Scene 06_02.
知暎 : アニ、ほんとに寝てたらびっくりするでしょ。金縛りかと思ったわ。あたしとそっくりな人が部屋のドアにどーんと立ってるんだもん。
所姬 : だから誰があんな時間まで寝てんだって?
知暎 : 毎日残業で、家に帰っても書類持って詰めてくるあのクソ部長の圧に自分が潰されてみないと分かんないよ。
所姬 : 辞めちゃいなよ。あたしみたいに。あたしもオンニの会社の系列だったけど、我慢できなくなったわ。あたしは。毎日広報チームがどうのこうの。金を使うだの使わないだのどうのこうの。
知暎 : 辞めたとして。ここの管理費、あんたの家の管理費。何、ご先祖様が出してくれんの?
所姬がひくつきながら知暎の言葉に特に反論できなかった。肉を焼く傍らでも知暎と所姬は絶え間なく喋り続けるのに忙しかった。大きく開け放たれた窓から冷たい風が吹いた。晴れた日の冷たい風が、肉を焼く煙を外へ素早く追い出したが、以心と所姬は寒さに上着を羽織っていた。肉を懸命に焼いていた知暎の気さくな感想に、始緣はよく聞こえてもいない知暎の言葉に、ただ頷いてばかりいた。
以心 : 始緣も、来てくれてありがとうね。
そんな始緣の冷たい手を、以心が温かいが荒れた手で覆ってやった。始緣が粛然と頷いた。
始緣 : こ、言葉。楽にしてくだ。さい。
知暎と所姬が始緣の震える声に気づいた。始緣の隣に座っていた以心が、始緣の泣きそうな声を聞いた。
以心 : うん。始緣。来てくれてありがとう。一緒にオンニたちとご飯食べさせたかったのよ。
始緣のぽろぽろとした涙が以心の手の甲の上に落ちた。知暎が肉を焦がさないよう下ろしながら、二人の様子を見守った。所姬は火加減をしばし弱めておいた。
以心 : うちの始緣も、大変だったのね。
始緣は首を横に振った。ただ恋しかっただけだった。優しさも恋しかったし、賑やかさも恋しかった。そして、妹も恋しかった。その全てを抱こうとした以心の温かかった手が、いつも始緣の頭の中をめぐっていた。同じ姿でも大人びていた知暎の冷たい手をもう一度握りたかった。そんな自分をここへ導いてくれた所姬の荒い温かさが、あまりにも大切だった。始緣は以心の言葉に答えられなかった。大振りな知暎のジャージに着替えた以心のだぼっとした姿までもが、始緣にはあまりにも温かく映った。ことさら気にかけることもなく、娘に向き合う母のように寄り添ってくれた以心が始緣には温かかった。ひとつの言葉に込められた、始緣の歩んできた長い時間への労わりに、始緣は返事ができなかった。始緣は何度も首を横に振った。そんな始緣の意地に、以心は黙って始緣を抱き締め、始緣の長い時間を包もうとした。始緣が子どものように声を上げて泣いた。遠い昔、自分が声を上げて泣いた幼い頃の自分の姿が重なった。知暎が軽く笑いながら、赤い肉を鉄板の上に載せた。しばらく以心に抱かれて泣いていた始緣が、肉の焼ける匂いにゆっくりと身を離した。以心の肩へ鼻水がずるりと伸びていた。知暎がティッシュを取り出して始緣に渡すと、始緣は慌てたように鼻水よりも先に、以心の肩から片付けてやった。以心は大したことでもなさそうに始緣の手を押し退けた。始緣が鼻水と涙を片付け、ぱんぱんに腫れた目のまま、指先まで知暎とそっくりな始緣が、肉をぞんざいに撫でるように指差して言った。
始緣 : 肉。
以心 : え??
始緣 : 焼けてます。
以心 : そう。じゃあ、うちの長女が焼いてくれた肉、食べましょ!
残りの肉を切り分けながら、肉汁をしっかり含ませた肉を焼き上げていった。
Scene 06_03.
