本作は現在、MUNPIA、Royal Road、エブリスタ、ノベマ!、Purrfiction、アルファポリスにて、著者本人が直接連載を行っている公式原稿です。
Scene 01.
緩やかに昇る陽が、広々としたリビングへ押し寄せ始めていた。所姬(ソヒ)がごそごそと寝返りを打ちながら、浅い眠りに疲れた顔色を隠せずにいた。床の上で丸くなっていた身体を起こすと、秋だというのに暑さが猛々しい勢いを緩めず、見慣れぬ部屋の奥深くまで熱を送り込んでいた。汗が流れたまま目を開けた所姬が、額に滲んだ湿り気を小さな手で拭い上げてから、素足を床に下ろして立ち上がった。暑さの中、仕方なく赤いセーターを着たまま眠っていた所姬が、ようやく目を開けて確認した電話には、知暎(ジヨン)からのメッセージが入っていた。
知暎 : もうすぐ着く。気をつけていて。
念押しに近い言葉だった。かなり深い寝坊をしたようで、所姬が身体をぎしぎしと起こして外へ出た。扉の向こうへ歩を進めると、静まり返った空気の中、始緣(シヨン)が流したらしい水音が浴室から聞こえてきた。気の重い溜息が自然と漏れた。所姬がリビングの床に素足を踏み出しながら歩を進めたとき、ふいに水気を帯びた床を感じ取った。澄んだ水がリビングの床一面をぐっしょりと濡らしていた。水の流れ出す先へ所姬の視線が移った。浴室だった。所姬がひどく緊張したまま、さざめくように溢れ出した水の上を歩き、浴室へ向かった。思ったより早く始まるのだと覚悟し、決意を改めて固く胸に据えた。浴室に近づくほど水は少しずつ深く溜まっていた。所姬が足音を極力殺しながら慎重に浴室へ向かったとき、所姬のうなじに冷たい金属の感触が伝わった。所姬は振り返らなかった。両手をゆっくりと上げ、抵抗しないという仕草を見せた。所姬の膝裏を荒く蹴り、床に膝をつかせてから、じゃらつく手錠を所姬の手首に嵌めた。足で所姬を押して床に倒したあと、怒りに満ちた表情で所姬を睨みつけた。
奏賢(ジュヒョン) : お前も、仲間か?
憎悪だった。所姬は憎悪の理由を正確に知っていた。今自分を蹴りつけた人間が誰であるかも分かっていた。長い髪が床に散らばったまま、溜まった水に浸かっていった。所姬が口を開いて何か言おうとすると、銃口を向けた人間がいきなり所姬の口を蹴り上げた。血が溢れた。唇が裂け、血が水に混じって流れ出した。そして所姬は答えた。否定しなかった。
所姬 : はい。
所姬の答えとともに、奏賢が蹴りを浴びせ続け、所姬の腹も顔も、手当たり次第に蹴りつけていた。目に入るもの全てを蹴り飛ばすのに忙しかった。所姬は抵抗しなかった。奏賢の怒りが収まるまで受け入れた。まぶたが裂けて腫れ上がった。まともに目を開けられないほど殴りつけられた所姬。血を荒い咳に混ぜて吐き出すと、奏賢が浴びせていた蹴りを一瞬止めた。満身創痍の所姬の髪を掴み上げたあと、所姬の言葉を聞こうと膝を落として座り込んだ。奏賢の憎悪に満ちた表情が、凄まじい感情を隠そうともしていなかった。奏賢の手に握られた銃が、血に汚れていく所姬の顎の下へ近づいた。
奏賢 : 言ってみろ。なんでうちの末っ子の顔も分からないくらいに潰したのか。お前らが何者なのか。
所姬が震えていた。次に起こることが一瞬のうちに頭を過ぎった。そして知っていたからこそ、覚悟だけでは防ぎきれない恐怖が押し寄せてきた。
奏賢 : 末っ子の顔をぶっ潰したアマは今、浴槽でくたばってる。俺は、今日お前らを殺して俺も死ぬ。警察としてお前らに対するつもりはねえから。言え。なんでそんなことした? お前らは何者だ?
