「凪原〜、とうとうだな」
「ね。凪原君、またたまに戻って……ううん、私達東京に会いに行くから! 楽しみに待ってて!!」
「ははっ。ありがと」
三月初旬。新幹線乗り場の改札前で、魁は代山と津内に振り返った。
卒業式の翌日。東京でいよいよ一人暮らしをする。来月は晴れて大学生だ。
見送りに来た二人は、テンションは高いが寂しそうに魁の背中を叩いた。
「普通に痛い」
「あれ、まだ古傷痛むのか?」
「それじゃないよ。普通に力強くて」
「あっそろそろ時間じゃない? 凪原君、気をつけて! 向こう着いたら連絡してね!」
と、再び背中を押されて転びそうになる。見送りに来てくれたのは嬉しいけど、終始振り回されていたような気もする……。
改札を抜けてチラッと振り返ると、代山はその場で飛び跳ねながら両手を振っていた。
「凪原! マジで、来月鳴海(なるみ)とそっち行くから!」
「凪原君、頑張ってね!」
二人の応援を受け、軽く手を振る。周りから少し注目されて恥ずかしかったけど、笑ってしまった。

別に今生の別れじゃない。何キロ離れていようと、会おうと思えば会える。
だから悲しむ必要なんてない。「会いたい」って、「会いに行く」って言うだけなんだ。
だから大丈夫。
出会えたことに感謝して、窓の外の流れ行く景色を見た。ガラスに映る自分はわずかに笑っていたから、すぐにお茶を飲んで誤魔化した。

久しぶりの東京駅。平日だろうと構わず大勢のひとが行き交っている。
荷物は先に全部送って、身軽にしといて良かった。改札を抜け、地図を見る為にスマホを開く。
うーん。やっぱたまにしか来ないと迷うな。
新しい家に行く為には何口から出るのか……調べていると、ひととぶつかってバランスを崩してしまった。
「あ。すみません」
「いいえ。でもスマホ見ながらは危ないですよ」
倒れそうになったものの腕を掴まれ、引き寄せられる。少し高い声で、一瞬性別がわからなかった。
でも、力的に男だ。
振り向くとその青年は、不敵な笑みを浮かべた。


「転んだ拍子に違う世界に入り込んじゃうかもしれないし」


……。

同じ背丈。同じ年頃。
明るくて柔らかそうな髪質、大きな瞳。記憶の底に眠っていた少年が、少しだけ成長して現れたみたいな。
「……なーんて」
夢にも似た現実が、今目の前に。

「言っても誰も信じないもんね? ……魁」
「さと……る?」

手を伸ばせば触れられる距離で、名前を呼ばれた。

時が止まり、音がやむ。
構内の中央に突っ立って、互いに見つめ合う。現実的だが、尋常ではなく非現実的な心境にあった。
相対しているのは、間違いなく理だ。私服なことも相まって、鏡の中にいた時よりずっと大人びて見える。

「外で顔を合わすのは初めてだから、はじめましてかな?」

彼は顎に手を添え、不思議そうに呟く。しかしすぐに指を鳴らし、ずいっと身を乗り出してきた。
「実はそろそろ魁が東京に来る頃だと思って彷徨いてたんだぁ〜。マジで会えるとは思わなかったけど」
「……やっぱり……生きてたんだな」
震える声で返すと、彼は照れくさそうに頬を搔いた。

「鏡を割られて、少ししてから……こっちで目を覚ましたんだ。それまでは全然反応しなくて、廃人みたいだったって家族に言われた。今は普通に生活できるから、皆超喜んでるよ」

体は無事だったが、やはり精神が抜け落ちていたんだろうと彼は告げた。
「結果的には、佐々波に鏡を割られて良かった。お前をボコボコにしたことだけは一生許さないけど」
「はは。……俺も」
目元を擦り、一歩前に踏み出した。本当に嬉しい時は思考が停止して、語彙力がなくなる。
どうしようもなく、叫んで飛び跳ねたくなる。代山じゃないけど、今はその気持ちが痛いほどわかった。

「心配させてごめんな。ほんとはもっと早く会いに行くこともできたんだけど、サプライズって大事じゃん? ……てかてっきり大はしゃぎして抱きついてくるかと思ったのに、案外クールで風邪ひきそう」
「悪かったな」

そんなことを言われたら、絶対抱き締めたりできない。
少なくとも、今は。

深呼吸して、魁はスマホを確認した。

「高校は卒業できたのか?」
「うん。ボケてても単位とったから卒業できたよ。でもやっぱ受験とかできる感じじゃなかったらしくて」
理は肩を竦め、気まずそうに笑った。
「希望の大学に行く為に、一年浪人するつもり」