以心が知暎の居間のソファにべたりと寝転がったまま、冷たい始緣の手を握ってやっていた。テレビを点けたまま、中で騒ぐ声に反応していた以心だったが、始緣はテレビよりも以心の温かい手が好きだった。皿洗いを騒がしく続けていた知暎と所姬。所姬が頭を巡らせ、居間に座っていた始緣に噛みついた。
所姬 : おい。そこの末っ子。オンニたちが皿洗いしてるの見えないの??
知暎が所姬を咎めるように洗い桶の泡水を飛ばした。
知暎 : また、また趙所姬が縄張り意識出してる。自分だってお母さんにお母さんって呼び始めてまだ間もないくせに。
所姬 : オンニ。あたしとあんなに長いこと一緒にいたくせに、こうやって叩きつけるの?
知暎と所姬の騒がしい皿洗いに、以心が笑いながらちらりと台所を見やった。始緣を見ては渋い顔をした以心が、始緣を見ながら知暎と所姬を詰った。
以心 : あんたのオンニたち、幼稚でしょ?
始緣が黙って頷いた。以心が始緣の手を放しては、再び手を差し出した。
以心 : 今度はそっちの手ちょうだい。溶かしてあげる。
しばらく握っていた始緣の手が、普通の人ほどに温かくなった時、始緣がそっと差し出したもう片方の手を以心が温かく握ってやった。手を握ったまま、以心が小さな声で始緣に言葉を伝えた。
以心 : 始緣。忘れないで。
始緣 : え?
以心 : たとえあなたが何になろうとも。あなたは、李始緣なの。あなたを奪われないで。誰にも。分かるでしょ? あなたのように大切な子が、死に振り回されてはいけない。
テレビを見ながら伝えた言葉だったが、始緣にはその意味が何であるか察することができた。
以心 : あなたが知暎の鏡だとは言うけれど、その前に、李始緣なの。あたしにとっては、知暎も、連曦も。所姬も始緣も。みんな大切なあたしの子どもたちだから。だから、絶対に奪われないで。知暎も、所姬も。この場にいない連曦も、あなたを助けてくれるわ。あなたも助けてあげるのでしょうけど。
始緣 : ……はい……
所姬がちらりと知暎の様子を窺った。知暎が所姬の視線に軽い微笑みで応えた。
知暎 : 今日が過ぎれば、一緒にご飯くらい食べられるようになるって話でしょ。当然心配はするけど、仕方ないよ。まあ。知ってる当人が一番辛いものだし。
以心 : 連曦が心配?
所姬 : はい。今日か明日のうちに起きそうで……
以心の表情がいくらか曇った。
始緣 : 連曦なら。あの時。あたしが。
所姬が連曦と始緣の初めての出会いを思い起こした。
所姬 : あ。そうだね。所長が始緣の肩へし折ったんだっけ。
始緣 : 違うよ! あれはあたしが抜こうとしてわざと。あの。そうだったよね。うん。そんでそうなったよね。あ。そうだよね。
知暎 : 何言ってんの? 今度はまた。
大したことでもなさそうにうやむやに流すと、以心が何かを思い出したらしく、急いで身を起こした。
以心 : あたしったら何やってんだか。
以心が皿洗いを終えてソファへ近づいてきた知暎と所姬に頼みを伝えた。
以心 : 来る時、お母さんの手提げちょっと持ってきてくれる?
