アネモネ記念日

◇◇
 あと一日で去る教室には私しかいない。
 ここには先輩がもう来ることはないと思うと、無音に感じられてきた。
 委員会に所属する生徒の名前が書いてある名簿を見る。
 三年六組。寺町光琉(てらまちみつる)。
 彼の名前だ。
「みつる、せんぱい」
 名前の通りだな。
 貴方は私の光で、流れるように去っていってしまった。
 先輩は私のことを認知していたのだろうか。あの時見てくれたのだから、そうに違いない。
 目標は達成された。
 だが、あの人に恋愛感情を抱いてしまった。
 話しかけていればよかったのに。名前を本人の口から聞けばよかったのに。
 目の前にある彼の名前はただの記号にしか見えなくて。無機質で、感情の持たない文字で。
 先輩は私の学校生活を華やかにしてくれた大事な人。
 貴方は私に大事なことを教えてくれた人。
 きっと忘れることはないだろうけれど、思い出を胸に抱いて前に進むよ。
 でも、たまには後ろを振り返ってもいいよね?
 キャンバスには真っ赤な、壮大なアネモネが中央に描かれていた。

 アネモネ。儚い恋、期待、真実。