選別の儀が行われた日以降、千夜が体調を崩すことは無くなった。普通に学校に行き、クラスメートとともに授業を受けている。ただ、これまでと同じように周囲には誰も近寄らない。この四霧地区にある小学校は小規模で、各学年に1クラス20名ほどしか生徒がいない。それだけにクラスメートの結束力は強く、これまで病気がちで登校しても保健室に篭もっていた千夜が、途中から輪に入ることは難しかった。
しかし、一番の原因は真尋だった。真尋は明るい性格でリーダーシップがあり、勉強も運動もできるクラスの中心だ。逆に、千夜は常に伏し目がちで、人見知りということもありクラスメートに対し積極的に話し掛けることはしない。ただ、高井姉妹は幼いとはいえ、整った顔立ちの美少女である。あと5年もすれば、間違いなく誰もが振り返るような美人になる。それだけに、男子生徒の中には千夜に声を掛ける者もいた。だが、その場面を見付けた真尋が必ず間に入り、声を掛けた男子生徒を連れ去った。
毎回、真尋は勝ち誇った顔で千夜に向かって笑みを浮かべていたが、ずっと1人だった千夜からすれば全く問題がなかった。それでも、あの橋を渡る許可を得る前であれば、心が折れたかも知れない。
真尋はよく文房具を忘れ、千夜から無理矢理に取り上げることが多かった。必ずといっていいほど、千夜が買い換えた直後だった。消しゴムもノリも、定規も鉛筆も何かも。奪われた物が真尋から返却されることはなく、千夜は間違えると指で消し、長さが1センチになるまで鉛筆を使った。両親は千夜に関心が無いのか、千夜の話を聞くこともせず、真尋を咎めることもしない。
千夜は両親に頼ることを止めた。
結局のところ、神社の、自分の役に立つ赤の巫女に選ばれた真尋を優遇し、件が口にした凶兆の存在である自分を虐げていることを、幼いながらも千夜は理解した。父親は歴史在る九戒神社の神主であることを誇示し、母親は愛想が良く成績優秀な真尋を優遇する。千夜が考えてもそうなのだ。そうに違いない。
真尋はよく嘘を吐いた。自分の失敗を千夜のせいにしたことが数え切れないほどあった。学校からの連絡事項の内容を改竄し、千夜に伝えることも日常茶飯事だ。常に千夜が濡れ衣を着せられ、信じてくれない両親から叱責されている。
基本的に上手く立ち回る真尋であったが、それでも失敗することもある。休憩時間に遊んでいて窓ガラスを割ったことがある。真尋は平然と、駆け付けた先生に千夜がやったと偽証する。周囲の者達も真尋に同調して虚偽の説明をする。多対1の状況の下で、先生は1を責める。悪だと決め付ける。千夜が口にする真実を、先生は信じない。嘘まで吐くのかと、見に覚えが無いことで余計に怒られる。
千夜は先生に頼ることを止めた。
真尋は秘匿されている赤の巫女に選別されたことを明かし、仕事内容や自分の能力を過大に説明した。逆に、千夜が選ばれた黒の巫女を呪われた存在だと罵り、世界を終焉に導く魔王の如く話して広めた。自分が巫女神楽を舞うことにより妖を退散させ、屠る。四霧地区の平穏を維持しているのは自分の力だと、未だに現場に出たこともない身でありながら虚勢を張る。
実際には一度だけ、真尋は妖に遭遇して巫女神楽を舞ったことがある。しかし、舞が拙くて効果がなかったのか、妖は物珍しそうに眺めるだけだった。偶然、祓う対象であった妖の出現場所が九戒神社に近かったこともあり、神主が使用する御札によって撤退させることには成功した。この体たらくでも、自己主張できる真尋は流石だとも言える。
千夜は黒の巫女について今でも調べているが、未だに真相に辿り着いていない。口伝による伝承である。。平然と戒めを無視する者がいることを考えれば、一族の誰かが見聞きしたことを書きとめている可能性もある。そう、千夜は考えている。
そして、真尋は独占欲が非常に強く、2人に与えられた物を千夜に分ける事等をするこはなく、当然のように自分だけの物にした。何度も続いたため千夜はそのことを一度注意したことがあったが、逆に激怒され1時間以上も屁理屈で罵倒され続けた。自分より下だと思っている千夜に注意されることが我慢ならないのだろう。正論に対し、大きな声で屁理屈を並べる。強い口調で鋭い言葉を叫ぶ。
その日以降、千夜は真尋の行いを注意しなくなった。
真実も正義も無い。味方はいない。ただ、大きな声を出した方が勝つ。そこには、もう何も無い。
逃げ出したい―――――千夜は、何度もそう思った。