所姬が何気なく歩みを運び、台所のテーブルに置かれた小さな鞄を持ってきた。以心は依然として始緣の手を握ったまま、手提げから小さな瓢箪瓶を取り出した。
以心 : 始緣。ほら。
始緣が残った片方の手で、以心が差し出した瓢箪瓶を受け取った。
所姬 : あ。出来上がったんだ。
以心 : そうみたいよ。今日、始緣が来られなかったら、所姬に持たせて送ろうと思ってたんだけど、ちょうどよかった。
始緣が瓢箪瓶の蓋を開け、中から漂う匂いを嗅いでみた。思いのほかそれらしい木の香りが立ち上ってきた。
知暎 : でも、それ信用できるの? 慶瑞って人が作る試薬飲んで、お母さん三日間酔っ払いみたいに歩き回ってたでしょ。
始緣は瓢箪瓶に入った液体をすでに口の中へ流し込んでいた。知暎の言葉に、飲みかけの瓢箪瓶をそのまま持ったまま凍りついた。残った液体を飲むか飲むまいか迷っている気配がありありだった。全員が始緣を注視した。始緣がままよとばかりに、目をぎゅっと瞑って残りの液体を全て流し込んだ。妙な苦味に、始緣の顔がひとりでにしかめられた。所姬が再び台所へ向かい、洗っておいた葡萄の房を盆に載せて持ってきた。
所姬 : 食べな。口が苦いでしょ。
始緣が顔をしかめきったまま、瓢箪瓶を確かめた。
始緣 : おい。これ。コーラの味がするんだけど。合ってる?
以心と知暎、所姬の全員が飲んだことのない薬物であったため、答えてやることはできなかった。
以心 : 効果は、たぶん、それでも。あるわよ。副作用も伴うかもしれないけど。
始緣 : 副作用が、どんなのですか?
知暎 : いろいろあるよ。お母さんは酔っ払いみたいに歩き回ったし。まあ、連曦さんは聞いた話だと二日間脱水症状まで出たっていうけど。あんたは? 大丈夫?
始緣がそっと頷いてみせた。特に異常はないと思っていたその瞬間。始緣の腹からぐるぐると音が鳴り始めた。
始緣 : ??
慌てて立ち上がった始緣が、どこかを探し回った。緊急事態であるかのように、知暎が慌てたまま始緣に訊いた。
知暎 : トイレ?? トイレ???
始緣が急いで頷いた。腹を抱えた始緣が知暎の指が示した先へ駆け込んだ。広いマンションであったため、トイレから聞こえるであろう音は幸いにも聞こえなかった。所姬がそっと空咳をしてから電話を手に取り、慶瑞に直接電話を入れた。
知暎 : アニ、ほんとに寝てたらびっくりするでしょ。金縛りかと思ったわ。あたしとそっくりな人が部屋のドアにどーんと立ってるんだもん。
所姬 : だから誰があんな時間まで寝てんだって?
知暎 : 毎日残業で、家に帰っても書類持って詰めてくるあのクソ部長の圧に自分が潰されてみないと分かんないよ。
所姬 : 辞めちゃいなよ。あたしみたいに。あたしもオンニの会社の系列だったけど、我慢できなくなったわ。あたしは。毎日広報チームがどうのこうの。金を使うだの使わないだのどうのこうの。
知暎 : 辞めたとして。ここの管理費、あんたの家の管理費。何、ご先祖様が出してくれんの?
所姬がひくつきながら知暎の言葉に特に反論できなかった。肉を焼く傍らでも知暎と所姬は絶え間なく喋り続けるのに忙しかった。大きく開け放たれた窓から冷たい風が吹いた。晴れた日の冷たい風が、肉を焼く煙を外へ素早く追い出したが、以心と所姬は寒さに上着を羽織っていた。肉を懸命に焼いていた知暎の気さくな感想に、始緣はよく聞こえてもいない知暎の言葉に、ただ頷いてばかりいた。
以心 : 始緣も、来てくれてありがとうね。
そんな始緣の冷たい手を、以心が温かいが荒れた手で覆ってやった。始緣が粛然と頷いた。
始緣 : こ、言葉。楽にしてくだ。さい。
知暎と所姬が始緣の震える声に気づいた。始緣の隣に座っていた以心が、始緣の泣きそうな声を聞いた。
以心 : うん。始緣。来てくれてありがとう。一緒にオンニたちとご飯食べさせたかったのよ。
始緣のぽろぽろとした涙が以心の手の甲の上に落ちた。知暎が肉を焦がさないよう下ろしながら、二人の様子を見守った。所姬は火加減をしばし弱めておいた。
以心 : うちの始緣も、大変だったのね。
