プロローグ
ジリジリと蝉が鳴いている。盛夏の蒸し暑い空気と燦々と照らす太陽が襲う。あぁ、そうだ。確かあの夏もこんな暑さだった。
第一章
「あちー…」
「アイス食いてぇ…」
文句を垂れながら学校に向かう。それもそのはず、あたり一面田んぼの田舎の高校に歩きで通っているのだから。
僕と雄馬は生まれた時からずっとこの街に住んでいる。そして、保育園、小学校、中学校全て同じ学校に通って、ずっと一緒にいる。多分、一緒にいなかった日なんてなかった。
学校に着くと聡(さとし)と悠人(ゆうと)、寛太(かんた)が居た。
「あ、おはよー」
「お前らまーた一緒に来てんのかよ」
「いいだろ別に」
「え、てか昨日の動画見た?」
「寛太、お前夜に変な動画送ってくんじゃねーよ」
僕と雄馬の他にこいつら3人、計5人でいつも行動していた。今日もいつも通り喋っていると、雄馬がクラスの女子に話しかけられる。
「おはよう、雄馬君」
「あぁ、うん。おはよう」
「今日化学自習らしいよ、やったね」
「うん」
雄馬は女子にモテる。女子から見たら勉強と運動、両方出来てクールでかっこいいらしい。僕から見たらいつもぽけーっとしてて、たまに何考えてるのか分からない奴なのに。
「そんな見てやんなよ」
「なんだよ、嫉妬かぁ?笑」
「…ちげぇよ」
「お前もいつか彼女出来るって〜」
悠人達が揶揄うように俺の頭をわしゃわしゃと撫でる。ガキのように扱ってくるので嫌がっているとぬっと手が伸びてくる。
「何してんの」
俺を撫でる手を掴んでいるのはさっき女子からモテモテだった雄馬。何を考えているのか分からない無表情で見つめてくる。そうだ、いつもこの視線が僕を困らせる。
「別になんもしてねーよ」
「あーあー、哉太拗ねんなって」
「席に着けー、HRするぞー」
さっき聡に言われた“嫉妬”という言葉が頭に残る。雄馬が女子と話しているのを見る時、僕の胸に何かが突っかかるような嫌悪感がある。だが、今だにそれが嫉妬なのか何なのかは分からない。そんなことを考えていたら先生が教室を出ていくのを目の端に捉えた。どうやらHRは終わっていたようだ。
「__た、哉太」
「あ、ごめん」
目の前に視線を戻すと雄馬が目の前の席に座ってこちらに振り返っていた。
「お前絶対先生の話聞いてなかったろ」
「聞いてますー」
「じゃあなんて言ってた?」
「……色々」
「やっぱ聞いてねぇじゃん」
雄馬が呆れながら笑う。それに釣られて僕もふっ、と笑ってしまう。
「雄馬ー!哉太ー!」
遠くから悠人に手招きをされる。のそのそと立ち上がって3人の元に行く。
「なぁ、遊べんの今年が最後だしみんなでどっか行こうぜ」
聡が一番最初に提案したらしく、全員その案に賛成していた。高校2年生の夏が終わったら大学受験のことを考えて、少しずつ勉強をしていかなければいけない。
「行けても俺1日かもしんねぇ」
「俺もー」
全員部活には入っているが、力が入っている野球部の寛太とバレー部の悠人はさらに忙しそうだった。ちなみに、聡はバドミントン部、僕と雄馬はバスケ部だった。
「日帰りかぁ…海良くね?」
「あー確かに近いもんな」
悠人の地元から少し行った所にそこまで人気ではないが、海水浴場がある。
「んじゃ決定で」
と寛太が言うと丁度一限目のチャイムが鳴る。授業中に外を見て黄昏るという窓側の特権を使いながら海かぁ、と考える。そして、この夏が遊べる最後の夏という事実に少しだけ悲しさを感じる。あいつらはどこの大学に行くんだろう。俺はいまだに決まっていない。早く決めなければと思う気持ちはあっても色んな考え事に揉みくちゃにされていつも忘れる。そもそも、今後のことなんて何一つ考えてない。アイツはこれからどんな人生を歩むのだろうか。雄馬の方に視線を向けると目が合う。一瞬、呼吸を忘れる。
「前向けよ」
と微笑みながら口だけを動かして伝えてくる。心臓の鼓動が大きく、速くなるのを感じながら視線を黒板に移す。前では先生が高校生の青春を描いた文学的文章の一部分の解説をしている。