所姬 : 申し訳ありません。
所姬の謝罪に、奏賢が一瞬揺れる眼差しを落とした。所姬もそうだし、浴槽に倒れていた始緣もそうだった。これまでかなり多くの犯人を捕まえてきた。年齢のわりに良い実績と成績で、警察内部での昇進も早かった奏賢だった。所姬も、始緣も、目つきは鋭かったが、人を殺したり傷つけたりする目つきではなかった。だが揺れないつもりだった。畳みかけなければ気が済みそうになかった。遊底を引き、引き金を絞った。所姬の太腿をそのまま貫いた弾丸が、所姬の太腿を撃ち抜いた。所姬が顔を大きく歪めて身を竦ませた。悲鳴一つ上げまいと奥歯を強く噛み締める所姬の意志を褒めるように、奏賢が嘲笑をたっぷりと含んだまま、血をどろりと滲ませる太腿へ立て続けに弾を撃ち込んだ。ついに所姬の口から堪えていた悲鳴が溢れ出た。聞きたかった声だとでも言うように、奏賢が残弾を全て撃ち尽くし、後ろに反った銃口を持ち上げて所姬の顎に押しつけた。弾を撃ち尽くした銃口は焼けるだけ焼けていた。所姬の肉が焦げていく臭いが漂った。
奏賢 : あいつは、何も知らなかったな。お前は分かるだろ? お前らが何者か。あるいは、お前らの後ろに誰がいるのか。なぜそうしたのか。お前ら二人がやったことなのか。知りたいことが山ほどある。だから言え。誰だ。お前らは。
所姬が荒い息をしながら、血の滲む口を僅かに動かした。
所姬 : 申し訳ありません。本当に。意図したことでも、望んだことでもありませんでした。本当に。すみませ——
浴室のドアが激しく砕けた。嵌められていた手錠を断ち切った始緣が素早く飛びかかり、所姬を脅していた奏賢に覆いかぶさった。奏賢が床に転がりながら始緣としばし絡み合っていた。始緣の顔には黒い水の筋がべったりと付いていた。
始緣 : やめて。あたしがやったの。この子じゃない!! あたしだって!!
奏賢が驚いた目を見開いたまま、何もできずに始緣の絶叫を見つめていた。
奏賢 : どうやって。お前が。
始緣 : あたしの顔をナイフでえぐればよかったでしょ!! あたしにやれ!! あたしに!!!
奏賢が信じられないという表情を収め、自分の身体を押さえつけている始緣の胸倉を掴み、力いっぱい後ろへ投げ飛ばした。手に持った空の銃を素早く装填し直してから、倒れていた身体を起こし、所姬の背後に回った。投げ飛ばされた始緣が起き上がって再び奏賢に飛びかかろうとしたが、所姬の首に向けられた奏賢の銃口に、始緣は迂闊に出られなかった。
奏賢 : お前。顔。なんで無傷なんだ。俺は確かに。
始緣 : 見ても分かんないの? あたしが血でも流した?? あたしがやった。あたしが殺したんだ。だからあの子を放して。あの子に命じられたわけでもないし、あの子は止めようとしてたから。だから。
始緣の執拗な説得が続くほど、奏賢はむしろ恐れと疑念を捨てていった。ただ血生臭い笑みだけが残ったとき、所姬のうなじに当てた銃口をもう一段近づけた。
奏賢 : 大事なアマみたいだな。
始緣 : ……は?
奏賢 : お前がくたばってりゃ、こいつは助かったのに。お前の口から聞いてもいいってことだろ。違うか?
奏賢がそのまま所姬に弾を撃ち込んだ。立て続けに火薬が弾け、所姬の血と赤い埃が四方に飛び散った。始緣が所姬の力ない瞳を見つめながら、茫然とした表情でただ座り込んでいた。奏賢が空の銃を再び装填してから、力なく崩れ落ちる所姬を脇へ放り出した。そして何事もなかったかのように、所姬の身体を通り過ぎて始緣に向かった。奏賢が始緣の髪を掴んで向き合うように座り、一切の意志が消えた始緣を嘲笑った。奏賢が始緣の胸の上に銃口を突きつけ、残りの弾を全て撃ち込んだ。始緣はただ身を竦ませるだけで、死にもしないまま倒れた所姬を見つめているだけだった。呆然とした始緣が次第に憎悪を募らせ奏賢を睨もうとしたとき、黒い鉄線が奏賢の手首を掴み取った。奏賢の身体を力いっぱい引き寄せ、玄関のドアまで一息に引きずった黒い鉄線が、奏賢の身体を玄関に叩きつけてから、奏賢の意識を一瞬失わせた。知暎が施錠されていた玄関のドアを打ち破って駆け込み、鉄線で所姬と始緣の手錠を砕いた。知暎が所姬を抱えたまま、鉄線を放って窓の外へ身を投げた。上へ昇っていく知暎の姿に、始緣がドアの外へ飛び出し、知暎と所姬が向かったであろう場所へ歩を進めた。
Scene 01.
