少しうとうとしていた。今はもう昼過ぎだ。
俺はこたつから抜け出して台所へ向かった。お節の重箱と取り皿、それから袋に小分けされた餅を二つ、無理やり抱えるみたいにして居間へ戻る。ストーブの上のやかんをいったん脇にどけ、金網の上に餅を並べていると、ばあちゃんと母さんが俺の持ってきた重箱を勝手に開けた。
「取り皿と箸、あとふたつ持ってきてやぁ」
案の定だ。極力こたつから出ずに俺を使うつもりらしい。少しだけ不服に思いながらも、俺は二人分の取り皿と箸を取ってきて、こたつの上に置いてやった。
餅が焼けるまでには、まだ少しかかりそうだ。俺はまたこたつに足を突っ込む。
「あんた、今日、夜宮行くんちゃうの?」
母さんが黒豆をつまみながら尋ねてくる。
「ああ、うん。もうちょいあとでね。今行っても、澄どうせ手伝いで遊べないし」
「ああ、そっかそっかぁ。母さんもあとでお参り行こかな。一緒に行ってええ?」
「お好きにどうぞ」
適当に相槌を返しながら、ふと目を落としたスマホの画面に通知が来ていた。届いた時間は朝だ。俺が二度寝をかましているあいだに入っていたらしい。
足元はじわじわと温まってきて、ついそのままこたつに沈んでいたくなる。けれど、メッセージを見た瞬間、その気分はあっさり吹き飛んだ。
俺はほとんど反射で立ち上がる。
「母さん、俺やっぱもう行くわ。餅、二人で食って」
「え? そう? はいはい、わかった。いってらっしゃい」
部屋に戻って、ダウンを引っかけ、マフラーを巻き、耳当てまでつける。そのまま小走りで玄関を出て、自転車にまたがった。
外へ出た瞬間、空気が頬に刺さる。鼻の奥がつんとして、吐いた息はすぐに白くほどけた。
真冬の田舎道は静かで、タイヤがアスファルトを擦る音だけがやけに響く。道の脇には枯れ草が寝ていて、畑には薄く霜が残っていた。
最初のうちは手袋越しでも指先がかじかむし、耳も痛いくらい冷たい。けれど、ペダルを踏み込んでいるうちに、ダウンの内側に少しずつ熱がこもってくる。マフラーの奥は自分の呼気でじんわり湿って、首元だけが妙にぬくい。
白い息を吐きながら、俺はまっすぐ夜宮へ向かった。
神社に近づくと、参拝客らしき人たちが石段へ向かっていくのがちらほら見えた。それを自転車で慎重に追い越しながら、石段の下の空いた場所に自転車を停める。
東京の有名な神社なら、初詣なんて馬鹿みたいな行列ができるものだけど、夜宮神社は俺からしたらずいぶん平和なほうだ。
とはいえ、この久瀬の中では、今年はかなり人が来ている方らしい。そのせいで、例年なら年末年始ものんびりしているはずの澄まで、手伝いに駆り出されたのだと聞いている。
石段を上がると、境内には思ったより人がいた。
拝殿の前に短い列ができていて、社務所のあたりにも何人か人がたまっている。甘酒だか焼き餅だか、あたたかい匂いが少しだけ漂ってきて、冬の神社らしい空気だった。
「お、陽翔や」
「あ、ほんまや」
不意に聞き慣れた声がして顔を上げると、クラスメイトの男女が数人、甘酒のテントの前に固まっていた。紙コップを手に、立ちのぼる湯気に顔を寄せるようにして飲んでいる。
「あけおめー」
「陽翔も甘酒飲む?」
声をかけてくれたクラスメイトのほうへ歩み寄り、新年の挨拶を返す。けれど、口では適当に応じながらも、俺の視線はなんとなく境内のあちこちを探していた。
「今年、人多いよな」
「地元の人だけちゃうっぽいよな」
「ほら、夜宮のじいちゃんのご祈祷、ちょっと人気出とるらしいし」
俺が境内の賑わいにきょろきょろしているように見えたのか、そんなふうに説明が飛んでくる。
なるほど、と内心で思う。
全員の顔を知っているわけじゃないけど、たしかに見覚えのない人が多い。地元の人とは少し雰囲気の違う、観光ついでに寄ったような顔ぶれも混じっている。社務所の前には人だかりができていて、受付のところには英語表記が見えた。
澄のじいちゃん、俺の動画がきっかけで、ちょっとした名物みたいになってしまったらしい。
「陽翔、このあと暇?」
人の流れに目を取られていると、不意にクラスメイトの一人が声をかけてきた。
