御伽奇譚

「え、女の子、え?」

烏の鳴き声が響く夕方に、私は、理想と現実の差に打ちひしがれていた。

3月、出会いと別れの季節。桜が咲くにはまだ肌寒いようなそんな夕方、烏の鳴き声をBGMにした路地裏。夢見がちと友人には称される私の頭は、謎のイケメンとの出会いを妄想していたのだ。

それが、女の子。

この、薄汚れた白いワンピースに酷く傷んだ黒髪、日に焼けたことなんてありませんといった色をした肌の女の子なんて。そんな事件の香りが漂うどころか、むしろ事件側が嗅がせに来てるようなそんな場面に遭遇するだなんて、私は思わなかったのだ。
無論、例えこれが私の望み通り謎のイケメンとの出会いであっても事件なのは変わらない。
だが、私のような女子高生は夢を見てしまうのだ。ああ、イケメン相手であったのならば、例えどんな危険が待っていようとも守ってくれるのに……と。

「……あの、大丈夫、ですか?」

それでも、倒れている人を見過ごすことは出来ない。もし明日、彼女が死体か何かで見つかってしまうと、私にも都合が悪いからだ。
そんな利己的で歪んだ正義感を振り回すように、私はその女の子に声をかけた。
そんなんだから、お姫様になんかなれないんだよ。と、私の中のわたしが囁く。そうだ、お姫様はどんな人間相手でも優しくて、自分に全くメリットなんてないのに、そんなことも気にせずに誰かを助けるんだ。私は、微塵もそうはなれそうにないけれど。

「あのー、えっと………」
「っ___ああ、なんてことだ!眠ってしまうなど!」

私が肩を叩くと、少女は飛び起きた。消えてしまいそうなくらいに真っ白な肌はどこか幽霊じみているのに、放たれる声はよく響いた。

肩より上で切りそろえた傷んだ黒髪が揺れる。
少女の顔が上がる。
その顔は、驚くくらいに美しかった。

「あ、あなたは……」

少女は私の声に、その意思の強そうな目を見開く。普通の人ならばキツく見えてしまうその表情も、彼女にかかれば荒野に咲く薔薇みたいに輝いてしまう。あの子のあの目の色は、なんて言うのだったか。宝石みたいな色。そうだ、思い出した。紅玉。

ああ、羨ましい。

綺麗な顔。真っ白な肌。よく通る声。私とは大違い。平凡な顔で、地黒なわけじゃないけれど白い訳でもない肌で、声はいつも小さくて聞こえにくい。

お姫様みたいな女の子。

あの子になりたい。あの子みたいなお姫様になりたい。
ああ、羨ましい。あの子になりたい。

「あなたは、白雪姫みたい」