緩やかに昇る陽が、広々としたリビングへ押し寄せ始めていた。所姬(ソヒ)がごそごそと寝返りを打ちながら、浅い眠りに疲れた顔色を隠せずにいた。床の上で丸くなっていた身体を起こすと、秋だというのに暑さが猛々しい勢いを緩めず、見慣れぬ部屋の奥深くまで熱を送り込んでいた。汗が流れたまま目を開けた所姬が、額に滲んだ湿り気を小さな手で拭い上げてから、素足を床に下ろして立ち上がった。暑さの中、仕方なく赤いセーターを着たまま眠っていた所姬が、ようやく目を開けて確認した電話には、知暎(ジヨン)からのメッセージが入っていた。
知暎 : もうすぐ着く。気をつけていて。
念押しに近い言葉だった。かなり深い寝坊をしたようで、所姬が身体をぎしぎしと起こして外へ出た。扉の向こうへ歩を進めると、静まり返った空気の中、始緣(シヨン)が流したらしい水音が浴室から聞こえてきた。気の重い溜息が自然と漏れた。所姬がリビングの床に素足を踏み出しながら歩を進めたとき、ふいに水気を帯びた床を感じ取った。澄んだ水がリビングの床一面をぐっしょりと濡らしていた。水の流れ出す先へ所姬の視線が移った。浴室だった。所姬がひどく緊張したまま、さざめくように溢れ出した水の上を歩き、浴室へ向かった。思ったより早く始まるのだと覚悟し、決意を改めて固く胸に据えた。浴室に近づくほど水は少しずつ深く溜まっていた。所姬が足音を極力殺しながら慎重に浴室へ向かったとき、所姬のうなじに冷たい金属の感触が伝わった。所姬は振り返らなかった。両手をゆっくりと上げ、抵抗しないという仕草を見せた。所姬の膝裏を荒く蹴り、床に膝をつかせてから、じゃらつく手錠を所姬の手首に嵌めた。足で所姬を押して床に倒したあと、怒りに満ちた表情で所姬を睨みつけた。
奏賢(ジュヒョン) : お前も、仲間か?
憎悪だった。所姬は憎悪の理由を正確に知っていた。今自分を蹴りつけた人間が誰であるかも分かっていた。長い髪が床に散らばったまま、溜まった水に浸かっていった。所姬が口を開いて何か言おうとすると、銃口を向けた人間がいきなり所姬の口を蹴り上げた。血が溢れた。唇が裂け、血が水に混じって流れ出した。そして所姬は答えた。否定しなかった。
所姬 : はい。
所姬の答えとともに、奏賢が蹴りを浴びせ続け、所姬の腹も顔も、手当たり次第に蹴りつけていた。目に入るもの全てを蹴り飛ばすのに忙しかった。所姬は抵抗しなかった。奏賢の怒りが収まるまで受け入れた。まぶたが裂けて腫れ上がった。まともに目を開けられないほど殴りつけられた所姬。血を荒い咳に混ぜて吐き出すと、奏賢が浴びせていた蹴りを一瞬止めた。満身創痍の所姬の髪を掴み上げたあと、所姬の言葉を聞こうと膝を落として座り込んだ。奏賢の憎悪に満ちた表情が、凄まじい感情を隠そうともしていなかった。奏賢の手に握られた銃が、血に汚れていく所姬の顎の下へ近づいた。
奏賢 : 言ってみろ。なんでうちの末っ子の顔も分からないくらいに潰したのか。お前らが何者なのか。
所姬が震えていた。次に起こることが一瞬のうちに頭を過ぎった。そして知っていたからこそ、覚悟だけでは防ぎきれない恐怖が押し寄せてきた。
奏賢 : 末っ子の顔をぶっ潰したアマは今、浴槽でくたばってる。俺は、今日お前らを殺して俺も死ぬ。警察としてお前らに対するつもりはねえから。言え。なんでそんなことした? お前らは何者だ?
