アネモネ記念日

◇◇
 予想通り退屈な時間を強制的に過ごされることとなった朝礼の時間。
 体育座りで自分の靴の先ばかりを見つめる。
 視界の上部に入り込む人たちは、誰かもわからない無機質な声と顔。
 登壇した人たちが静かな水面に自分の声で波紋を広げていく。
 しかし私にはどれも届かず、反射していくばかりだった。
 そして四回目。
 この回だけは、今までと全く違うものだった。
 体育館に響き渡る深海に光を灯すような、そんな低い少し掠れた声。
 私の世界を一瞬で塗り替えた響きの正体をを探したくて、その姿を目に焼き付けたくて。
 下に向けていた視線を上げ、今マイクを持っている人物の方を見る。
 モノクロの世界で、そこだけは色鮮やかだった。
 少し焼けた小麦色の肌、遠くからでも分かる絹のような短髪はセンター分けになっている。無表情を保ち、生徒が入っている箱の更に奥の方を見ている黒曜石の瞳。
 彼の学年の人に比べれば小さめの身長だが、私からすれば、敵に囲まれたときに助けに来てくれたヒーローの背中と同じくらい大きく見えた。
 間違いない。
 あの人が、あの人こそが私という名のキャンパスに塗られたポスターカラー。
 緊張しているのか、左腕が振り子のように動いている。
 なんとも思っていない人に対しては面白い、としか思わないのだが、むしろ可愛いと思ってしまう。
 これは相当重症だろう。
 三津碧(みつあおい)
 入学してから半年。人生が始まってから十三年。
 初めて一目惚れ、というものを体験した。