「あー、ここの”心臓がドクドクと音を立てて速くなる”。マーカー引いとけ。これはな、主人公がときめいた瞬間なんだな。」
こんな照れくさい文章解説するなよ、と言いたい気持ちを押し込めてマーカーを引く。
昼休みになると放送部が昼の放送を始める。一番最初に流れたのは最近流行りのラブソング。その後も愛だの恋だのを語った歌が流れていった。
5限目は自習の化学。近くの席の女子が恋バナをしている。
「好きな人誰?いい加減教えてよ」
「えー、じゃあヒントね。バスケ部」
「もーちょい!」
「うちのクラス、これ以上はダメ!」
「えー?もしかして柳沢?」
「違う、分かってるくせに」
朝の嫌悪感が僕を襲う。この嫌悪感が恋バナに名前が出されたことなのかは分からない。同時に僕は最近、何かと恋にまつわる話に敏感であることに気づいた。その理由に心当たりがあったが、頭の中でかき消して僕は机に突っ伏した。
この時の僕はまだ、内に秘めていた気持ちと向き合う覚悟が無かった。そして、そんな僕を置いて時間はどんどん進む。
「お前ら怪我だけはしないようになー、じゃ」
と担任がHRを終えると同時に教室には歓喜する声が沸き立つ。今日で高校2年生の一学期が終了したのだ。
「そんじゃ、明日なー!」
「おう、じゃーな」
徒歩通学の僕と雄馬、自転車通学の聡は校門を右に、電車通学の残り2人は左に曲がっていく。聡とは途中まで道が一緒の為、いつも3人で帰る。
「明日楽しみだな」
「海かぁ…最近は行ってねぇな」
「やべ、水着のサイズ合うかな」
なんて話しながら明日に期待の思いを膨らませる。他愛のない話を3人でしていたら時間もあっという間で、気付いたら聡と別れる道に着いてしまった。
「じゃーな」
そう言うと自転車にさっと跨って行ってしまう。その様子を背中が小さくなるぐらいまでぼーっと眺めていると肩を叩かれる。
「帰んねぇの?」
軽く振り返ると、雄馬がこちらの顔を少しだけ覗きながら不思議そうに訪ねてくる。
「んーん、帰る」
日陰の一つもない、炎天下にさらされる帰り道を2人でノロノロ歩く。
ジリジリと蝉が鳴いている。盛夏の蒸し暑い空気と燦々と照らす太陽が襲う。あぁ、そうだ。確かあの夏もこんな暑さだった。
第一章
「あちー…」
「アイス食いてぇ…」
文句を垂れながら学校に向かう。それもそのはず、あたり一面田んぼの田舎の高校に歩きで通っているのだから。
僕と雄馬は生まれた時からずっとこの街に住んでいる。そして、保育園、小学校、中学校全て同じ学校に通って、ずっと一緒にいる。多分、一緒にいなかった日なんてなかった。
学校に着くと聡(さとし)と悠人(ゆうと)、寛太(かんた)が居た。
「あ、おはよー」
「お前らまーた一緒に来てんのかよ」
「いいだろ別に」
「え、てか昨日の動画見た?」
「寛太、お前夜に変な動画送ってくんじゃねーよ」
僕と雄馬の他にこいつら3人、計5人でいつも行動していた。今日もいつも通り喋っていると、雄馬がクラスの女子に話しかけられる。
「おはよう、雄馬君」
「あぁ、うん。おはよう」
「今日化学自習らしいよ、やったね」
「うん」
雄馬は女子にモテる。女子から見たら勉強と運動、両方出来てクールでかっこいいらしい。僕から見たらいつもぽけーっとしてて、たまに何考えてるのか分からない奴なのに。
「そんな見てやんなよ」
「なんだよ、嫉妬かぁ?笑」
「…ちげぇよ」
「お前もいつか彼女出来るって〜」
悠人達が揶揄うように俺の頭をわしゃわしゃと撫でる。ガキのように扱ってくるので嫌がっているとぬっと手が伸びてくる。
「何してんの」
俺を撫でる手を掴んでいるのはさっき女子からモテモテだった雄馬。何を考えているのか分からない無表情で見つめてくる。そうだ、いつもこの視線が僕を困らせる。
「別になんもしてねーよ」
「あーあー、哉太拗ねんなって」
「席に着けー、HRするぞー」
さっき聡に言われた“嫉妬”という言葉が頭に残る。雄馬が女子と話しているのを見る時、僕の胸に何かが突っかかるような嫌悪感がある。だが、今だにそれが嫉妬なのか何なのかは分からない。そんなことを考えていたら先生が教室を出ていくのを目の端に捉えた。どうやらHRは終わっていたようだ。