始緣は首を横に振った。ただ恋しかっただけだった。優しさも恋しかったし、賑やかさも恋しかった。そして、妹も恋しかった。その全てを抱こうとした以心の温かかった手が、いつも始緣の頭の中をめぐっていた。同じ姿でも大人びていた知暎の冷たい手をもう一度握りたかった。そんな自分をここへ導いてくれた所姬の荒い温かさが、あまりにも大切だった。始緣は以心の言葉に答えられなかった。大振りな知暎のジャージに着替えた以心のだぼっとした姿までもが、始緣にはあまりにも温かく映った。ことさら気にかけることもなく、娘に向き合う母のように寄り添ってくれた以心が始緣には温かかった。ひとつの言葉に込められた、始緣の歩んできた長い時間への労わりに、始緣は返事ができなかった。始緣は何度も首を横に振った。そんな始緣の意地に、以心は黙って始緣を抱き締め、始緣の長い時間を包もうとした。始緣が子どものように声を上げて泣いた。遠い昔、自分が声を上げて泣いた幼い頃の自分の姿が重なった。知暎が軽く笑いながら、赤い肉を鉄板の上に載せた。しばらく以心に抱かれて泣いていた始緣が、肉の焼ける匂いにゆっくりと身を離した。以心の肩へ鼻水がずるりと伸びていた。知暎がティッシュを取り出して始緣に渡すと、始緣は慌てたように鼻水よりも先に、以心の肩から片付けてやった。以心は大したことでもなさそうに始緣の手を押し退けた。始緣が鼻水と涙を片付け、ぱんぱんに腫れた目のまま、指先まで知暎とそっくりな始緣が、肉をぞんざいに撫でるように指差して言った。
始緣 : 肉。
以心 : え??
始緣 : 焼けてます。
以心 : そう。じゃあ、うちの長女が焼いてくれた肉、食べましょ!
残りの肉を切り分けながら、肉汁をしっかり含ませた肉を焼き上げていった。
Scene 06_03.
以心が知暎の居間のソファにべたりと寝転がったまま、冷たい始緣の手を握ってやっていた。テレビを点けたまま、中で騒ぐ声に反応していた以心だったが、始緣はテレビよりも以心の温かい手が好きだった。皿洗いを騒がしく続けていた知暎と所姬。所姬が頭を巡らせ、居間に座っていた始緣に噛みついた。
所姬 : おい。そこの末っ子。オンニたちが皿洗いしてるの見えないの??
知暎が所姬を咎めるように洗い桶の泡水を飛ばした。
知暎 : また、また趙所姬が縄張り意識出してる。自分だってお母さんにお母さんって呼び始めてまだ間もないくせに。
所姬 : オンニ。あたしとあんなに長いこと一緒にいたくせに、こうやって叩きつけるの?
知暎と所姬の騒がしい皿洗いに、以心が笑いながらちらりと台所を見やった。始緣を見ては渋い顔をした以心が、始緣を見ながら知暎と所姬を詰った。
以心 : あんたのオンニたち、幼稚でしょ?
始緣が黙って頷いた。以心が始緣の手を放しては、再び手を差し出した。
以心 : 今度はそっちの手ちょうだい。溶かしてあげる。
しばらく握っていた始緣の手が、普通の人ほどに温かくなった時、始緣がそっと差し出したもう片方の手を以心が温かく握ってやった。手を握ったまま、以心が小さな声で始緣に言葉を伝えた。
以心 : 始緣。忘れないで。
始緣 : え?
以心 : たとえあなたが何になろうとも。あなたは、李始緣なの。あなたを奪われないで。誰にも。分かるでしょ? あなたのように大切な子が、死に振り回されてはいけない。
テレビを見ながら伝えた言葉だったが、始緣にはその意味が何であるか察することができた。
以心 : あなたが知暎の鏡だとは言うけれど、その前に、李始緣なの。あたしにとっては、知暎も、連曦も。所姬も始緣も。みんな大切なあたしの子どもたちだから。だから、絶対に奪われないで。知暎も、所姬も。この場にいない連曦も、あなたを助けてくれるわ。あなたも助けてあげるのでしょうけど。
始緣 : ……はい……
所姬がちらりと知暎の様子を窺った。知暎が所姬の視線に軽い微笑みで応えた。
知暎 : 今日が過ぎれば、一緒にご飯くらい食べられるようになるって話でしょ。当然心配はするけど、仕方ないよ。まあ。知ってる当人が一番辛いものだし。
以心 : 連曦が心配?
