アネモネ記念日

◇◇
 二学期が始まってから一週間。
 残暑が厳しい九月上旬。朝日が眩しく感じると同時に、少し湿気の薄れた風が涼しい。
 今日は目覚めがよかったので、気分がいい。
 軽やかな足取りで昇降口に向かっていると、後ろから平均より高めの女子の声が聞こえた。
「あっ。碧ちゃんおはよう!」
 朝から元気な彼女は今年から友だちになった森吉まお(もりよしまお)
 天然で、小学校のときに好きになった人に二年間片思いしている。
 高校で再会することを願って、頭のいい彼に追いつけるよう勉強を頑張っているらしい。
 しかし、私はそんなに長く想ったって、なにかしらアクションを起こさなければ意味がない、と思っているため、少々彼女の考え方には冷めるところがある。
 まぁその点を除けば良い友人であるため、関わることをやめようとは思わないが。
 私がそんなふうに自分のことを思っている、と一つも考えていないであろう彼女が、今日の予定について話しかけてくる。
「そういえば今日委員会決めだね。碧ちゃんは今回も放送委員にトライするの?」
「うん。勝つ自信は、あんまりないけどね」
 私は前期で違う女子に放送委員の座を取られてしまった。
 彼女は後期も狙うだろう。前期でやっていた人が勝ちやすいため、確率としては低い。
 しかし、なにも委員会に入らない、というのは私の性分にあっていないようで、なにか仕事をしたくて仕方がなかったのだ。
 やるだけやってみるのが一番いいだろう。不戦敗するのが一番悔しいし、後悔する。
 それに、めげずに挑む姿勢を、先生も私に対する評価を上げてくれるだろうし。
 しかし、今回は今までと決める方法が違う。
 学級委員と生活委員は他薦で決められるのだ。
 ほとんどの人は前回やっていた人に投票するだろうから、学級委員は決まっているも同然。
 だが生活委員はどうだろう。
 男子の方はともかく、女子の方は問題児で、なぜ前期のときに投票してしまったのだろう、とクラスメイト全員が思っていることだろう。
 つまり、その女子を除いた人が推薦されるということだ。
 私だって選ばれる確率は低くない。なぜなら、今年のクラスでは優等生としてしっかりとした態度で授業に臨んでいるからだ。
 隣にいる彼女も私が選ばれる、と思っている一人だ。
「生活委員は碧ちゃんになりそうだよね〜。真面目だし、校則ちゃんと守ってるし。私は碧ちゃんに推薦したよ?」
「えぇ?ちょっとやめてよ。私は放送委員になりたいんだから」
 建前はそうなんだが、本音はもちろん違う。
 生活委員になれるものならなりたい。
 何故か?
 推しのあの先輩は生活委員だからだ。
 委員長は私達の代から選ばれるが、三年生はまだ委員会を続行できる。
 それに、一年生の時からやっていたであろう彼はせっかくなら、と三年間やるはずだ。
 あともう一つ理由があるのだが、三年間同じ委員会に所属すると、私立高校では一つだけだがポイントに加算されるところがある。
 これを逃すまい、と狙っている人がいるので、皆それに乗じて連続でなろうとするのだ。
 話が脱線してしまったが、とにかく生活委員になれたら、もうそれ以上の喜びはない。
 一時間目が楽しみで楽しみで。心臓の音が周りの人にも聞こえてしまいそうなほどだ。
 空が私に呼応するかのように、今日は雲一つない晴れだった。