それもどうにか踏み留まったのは、自分が黒の巫女に選ばれたからだった。件に予言され、1000年近く続いてきた歴史の中で初めて出現した黒の巫女。何が最後なのか、その結末を、責任を持って確かめたいと思っているからだ。
だから、千夜は今日も理不尽な扱いに耐え、無責任な言葉を受け止める。
しかし、一番の原因は真尋だった。真尋は明るい性格でリーダーシップがあり、勉強も運動もできるクラスの中心だ。逆に、千夜は常に伏し目がちで、人見知りということもありクラスメートに対し積極的に話し掛けることはしない。ただ、高井姉妹は幼いとはいえ、整った顔立ちの美少女である。あと5年もすれば、間違いなく誰もが振り返るような美人になる。それだけに、男子生徒の中には千夜に声を掛ける者もいた。だが、その場面を見付けた真尋が必ず間に入り、声を掛けた男子生徒を連れ去った。
毎回、真尋は勝ち誇った顔で千夜に向かって笑みを浮かべていたが、ずっと1人だった千夜からすれば全く問題がなかった。それでも、あの橋を渡る許可を得る前であれば、心が折れたかも知れない。
真尋はよく文房具を忘れ、千夜から無理矢理に取り上げることが多かった。必ずといっていいほど、千夜が買い換えた直後だった。消しゴムもノリも、定規も鉛筆も何かも。奪われた物が真尋から返却されることはなく、千夜は間違えると指で消し、長さが1センチになるまで鉛筆を使った。両親は千夜に関心が無いのか、千夜の話を聞くこともせず、真尋を咎めることもしない。
千夜は両親に頼ることを止めた。
結局のところ、神社の、自分の役に立つ赤の巫女に選ばれた真尋を優遇し、件が口にした凶兆の存在である自分を虐げていることを、幼いながらも千夜は理解した。父親は歴史在る九戒神社の神主であることを誇示し、母親は愛想が良く成績優秀な真尋を優遇する。千夜が考えてもそうなのだ。そうに違いない。
真尋はよく嘘を吐いた。自分の失敗を千夜のせいにしたことが数え切れないほどあった。学校からの連絡事項の内容を改竄し、千夜に伝えることも日常茶飯事だ。常に千夜が濡れ衣を着せられ、信じてくれない両親から叱責されている。
基本的に上手く立ち回る真尋であったが、それでも失敗することもある。休憩時間に遊んでいて窓ガラスを割ったことがある。真尋は平然と、駆け付けた先生に千夜がやったと偽証する。周囲の者達も真尋に同調して虚偽の説明をする。多対1の状況の下で、先生は1を責める。悪だと決め付ける。千夜が口にする真実を、先生は信じない。嘘まで吐くのかと、見に覚えが無いことで余計に怒られる。
千夜は先生に頼ることを止めた。
真尋は秘匿されている赤の巫女に選別されたことを明かし、仕事内容や自分の能力を過大に説明した。逆に、千夜が選ばれた黒の巫女を呪われた存在だと罵り、世界を終焉に導く魔王の如く話して広めた。自分が巫女神楽を舞うことにより妖を退散させ、屠る。四霧地区の平穏を維持しているのは自分の力だと、未だに現場に出たこともない身でありながら虚勢を張る。
実際には一度だけ、真尋は妖に遭遇して巫女神楽を舞ったことがある。しかし、舞が拙くて効果がなかったのか、妖は物珍しそうに眺めるだけだった。偶然、祓う対象であった妖の出現場所が九戒神社に近かったこともあり、神主が使用する御札によって撤退させることには成功した。この体たらくでも、自己主張できる真尋は流石だとも言える。
千夜は黒の巫女について今でも調べているが、未だに真相に辿り着いていない。口伝による伝承である。。平然と戒めを無視する者がいることを考えれば、一族の誰かが見聞きしたことを書きとめている可能性もある。そう、千夜は考えている。
そして、真尋は独占欲が非常に強く、2人に与えられた物を千夜に分ける事等をするこはなく、当然のように自分だけの物にした。何度も続いたため千夜はそのことを一度注意したことがあったが、逆に激怒され1時間以上も屁理屈で罵倒され続けた。自分より下だと思っている千夜に注意されることが我慢ならないのだろう。正論に対し、大きな声で屁理屈を並べる。強い口調で鋭い言葉を叫ぶ。
その日以降、千夜は真尋の行いを注意しなくなった。
真実も正義も無い。味方はいない。ただ、大きな声を出した方が勝つ。そこには、もう何も無い。
逃げ出したい―――――千夜は、何度もそう思った。
それもどうにか踏み留まったのは、自分が黒の巫女に選ばれたからだった。件に予言され、1000年近く続いてきた歴史の中で初めて出現した黒の巫女。何が最後なのか、その結末を、責任を持って確かめたいと思っているからだ。
だから、千夜は今日も理不尽な扱いに耐え、無責任な言葉を受け止める。