所姬 : はい。今日か明日のうちに起きそうで……
以心の表情がいくらか曇った。
始緣 : 連曦なら。あの時。あたしが。
所姬が連曦と始緣の初めての出会いを思い起こした。
所姬 : あ。そうだね。所長が始緣の肩へし折ったんだっけ。
始緣 : 違うよ! あれはあたしが抜こうとしてわざと。あの。そうだったよね。うん。そんでそうなったよね。あ。そうだよね。
知暎 : 何言ってんの? 今度はまた。
大したことでもなさそうにうやむやに流すと、以心が何かを思い出したらしく、急いで身を起こした。
以心 : あたしったら何やってんだか。
以心が皿洗いを終えてソファへ近づいてきた知暎と所姬に頼みを伝えた。
以心 : 来る時、お母さんの手提げちょっと持ってきてくれる?
所姬が何気なく歩みを運び、台所のテーブルに置かれた小さな鞄を持ってきた。以心は依然として始緣の手を握ったまま、手提げから小さな瓢箪瓶を取り出した。
以心 : 始緣。ほら。
始緣が残った片方の手で、以心が差し出した瓢箪瓶を受け取った。
所姬 : あ。出来上がったんだ。
以心 : そうみたいよ。今日、始緣が来られなかったら、所姬に持たせて送ろうと思ってたんだけど、ちょうどよかった。
始緣が瓢箪瓶の蓋を開け、中から漂う匂いを嗅いでみた。思いのほかそれらしい木の香りが立ち上ってきた。
知暎 : でも、それ信用できるの? 慶瑞って人が作る試薬飲んで、お母さん三日間酔っ払いみたいに歩き回ってたでしょ。
始緣は瓢箪瓶に入った液体をすでに口の中へ流し込んでいた。知暎の言葉に、飲みかけの瓢箪瓶をそのまま持ったまま凍りついた。残った液体を飲むか飲むまいか迷っている気配がありありだった。全員が始緣を注視した。始緣がままよとばかりに、目をぎゅっと瞑って残りの液体を全て流し込んだ。妙な苦味に、始緣の顔がひとりでにしかめられた。所姬が再び台所へ向かい、洗っておいた葡萄の房を盆に載せて持ってきた。
所姬 : 食べな。口が苦いでしょ。
始緣が顔をしかめきったまま、瓢箪瓶を確かめた。
始緣 : おい。これ。コーラの味がするんだけど。合ってる?
以心と知暎、所姬の全員が飲んだことのない薬物であったため、答えてやることはできなかった。
以心 : 効果は、たぶん、それでも。あるわよ。副作用も伴うかもしれないけど。
始緣 : 副作用が、どんなのですか?
知暎 : いろいろあるよ。お母さんは酔っ払いみたいに歩き回ったし。まあ、連曦さんは聞いた話だと二日間脱水症状まで出たっていうけど。あんたは? 大丈夫?
始緣がそっと頷いてみせた。特に異常はないと思っていたその瞬間。始緣の腹からぐるぐると音が鳴り始めた。
始緣 : ??
慌てて立ち上がった始緣が、どこかを探し回った。緊急事態であるかのように、知暎が慌てたまま始緣に訊いた。
知暎 : トイレ?? トイレ???
始緣が急いで頷いた。腹を抱えた始緣が知暎の指が示した先へ駆け込んだ。広いマンションであったため、トイレから聞こえるであろう音は幸いにも聞こえなかった。所姬がそっと空咳をしてから電話を手に取り、慶瑞に直接電話を入れた。
