「さぁ、着いたよ」
江君嵐の声が輿の外から聞こえて、冷月霏はハッとした。
輿の扉が開けられる。そっと、江君嵐に手をとられ、外へ出た。初めて見た江君嵐の屋敷は立派な門構えをしており冷月霏は、あの時よりずっとマシな生活を彼がしていることにホッとした。
それから、華燭の典は滞りなく進んだ。
やはり母は、大粒の涙をこぼしており、それを隣にいた父が慰めていた。
そして夜になり、閨房にて、いまだ紅蓋頭を被った冷月霏と江君嵐は向かい合っていた。
「紅蓋頭を取っても?」
江君嵐の問いかけに、冷月霏はうなずく。
「もちろんです」
冷月霏も、本当は、とっとっと取ってしまいたかったのだ。
しゅるりと、紅蓋頭が外される。そっと、江君嵐を見上げる。数年前に、会った時よりずっと大人になったはずだ。しかし、受ける印象は初めて会った時と変わらない。
好ましい。麗しい顔だ、と冷月霏は思う。じろじろと見ていたせいだろうか。
少し、江君嵐は冷月霏の視線から逃れるように顔をうつむかせた。少々、赤くなっている。それを何だが不思議な気分で冷月霏は眺めた。
「殿下、ずっとお聞きしたかったのですが……」
先に沈黙を破ったのは冷月霏であった。江君嵐の視線が冷月霏に向いた。
「何だろうか?」
「なぜ、私に結婚を申し込んだのです?」
「それは……あなたのことがずっと好きだったからだ」
「え……!?」
(……やっぱり一目惚れだったの?)
疑問に思いつつ、問いかけを重ねる。
「それはいつからですか……?」
「きっと、最初に会った時から好意はあった。……けれど、二度目にあなたが皇太子妃選抜のために皇宮に来た時……。私を心配してくれたのが嬉しかったんだよ、とても。……そして、あなたは私のことを好きだと言ってくれた。それがずっと胸に残り続けていた。そのことをよく思い出し、皇宮での暮らしを耐えた。そして今では、それなりに暮らしていけるようになった」
あの言葉がそんなに彼に響いていたのに、ひどく驚いた。
「月霏さんは……」
江君嵐が、今度は問いかける。
「何でしょう?」
「どうして、私の求婚を受けてくれたの?」
ふと、江君嵐の初めて会った時、そして、皇太子妃選抜の時の笑顔がよみがえった。
(どうして……? それは……。きっとそんなの……)
今更ながら、気づく。冷月霏も、顔を赤くしながらも言葉をつむぐ。
「私も、殿下のことが好きだからに決まっています……!」
そう答えれば、パァァと江君嵐は花が咲くような笑みを浮かべて冷月霏を抱きしめてきた。それにますます顔を冷月霏は赤くする。とても、恥ずかしい。
「嬉しいよ……! ずっと、あなたを愛すると天地神明に、そして霊鳥に誓おう。私の妻はあなただけだ」
「私も嬉しいです、殿下!」
「君嵐と呼んで」
「君嵐様……」
二人はお互いを見つめ合い、やがて江君嵐が冷月霏の唇に口づけた。
冷月霏は、世界で一番幸せな花嫁だとそう思った。そして、この愛はずっと続くのだと信じ切っていたのだった。
実際、しばらくの間は幸せな新婚生活は続いた。
両親が流行病にかかった時も、江君嵐が国一番の医師を呼んでくれた。そして、両親が死んだ時は一緒に悲しんでくれたのだ。悲しみは胸にあれど、この人が側にいてくれてよかったと心から感じたものだ。
(私、この人がいなくなったら生きていけないわ)
一生、江君嵐と愛し愛され生きていくのだと江君愛が皇位を手に入れるまでは、ずっと疑いもなく思っていたというのに。
江君嵐の声が輿の外から聞こえて、冷月霏はハッとした。
輿の扉が開けられる。そっと、江君嵐に手をとられ、外へ出た。初めて見た江君嵐の屋敷は立派な門構えをしており冷月霏は、あの時よりずっとマシな生活を彼がしていることにホッとした。
それから、華燭の典は滞りなく進んだ。
やはり母は、大粒の涙をこぼしており、それを隣にいた父が慰めていた。
そして夜になり、閨房にて、いまだ紅蓋頭を被った冷月霏と江君嵐は向かい合っていた。
「紅蓋頭を取っても?」
江君嵐の問いかけに、冷月霏はうなずく。
「もちろんです」
冷月霏も、本当は、とっとっと取ってしまいたかったのだ。
しゅるりと、紅蓋頭が外される。そっと、江君嵐を見上げる。数年前に、会った時よりずっと大人になったはずだ。しかし、受ける印象は初めて会った時と変わらない。
好ましい。麗しい顔だ、と冷月霏は思う。じろじろと見ていたせいだろうか。
少し、江君嵐は冷月霏の視線から逃れるように顔をうつむかせた。少々、赤くなっている。それを何だが不思議な気分で冷月霏は眺めた。
「殿下、ずっとお聞きしたかったのですが……」
先に沈黙を破ったのは冷月霏であった。江君嵐の視線が冷月霏に向いた。
「何だろうか?」
「なぜ、私に結婚を申し込んだのです?」
「それは……あなたのことがずっと好きだったからだ」
「え……!?」
(……やっぱり一目惚れだったの?)
疑問に思いつつ、問いかけを重ねる。
「それはいつからですか……?」
「きっと、最初に会った時から好意はあった。……けれど、二度目にあなたが皇太子妃選抜のために皇宮に来た時……。私を心配してくれたのが嬉しかったんだよ、とても。……そして、あなたは私のことを好きだと言ってくれた。それがずっと胸に残り続けていた。そのことをよく思い出し、皇宮での暮らしを耐えた。そして今では、それなりに暮らしていけるようになった」
あの言葉がそんなに彼に響いていたのに、ひどく驚いた。
「月霏さんは……」
江君嵐が、今度は問いかける。
「何でしょう?」
「どうして、私の求婚を受けてくれたの?」
ふと、江君嵐の初めて会った時、そして、皇太子妃選抜の時の笑顔がよみがえった。
(どうして……? それは……。きっとそんなの……)
今更ながら、気づく。冷月霏も、顔を赤くしながらも言葉をつむぐ。
「私も、殿下のことが好きだからに決まっています……!」
そう答えれば、パァァと江君嵐は花が咲くような笑みを浮かべて冷月霏を抱きしめてきた。それにますます顔を冷月霏は赤くする。とても、恥ずかしい。
「嬉しいよ……! ずっと、あなたを愛すると天地神明に、そして霊鳥に誓おう。私の妻はあなただけだ」
「私も嬉しいです、殿下!」
「君嵐と呼んで」
「君嵐様……」
二人はお互いを見つめ合い、やがて江君嵐が冷月霏の唇に口づけた。
冷月霏は、世界で一番幸せな花嫁だとそう思った。そして、この愛はずっと続くのだと信じ切っていたのだった。
実際、しばらくの間は幸せな新婚生活は続いた。
両親が流行病にかかった時も、江君嵐が国一番の医師を呼んでくれた。そして、両親が死んだ時は一緒に悲しんでくれたのだ。悲しみは胸にあれど、この人が側にいてくれてよかったと心から感じたものだ。
(私、この人がいなくなったら生きていけないわ)
一生、江君嵐と愛し愛され生きていくのだと江君愛が皇位を手に入れるまでは、ずっと疑いもなく思っていたというのに。