所姬 : 申し訳ありません。
所姬の謝罪に、奏賢が一瞬揺れる眼差しを落とした。所姬もそうだし、浴槽に倒れていた始緣もそうだった。これまでかなり多くの犯人を捕まえてきた。年齢のわりに良い実績と成績で、警察内部での昇進も早かった奏賢だった。所姬も、始緣も、目つきは鋭かったが、人を殺したり傷つけたりする目つきではなかった。だが揺れないつもりだった。畳みかけなければ気が済みそうになかった。遊底を引き、引き金を絞った。所姬の太腿をそのまま貫いた弾丸が、所姬の太腿を撃ち抜いた。所姬が顔を大きく歪めて身を竦ませた。悲鳴一つ上げまいと奥歯を強く噛み締める所姬の意志を褒めるように、奏賢が嘲笑をたっぷりと含んだまま、血をどろりと滲ませる太腿へ立て続けに弾を撃ち込んだ。ついに所姬の口から堪えていた悲鳴が溢れ出た。聞きたかった声だとでも言うように、奏賢が残弾を全て撃ち尽くし、後ろに反った銃口を持ち上げて所姬の顎に押しつけた。弾を撃ち尽くした銃口は焼けるだけ焼けていた。所姬の肉が焦げていく臭いが漂った。
奏賢 : あいつは、何も知らなかったな。お前は分かるだろ? お前らが何者か。あるいは、お前らの後ろに誰がいるのか。なぜそうしたのか。お前ら二人がやったことなのか。知りたいことが山ほどある。だから言え。誰だ。お前らは。
所姬が荒い息をしながら、血の滲む口を僅かに動かした。
所姬 : 申し訳ありません。本当に。意図したことでも、望んだことでもありませんでした。本当に。すみませ——
浴室のドアが激しく砕けた。嵌められていた手錠を断ち切った始緣が素早く飛びかかり、所姬を脅していた奏賢に覆いかぶさった。奏賢が床に転がりながら始緣としばし絡み合っていた。始緣の顔には黒い水の筋がべったりと付いていた。
始緣 : やめて。あたしがやったの。この子じゃない!! あたしだって!!
奏賢が驚いた目を見開いたまま、何もできずに始緣の絶叫を見つめていた。
奏賢 : どうやって。お前が。
始緣 : あたしの顔をナイフでえぐればよかったでしょ!! あたしにやれ!! あたしに!!!
奏賢が信じられないという表情を収め、自分の身体を押さえつけている始緣の胸倉を掴み、力いっぱい後ろへ投げ飛ばした。手に持った空の銃を素早く装填し直してから、倒れていた身体を起こし、所姬の背後に回った。投げ飛ばされた始緣が起き上がって再び奏賢に飛びかかろうとしたが、所姬の首に向けられた奏賢の銃口に、始緣は迂闊に出られなかった。
奏賢 : お前。顔。なんで無傷なんだ。俺は確かに。
始緣 : 見ても分かんないの? あたしが血でも流した?? あたしがやった。あたしが殺したんだ。だからあの子を放して。あの子に命じられたわけでもないし、あの子は止めようとしてたから。だから。
始緣の執拗な説得が続くほど、奏賢はむしろ恐れと疑念を捨てていった。ただ血生臭い笑みだけが残ったとき、所姬のうなじに当てた銃口をもう一段近づけた。
奏賢 : 大事なアマみたいだな。
始緣 : ……は?
奏賢 : お前がくたばってりゃ、こいつは助かったのに。お前の口から聞いてもいいってことだろ。違うか?
奏賢がそのまま所姬に弾を撃ち込んだ。立て続けに火薬が弾け、所姬の血と赤い埃が四方に飛び散った。始緣が所姬の力ない瞳を見つめながら、茫然とした表情でただ座り込んでいた。奏賢が空の銃を再び装填してから、力なく崩れ落ちる所姬を脇へ放り出した。そして何事もなかったかのように、所姬の身体を通り過ぎて始緣に向かった。奏賢が始緣の髪を掴んで向き合うように座り、一切の意志が消えた始緣を嘲笑った。奏賢が始緣の胸の上に銃口を突きつけ、残りの弾を全て撃ち込んだ。始緣はただ身を竦ませるだけで、死にもしないまま倒れた所姬を見つめているだけだった。呆然とした始緣が次第に憎悪を募らせ奏賢を睨もうとしたとき、黒い鉄線が奏賢の手首を掴み取った。奏賢の身体を力いっぱい引き寄せ、玄関のドアまで一息に引きずった黒い鉄線が、奏賢の身体を玄関に叩きつけてから、奏賢の意識を一瞬失わせた。知暎が施錠されていた玄関のドアを打ち破って駆け込み、鉄線で所姬と始緣の手錠を砕いた。知暎が所姬を抱えたまま、鉄線を放って窓の外へ身を投げた。上へ昇っていく知暎の姿に、始緣がドアの外へ飛び出し、知暎と所姬が向かったであろう場所へ歩を進めた。
