「終業式寝ちゃった」
「いびきかいたときはさすがに起こしたけどな」

放課後、魁は眠そうに瞼を擦る代山を見て笑った。
明日から冬休みということで、皆嬉しそうだ。旅行に行く約束や、お正月の過ごし方などを話している。
「凪原、大晦日は神社で待ち合わせな。あ、津内も来るってよ」
「マジで? 良かったじゃん」
「は? 何で俺が良かったなんだよ!」
「え。いや別に……」
確かに失言だったが、代山の赤面は怒りとは違うように見えた。
もう認めてしまえばいいのに。喉元まで出かかったけど、咳払いして持って帰る物を鞄に入れていく。
代山も帰る準備をし、ドアの方へ向かおうとしたが、突如大声を上げた。
「あ! 凪原、そういや俺急に思い出したんだけど!」
「な、何?」
「転校生いたよ。このクラスに」
こちらに振り返った代山が、近くのクラスメイトにも声を掛けた。
「なー、茂木。転校生来る予定だったんだよな?」
「ん? あ〜、そういや……かなり最初の頃そういう話あったな。クラス替えの日だっけ」
茂木という男子も、鞄を背負って首を捻った。
「でも結局来なくて、いつの間にか話がなくなってたんだよ。何かあの日、誰か倒れたとかで救急車も来てバタバタしてたし」
「そうそう。誰もツッコまないから、わざわざどうなったのかとか聞いてないけど」
なんてことだ。急いで転校生の名前を訊いたが、二人とも首を横に振った。
「多分、凪原の席に来る予定だったんだよ。それで来なかったから、お前がウチのクラスに決まったんじゃない?」
茂木はそう言うと、いいお年を〜と告げて帰って行った。
残された代山が、申し訳なさそうに頬を掻く。
「ごめん凪原、転校生の話したときに言わなくて……転校してきたのかどうかもわかんないから、そいつのこと完全に忘れてたんだ」
「いやいや! いないんだからカウントしなくて当然だろ。ありがとな」
慌てて礼を言い、立ち上がる。
もう充分だ。理のピースは、俺の中で完全に埋まった。
彼らがいたから叶ったことだ。改めて向き合い、はっきり告げた。

「サンキュー。またな」
「おぉ! またな、魁!」



全ての点と点が繋がってできた図形は、存外単純なものだった。
色眼鏡で見ていたことが沼にハマった最大の要因でもあるし、反省と後悔しかない。
けどそれに気付いたら、一刻も早く動き出した方が良いんだ。時間は有限で、青春にもタイムリミットがあるから。
「魁、こんな時間に出掛けるの?」
「き、急にごめん。ちょっと友達と会うけど、もしかしたら家に泊まるかもしれない」
夜、支度をして玄関へ向かった。本当はこっそり出てしまおうかと思ったけど、さすがに母の目をかいくぐるのは難しかった。
「泊まらなくても絶対連絡する」
「絶対ね?」
「絶対する」
いつもは適当だけど、こういう時の母は圧が強い。
「それから、危ないところは絶対行かない。いいわね?」
「はい」
素直にスマホを翳して答えると、母は仕方なしと言ったように眉を下げた。そして自分用の防犯ブザーを俺に手渡した。
「明日からお休みだけど、あまり羽目外しちゃ駄目よ。それじゃ気をつけて」
「ありがと。行ってきます」
ポケットに仕舞い、冬の夜を歩く。最終バスに乗り、夕方も通った道を抜けていった。
運転手は何でこんな時間に、と言いたげな表情をしていたけど、ゆったり高校の最寄りのバス停で降ろしてくれた。
「寒い……」
冬休みを迎える夜の高校にこっそり潜入した。バレたら停学だろうか。叱られるだけじゃ絶対済まないと思う。
でも、やるなら休みがたっぷりある今夜からがいい。こっそり鍵をあけていた空き教室の窓から入り、二階へ向かった。
母が貸してくれた防犯ブザーはライト付きだったから、有り難く使わせてもらうことにした。
自分の足音しか聞こえない……暗いが、非常灯で緑色に発光する廊下。
薄気味悪く、過去一番身震いした。

やっぱ夜の学校なんて来るもんじゃないな。

わかってて来たのに、若干後悔してる。しかし自業自得だから、腹を括って踊り場まで歩いた。
ここまで来れば勝ったも同然だ。何と闘ってるのか自分でもわからないけど、小声で鏡に向かって声を掛ける。
「……理。俺だ。魁」
『魁!?』
鏡の中から甲高い声が返ってきた。明かりを近付けると、驚いて目を見開く理が映っていた。
『おまっ……夜じゃん! どしたの?』
「今日って十二月二十五日なんだ。何の日かわかる?」
あえて質問で返すと、彼は少し考えてハッとした。
『クリスマス?』
「あたり。プレゼント持ってきた」
スマホを取り出し、彼に笑いかける。

「まあ、ある意味俺がプレゼントなんだけどな」
『は!? おい、ちょっと待て! それは俺も心の準備……いや覚悟がまだ……ッ!』

理は何やらわたわた騒いでるが、俺は新幹線の予約チケット画面を翳して見せた。
「東京行きのチケットをとった。俺の体に入って、東京に行って来いよ」
『東……え!?』
彼は頬を赤らめていたが、すぐにギョッとしてみせた。
「ホテルも予約してる。支払い済みだから大丈夫だよ」
『いやいやいや! 急過ぎるって! ちゃんと説明しろよ!』
「俺じゃわからないことも……お前が行けば、なにか思い出すかもしれないだろ。だからさ、旅行ついでに東京に行って、色々見てこいよ」