「__た、哉太」
「あ、ごめん」
目の前に視線を戻すと雄馬が目の前の席に座ってこちらに振り返っていた。
「お前絶対先生の話聞いてなかったろ」
「聞いてますー」
「じゃあなんて言ってた?」
「……色々」
「やっぱ聞いてねぇじゃん」
雄馬が呆れながら笑う。それに釣られて僕もふっ、と笑ってしまう。
「雄馬ー!哉太ー!」
遠くから悠人に手招きをされる。のそのそと立ち上がって3人の元に行く。
「なぁ、遊べんの今年が最後だしみんなでどっか行こうぜ」
聡が一番最初に提案したらしく、全員その案に賛成していた。高校2年生の夏が終わったら大学受験のことを考えて、少しずつ勉強をしていかなければいけない。
「行けても俺1日かもしんねぇ」
「俺もー」
全員部活には入っているが、力が入っている野球部の寛太とバレー部の悠人はさらに忙しそうだった。ちなみに、聡はバドミントン部、僕と雄馬はバスケ部だった。
「日帰りかぁ…海良くね?」
「あー確かに近いもんな」
悠人の地元から少し行った所にそこまで人気ではないが、海水浴場がある。
「んじゃ決定で」
と寛太が言うと丁度一限目のチャイムが鳴る。授業中に外を見て黄昏るという窓側の特権を使いながら海かぁ、と考える。そして、この夏が遊べる最後の夏という事実に少しだけ悲しさを感じる。あいつらはどこの大学に行くんだろう。俺はいまだに決まっていない。早く決めなければと思う気持ちはあっても色んな考え事に揉みくちゃにされていつも忘れる。そもそも、今後のことなんて何一つ考えてない。アイツはこれからどんな人生を歩むのだろうか。雄馬の方に視線を向けると目が合う。一瞬、呼吸を忘れる。
「前向けよ」
と微笑みながら口だけを動かして伝えてくる。心臓の鼓動が大きく、速くなるのを感じながら視線を黒板に移す。前では先生が高校生の青春を描いた文学的文章の一部分の解説をしている。
「あー、ここの”心臓がドクドクと音を立てて速くなる”。マーカー引いとけ。これはな、主人公がときめいた瞬間なんだな。」
こんな照れくさい文章解説するなよ、と言いたい気持ちを押し込めてマーカーを引く。
昼休みになると放送部が昼の放送を始める。一番最初に流れたのは最近流行りのラブソング。その後も愛だの恋だのを語った歌が流れていった。
5限目は自習の化学。近くの席の女子が恋バナをしている。
「好きな人誰?いい加減教えてよ」
「えー、じゃあヒントね。バスケ部」
「もーちょい!」
「うちのクラス、これ以上はダメ!」
「えー?もしかして柳沢?」
「違う、分かってるくせに」
朝の嫌悪感が僕を襲う。この嫌悪感が恋バナに名前が出されたことなのかは分からない。同時に僕は最近、何かと恋にまつわる話に敏感であることに気づいた。その理由に心当たりがあったが、頭の中でかき消して僕は机に突っ伏した。
この時の僕はまだ、内に秘めていた気持ちと向き合う覚悟が無かった。そして、そんな僕を置いて時間はどんどん進む。
「お前ら怪我だけはしないようになー、じゃ」
と担任がHRを終えると同時に教室には歓喜する声が沸き立つ。今日で高校2年生の一学期が終了したのだ。
「そんじゃ、明日なー!」
「おう、じゃーな」
徒歩通学の僕と雄馬、自転車通学の聡は校門を右に、電車通学の残り2人は左に曲がっていく。聡とは途中まで道が一緒の為、いつも3人で帰る。
「明日楽しみだな」
「海かぁ…最近は行ってねぇな」
「やべ、水着のサイズ合うかな」
なんて話しながら明日に期待の思いを膨らませる。他愛のない話を3人でしていたら時間もあっという間で、気付いたら聡と別れる道に着いてしまった。
「じゃーな」
そう言うと自転車にさっと跨って行ってしまう。その様子を背中が小さくなるぐらいまでぼーっと眺めていると肩を叩かれる。
「帰んねぇの?」
軽く振り返ると、雄馬がこちらの顔を少しだけ覗きながら不思議そうに訪ねてくる。
「んーん、帰る」
日陰の一つもない、炎天下にさらされる帰り道を2人でノロノロ歩く。
