◇◇
秋の合唱祭でかすかに聞こえる彼の歌声を聞き逃すまい、と耳を澄ませ、冬の冷たい空に白い息を吐きながら、あいさつ運動をする彼の横顔を見る。
そんな不可侵の聖域である彼を描いたキャンバスを抱えたまま新たな春を迎えてしまった。
先輩が『推し』になってから一年。
その便利な言葉を手に入れてからというものの、私のルーティンには新たな行動が組み込まれた。
あの人に会えるかもしれない廊下、階段の踊り場、初めて出会った体育館。学校の校門まで隅々を探すのだ。
しかし、そんな淡い期待はいつも裏切られてばかりで。
でもやめられないのだ。磁石のように惹きつけられてしまう。抵抗しようがない。
結局一年も話す機会はなかったが、それはファンとして至極当然のことなのだろう。
今年も自分の気持ちを押し殺して生きていくことになりそうだ。
私は二年生となり、またあの暑い夏が到来した。
一年生の時よりも行事は多く、勉強も難易度が増し、更には部活は私達の世代が引っ張っていかなければならない。
正直、先輩を気にかけている余裕はあの時よりも少なくなっていった。
しかし、画布は赤や黒だけでなく、友人関係の緑、勉強の黄色、部活の桃色が塗装されていた。
いつの間にか多色で構成される綺麗な絵に近づいていた。
それはきっと私の学校生活が彩られてきている証拠なのだろう。
嬉しさを感じると同時に、先輩の卒業が刻々と近づいているのを実感してしまう。
あと半年。単純計算で会える日は約百二十日。
辛いが仕方がない。
それに、よく考えてみると、先輩がいなくても他のところで補えるのでは、と思ってしまう。
一年前とは違って友だちと話す時間は楽しい以外の何物でもないし、勉強も少しやりがいのあることだと思えるようになってきた。
もしかしたら大丈夫かもしれない。
そう思えるのは少し成長した証なのだろうか。
しかし、先輩の顔を思い浮かべると、胸が苦しくなって心拍数が必然的に上がってしまう。
あぁ。私のキャンバスの底にはまだ先輩がいるんだ。
埋もれてるだけで、消えてないんだ。見えないようにすることは出来ないんだ。
でもいつかは消え去らなければならない。私の人生を歩むためには。
だがそれはまだ先のこと。
今はまだ、許してほしい。
秋の合唱祭でかすかに聞こえる彼の歌声を聞き逃すまい、と耳を澄ませ、冬の冷たい空に白い息を吐きながら、あいさつ運動をする彼の横顔を見る。
そんな不可侵の聖域である彼を描いたキャンバスを抱えたまま新たな春を迎えてしまった。
先輩が『推し』になってから一年。
その便利な言葉を手に入れてからというものの、私のルーティンには新たな行動が組み込まれた。
あの人に会えるかもしれない廊下、階段の踊り場、初めて出会った体育館。学校の校門まで隅々を探すのだ。
しかし、そんな淡い期待はいつも裏切られてばかりで。
でもやめられないのだ。磁石のように惹きつけられてしまう。抵抗しようがない。
結局一年も話す機会はなかったが、それはファンとして至極当然のことなのだろう。
今年も自分の気持ちを押し殺して生きていくことになりそうだ。
私は二年生となり、またあの暑い夏が到来した。
一年生の時よりも行事は多く、勉強も難易度が増し、更には部活は私達の世代が引っ張っていかなければならない。
正直、先輩を気にかけている余裕はあの時よりも少なくなっていった。
しかし、画布は赤や黒だけでなく、友人関係の緑、勉強の黄色、部活の桃色が塗装されていた。
いつの間にか多色で構成される綺麗な絵に近づいていた。
それはきっと私の学校生活が彩られてきている証拠なのだろう。
嬉しさを感じると同時に、先輩の卒業が刻々と近づいているのを実感してしまう。
あと半年。単純計算で会える日は約百二十日。
辛いが仕方がない。
それに、よく考えてみると、先輩がいなくても他のところで補えるのでは、と思ってしまう。
一年前とは違って友だちと話す時間は楽しい以外の何物でもないし、勉強も少しやりがいのあることだと思えるようになってきた。
もしかしたら大丈夫かもしれない。
そう思えるのは少し成長した証なのだろうか。
しかし、先輩の顔を思い浮かべると、胸が苦しくなって心拍数が必然的に上がってしまう。
あぁ。私のキャンバスの底にはまだ先輩がいるんだ。
埋もれてるだけで、消えてないんだ。見えないようにすることは出来ないんだ。
でもいつかは消え去らなければならない。私の人生を歩むためには。
だがそれはまだ先のこと。
今はまだ、許してほしい。



