第21話【アレス編】魔王城を震撼させる、漆黒の〝パンツ勇者〟
「アレスさん、闇の勇者たるもの、敵の寝首をかく〝影〟でなければなりません……」
そう呟くのは、魔王軍随一の隠密使いアルファルド。黒子のように全身を黒いローブで包んだ彼は自身の〝存在感の薄さ〟を魔法に昇華させた、影の薄い魔術師だ。
「……ボクの特製、完全不可視化魔術をお見舞いします。これで貴方は誰にも気づかれず、敵の懐へ潜入できるはずです……」
「おおっ、透明人間!それこそ闇の勇者にふさわしい特殊能力だ!お願いします、アルファルドさん!」
『……嫌な予感しかしないわね』
腰のサタンブレイドが危惧する中、アルファルドはぼそぼそと呪文を唱え、アレスの体に透明化の魔術を吹きかけた。
「わあ、すごい!自分の手が見えない!足も見えない!これで僕は最強の暗殺者だ!」
「成功……ですね。では、そのまま魔王様の元へ報告に……ボクは消えます……」
アルファルドが満足げに文字通り消え去った後、アレスは意気揚々と謁見の間を目指した。
しかし、アレスがその日履いていたのは、魔王軍の入隊祝いに新調した、魔光糸で編まれた超光沢・漆黒のボクサーパンツだったのである。
このパンツ、魔力が強すぎてアルファルドの中途半端な透明化魔術を完璧に弾き返してしまった。
アレスは全身透明だと思い込んだまま、執務中の魔王ユピテルの元へと向かった。
本人は忍び足のつもりだが、客観的には、誰もいない廊下を虚空を浮遊し、リズミカルに左右に振れながら〝黒光りするパンツ〟が抜き足差し足で、じりじりと進んでいくという、地獄のような光景が展開されている。
『……ねぇ、さっきからすれ違う魔物たちが、すごい形相なんだけど』
「姿が見えないのに、僕の放つ〝闇のオーラ〟に圧倒されてるんだ!」
すれ違う魔物たちは、あまりの恐怖(と不審者っぷり)に声を出すこともできず、ただ無言で壁に張り付いてパンツの通過を見送った。
謁見の間の扉が開き、重厚な空気の中に〝それ〟は現れた。
玉座に座る魔王ユピテルは、報告書を読もうとしていた手を止めた。
魔王の視界の端に、重力を無視して、カニのような横歩きで接近してくる漆黒の下着が入ってきたからだ。
「…………お前。そこにいるのか、アレス」
「はいっ!魔王様!透明化した僕に気づくとは、さすがです!今の僕は誰にも見えないはずなのに!」
観測者である魔王から見れば、宙に浮いていたパンツが、這いずりながら自分に近づいてくるという、生理的嫌悪感を極限まで高めたホラー映像に他ならなかった。
「見えん。お前の顔も、体も、誠意も、何も見えん。だが、そのパンツだけが異常なまでの存在感を放っている!頼むから、そのままの格好で私に話しかけるな!」
『……は?』
「えっ?パンツ……?」
驚いたサタンブレイドが、慌てて透明なはずのアレスの腰あたりを見下ろした。
そこには、魔術を完璧に弾き返してテカテカと光り輝く、存在感の塊のようなボクサーパンツが、虚空にポツンと浮いていた。
『きゃああああああ!ちょっと、何これ!?なんでパンツだけ丸見えなのよ!』
「しまったぁぁ!これアルファルドさんの術がパンツの魔力に負けてる!?僕、今、パンツだけ!?」
アレスはパニックになり、とっさに〝見えない手〟でパンツを隠そうとした。
しかし手が見えないため、客観的には〝パンツが自らの意思で、もぞもぞと形を変えて蠢いている〟という、怪奇現象以外の何物でもない光景が繰り広げられた。
「お前……。敵を笑い死にさせるのが、闇の勇者としての新たな作戦か?」
「違うんです!違うんです魔王様!」
「……待て。来るな!それ以上、こちらに寄るな!」
焦ったアレスは、その場で全力疾走して逃げ出そうとした。
しかし、透明化のせいで距離感が掴めず、魔王の足元の階段に激突。パンツだけが〝べちんっ!〟と階段に叩きつけられ、情けない音を立てた。
※※※
数分後、効果が切れて姿が現れたアレスは、顔を真っ赤にして床に突っ伏していた。
その背後には、ようやく異変に気づいて戻ってきたアルファルドが、申し訳なさそうに立っている。
「アルファルド。お前の術の精度は認めるが、次からは……そうだな、お前が〝服を透かす術〟を覚えるか、アレスを全裸にするか、どちらかにしろ」
「全裸!?嫌ですよ!闇の勇者のデビューが〝全裸の変質者〟なんて絶望的すぎる!」
「安心しろ。お前の呼び名はすでに城内に広まっているぞ。……〝パンツ勇者〟」
「うわあああ!誰でもいいから、皆の記憶から僕を透明化して消し去ってくれぇぇ!」
『恥ずかしい!切腹させて!剣だけど!』
魔王城には、その後もしばらくの間、アレスの悲鳴と〝パンツ勇者事件〟が語り継がれることになった。
