「…………」
秦野さんは何も言わなかった。
多分、答えるつもりはないのだと悟り、売店を後にした。
あり得ないことを経験し過ぎて、変な予知能力でも身についてしまったのかもしれない。……俺は。
二階の踊り場へ行き、いつも立っていた場所を眺める。
壁には長方形の大きな染みができていて、鏡はなかった。冬休みの間に、割れた鏡は撤去されていた。
これでもう、誰もあの不幸で不可解な世界に入り込むことはない。最終的に、佐々波が望んだ形になった。
「……どこに」
もう誰も苦しまない。
そう言い切るには、心が汚れ過ぎてしまった。
「どこに行ったんだよ。…………理」
鏡があった場所に触れて、倒れるように額をつける。
当たり前だが、何十分、何時間そこにいても変わらなかった。三階や四階の鏡も確認したけど、映るのは自分だけ。
理が言った通りだ。俺は、彼に守られた。
不安や寂しさを振り払う為に、東京にも何度も足を運んだ。蓮にも協力してもらったが、接触どころか理の手掛かりは見つけられず、時間だけが進んでいった。
あの出来事すら全て夢だったのではと思うほど、目まぐるしい速さで季節は移り変わる。
露往霜来。
三年生になり、苦しい試験を越え、あっという間に卒業のときを迎えた。