「このあと、みんなで山下んち行って、軽く新年会みたいなんするんやけど。ゲームでもしよって言ってて。来る?」
「あー、えっと……」
一瞬、言葉に詰まる。
澄との約束は、手伝いが終わってから、だったはずだ。まだ少し時間はあるし、そのあいだクラスメイトたちと過ごすのも悪くない。そう思いかけたのに、なぜかすぐには頷けなかった。
「行かんよ」
背後から、ふいに声が落ちてくる。
次の瞬間、コート越しに後ろから軽く抱き寄せられた。強くはないのに、体温だけは妙にはっきり伝わってきて、俺は思わず肩をすくめる。
「澄やん」
同級生の一人が、俺の背後に向かってそう言った。
腕がゆるんだところで振り返ると、そこにいたのは、白い着物に紺の袴をつけた澄だった。
「おお、かっこええやん。澄のその格好、初めて見たわぁ」
「ほんまほんま、似合うとるよぉ。なぁ、陽翔もそう思わん?」
「へっ……!」
急に話を振られて、俺はぴくりと肩を揺らした。少しだけためらってから、「う、うん……似合ってる」と頷く。
クラスメイトたちには言えない。
実は、俺はこれ目当てで、わざわざ少し早めに夜宮まで来たのだ。
朝、届いていたメッセージは澄からだった。手伝いで袴を着ることになったけど、寒すぎて中に重ね着しまくってる、みたいな、少し愚痴っぽいやつ。
前から思っていたけど、澄はやっぱり和装が似合う。
めちゃくちゃいい。
じいちゃんより、澄がご祈祷でもした方が、若い女の子の参拝客とか増えるんじゃないだろうか。
現に、向こうにいる外国人らしき女の人たちが、スマホを片手にちらちらと澄のほうを気にしている。たぶん、和装の男の子と写真でも撮りたいんだろう。けど、残念ながら、こいつは今、俺のことでそれどころじゃないのだ――と、そんな妙な優越感みたいなものが胸の奥に湧いてくる。
「澄も手伝い終わったら来ればええやん、山下んち」
「んー、行かん。陽翔と遊ぶねん」
澄が袴姿に似合わない、少し子どもっぽい口調できっぱり言い切るものだから、
「また二人の世界やんか」
「ほんまや、相変わらずやなぁ」
と、クラスメイトたちから茶化すような声が飛ぶ。
澄のこういう感じは、今に始まったことじゃない。だからみんなも、本気で引いているわけじゃないし、本人がそうしたいならそうすればいい、くらいの軽さで受け流してくれている。
それでも、少し気になる。
せっかく誘ってくれているのに、このまままた二人だけでいることを選んで、わざわざ輪の外へ出ていくみたいになるのも、あまりうまいやり方じゃない気がした。
「澄の手伝い終わったら、一旦連絡するよ。みんな先行ってて」
そんなふうに場を収めると、背中にべったりくっついている澄から、無表情なくせに「なんでや」と言いたげな空気がじんわり伝わってくる。
甘酒を飲み終えたクラスメイトたちは、「ほなねー」と手を振りながら、連れ立って山下の家のほうへ向かっていった。
その場に残ると、すぐ背後から澄のやや不満げな声が落ちてくる。
「ふたりで遊ぶいうてたやん」
「あんまり断りすぎるわけにもいかないだろ。せっかく声かけてくれてんのに」
「そうやけど……」
わかっている。澄はやっぱりまだ、俺以外の人との距離をうまく埋められないままなのだ。
俺は少しだけ表情を緩めて、宥めるみたいに澄の肩を軽く叩いた。
「まあ、気が向いたらにしよっか」
結局また、俺の方が折れる形になる。
「んで、何時ごろ終わりそう?」
「あともう一回、祈祷あるけど、それ終わったらもうええよって言われとる」
「へぇ。澄も祈祷やんの?」
そう聞きながら、頭の中では勝手に想像していた。紙垂のついた大麻を持って、神妙な顔で祓っている澄の姿。たぶん、かなり似合う。
「やらんけど、じいちゃんの横で玉串渡したり、お下がり配ったりはする」
「ほぉーん」
「陽翔も祈祷してもらう? まだ間に合うで」
「え、暇だしやってもらおっかな」
「ほな、一万円」
「まあまあ高ぇな」
「じいちゃんとの記念撮影付きや」
「いらなさすぎるんだけど……澄の部屋で待ってるわ」
そんなふうに話をまとめて、そこでいったん澄とは別れた。


