だから僕は、、、

「日本最古の土器はいつ頃だか知ってる?」
大学からいつものカフェへ向かう途中で突然彼女は聞いてきた。
「えっと1万年前とかでしたっけ」
唐突な問題に僕は動揺しつつもパッと思いついた数字を答える。
「およそ1万6500年前なんだって。何世代遡れば辿り着けるんだろうね」
彼女は遠くに目を向けながら答える。
「2、300世代は必要そうですかね」
「遠い世界だよね。この前行った美術館で古代遺跡をモチーフにした作品があって覚えちゃった」
「先輩そういう雑学を覚えるの好きですよね。」
「昔から関係ないことの方がよく覚えられるんだよね。法学部なら法律覚えた方がいいんだけど、、」
先輩こと宮下紗希はにかみながら言った。
僕と先輩は高校時代同じ部活動だった。大学も偶然同じところに行くことになったので、時々会っては大学での話や高校の思い出話をしていた。大学で出来た友達と過ごすのも良いが気心の知れている先輩と話すのは心地よく毎回この時間が楽しみだった。
着ていたアウターを脱ぎ、たどり着いた店の中に入るとピークを過ぎた時間にもかかわらず、昼休みのサラリーマンや女子会をしているおばさま方が席を埋めていた。
僕たちはしばらく入り口で待たされ、やがて窓辺の席に案内された。いつものようにアメリカンコーヒーと紅茶を注文し、二人とも椅子に深々ともたれかかった。
「こんなに混んでるの珍しいね」
「そうですね、いつもならすんなり入れるのに、何かキャンペーンでもやってるんですかね?」
「私たち同じものしか頼まないからそういうの分かんないよね」
「そうですね。たまには違うものでも頼んでみますかね」
僕はそう言いながらテーブルに置れたお冷を口にする。外の気温は10度を下回っているのにお冷は夏と変わらぬほどにキンキンに冷えていた。驚いた僕は少しだけ飲んですぐにテーブルに戻した。
「晴翔君、、今日呼んだ理由を話したいんだけど良いかな、、」
先輩は珍しく躊躇いがちに聞いてきた。何か大事な話をするのだと直感的に感じた僕は頷き、背もたれに寄っかかるのをやめて背筋を伸ばす。
「私、彼氏が出来たんだ」
先輩はゆっくりでもはっきりと言った。
「え、、」
その瞬間僕の視界が歪み始めた。
先輩に彼氏ができることは何も驚くことではなかった。綺麗で誰にでも優しくて、独り身な事が不思議に思っていたくらいだ。
それよりも彼女からその言葉を聞くまで僕は自分の気持ちに気がついていなかったのだ。
自分が宮下紗希のことをもう好きになってしまっていた事に、、、
いや気づかないフリをしていなのだと思う。今の先輩との関係が壊れるのが僕は怖かったのだ。
「おめでとうございます。全然気が付きませんでした。いつからですか?」
動揺をなんとか抑え、誠意一杯の笑顔を作って先輩に祝いの言葉を述べる。
「昨日、美術館へ行った帰りに告白されてそれで、、、」
相手は先輩と同じ学科の人でグループ発表の時に仲良くなったらしい。僕は、その日のコーヒーの味をよく覚えていない。
それ以来先輩と会う機会が減るようになった。彼氏が出来たのだから異性の人間と二人で会わなくなるのは当たり前のことだ。むしろ会わせてくれている相手の人もきっと優しい人なのだろうと思う。何より先輩は前にもまして笑顔が増えるようになり僕の知っているあの頃からどんどん変わっていった。
だから僕は、、