「アレスさん、闇の勇者たるもの、敵の寝首をかく〝影〟でなければなりません……」
そう呟くのは、魔王軍随一の隠密使いアルファルド。黒子のように全身を黒いローブで包んだ彼は自身の〝存在感の薄さ〟を魔法に昇華させた、影の薄い魔術師だ。
「……ボクの特製、完全不可視化魔術をお見舞いします。これで貴方は誰にも気づかれず、敵の懐へ潜入できるはずです……」
「おおっ、透明人間!それこそ闇の勇者にふさわしい特殊能力だ!お願いします、アルファルドさん!」
『……嫌な予感しかしないわね』
腰のサタンブレイドが危惧する中、アルファルドはぼそぼそと呪文を唱え、アレスの体に透明化の魔術を吹きかけた。
「わあ、すごい!自分の手が見えない!足も見えない!これで僕は最強の暗殺者だ!」
「成功……ですね。では、そのまま魔王様の元へ報告に……ボクは消えます……」
アルファルドが満足げに文字通り消え去った後、アレスは意気揚々と謁見の間を目指した。
しかし、アレスがその日履いていたのは、魔王軍の入隊祝いに新調した、魔光糸で編まれた超光沢・漆黒のボクサーパンツだったのである。
このパンツ、魔力が強すぎてアルファルドの中途半端な透明化魔術を完璧に弾き返してしまった。
アレスは全身透明だと思い込んだまま、執務中の魔王ユピテルの元へと向かった。
本人は忍び足のつもりだが、客観的には、誰もいない廊下を虚空を浮遊し、リズミカルに左右に振れながら〝黒光りするパンツ〟が抜き足差し足で、じりじりと進んでいくという、地獄のような光景が展開されている。
『……ねぇ、さっきからすれ違う魔物たちが、すごい形相なんだけど』
「姿が見えないのに、僕の放つ〝闇のオーラ〟に圧倒されてるんだ!」
すれ違う魔物たちは、あまりの恐怖(と不審者っぷり)に声を出すこともできず、ただ無言で壁に張り付いてパンツの通過を見送った。
謁見の間の扉が開き、重厚な空気の中に〝それ〟は現れた。
玉座に座る魔王ユピテルは、報告書を読もうとしていた手を止めた。
魔王の視界の端に、重力を無視して、カニのような横歩きで接近してくる漆黒の下着が入ってきたからだ。
「…………お前。そこにいるのか、アレス」
「はいっ!魔王様!透明化した僕に気づくとは、さすがです!今の僕は誰にも見えないはずなのに!」
観測者である魔王から見れば、宙に浮いていたパンツが、這いずりながら自分に近づいてくるという、生理的嫌悪感を極限まで高めたホラー映像に他ならなかった。
「見えん。お前の顔も、体も、誠意も、何も見えん。だが、そのパンツだけが異常なまでの存在感を放っている!頼むから、そのままの格好で私に話しかけるな!」
『……は?』
「えっ?パンツ……?」
驚いたサタンブレイドが、慌てて透明なはずのアレスの腰あたりを見下ろした。
そこには、魔術を完璧に弾き返してテカテカと光り輝く、存在感の塊のようなボクサーパンツが、虚空にポツンと浮いていた。
『きゃああああああ!ちょっと、何これ!?なんでパンツだけ丸見えなのよ!』
「しまったぁぁ!これアルファルドさんの術がパンツの魔力に負けてる!?僕、今、パンツだけ!?」
アレスはパニックになり、とっさに〝見えない手〟でパンツを隠そうとした。
しかし手が見えないため、客観的には〝パンツが自らの意思で、もぞもぞと形を変えて蠢いている〟という、怪奇現象以外の何物でもない光景が繰り広げられた。
「お前……。敵を笑い死にさせるのが、闇の勇者としての新たな作戦か?」
「違うんです!違うんです魔王様!」
「……待て。来るな!それ以上、こちらに寄るな!」
焦ったアレスは、その場で全力疾走して逃げ出そうとした。
しかし、透明化のせいで距離感が掴めず、魔王の足元の階段に激突。パンツだけが〝べちんっ!〟と階段に叩きつけられ、情けない音を立てた。
※※※
数分後、効果が切れて姿が現れたアレスは、顔を真っ赤にして床に突っ伏していた。
その背後には、ようやく異変に気づいて戻ってきたアルファルドが、申し訳なさそうに立っている。
「アルファルド。お前の術の精度は認めるが、次からは……そうだな、お前が〝服を透かす術〟を覚えるか、アレスを全裸にするか、どちらかにしろ」
「全裸!?嫌ですよ!闇の勇者のデビューが〝全裸の変質者〟なんて絶望的すぎる!」
「安心しろ。お前の呼び名はすでに城内に広まっているぞ。……〝パンツ勇者〟」
「うわあああ!誰でもいいから、皆の記憶から僕を透明化して消し去ってくれぇぇ!」
『恥ずかしい!切腹させて!剣だけど!』
魔王城には、その後もしばらくの間、アレスの悲鳴と〝パンツ勇者事件〟が語り継がれることになった。
