ぼくたちは一度解散し、夕方にまたここに集まって、一緒にアキラさんのお見舞いに行くことになった。
お見舞いの最適解なんてわからないから、せめてもの償いにと、リヒトさんとよく飲む紅茶を用意した。
リヒトさんとの思い出を共有するのは癪だったが、奢ってくれたクリームソーダよりも美味しい、ぼくの特別だ。
「さてと……」
紅茶の入った袋の中にもう一つの大切なものを忍ばせて、ぼくは約束の時間よりも早く教会に戻り、一人秘密の儀式を行った。
光に翳すと美しい、ステンドグラスに似た金属製の本の栞。リヒトさんがくれた、大切な宝物。
リヒトさんと会えない日々の中でも、それを持っていれば彼と繋がれている気がして、大切にしていたものだった。
この栞を手に、あの頃祈るように信じてきたぼくの神さまは、もういない。
本のページのように大切に積み重ねてきた、愛しかった日々。その思い出と共にあった栞を、ぼくはミーティアを埋めた傍にそっと埋めることにしたのだ。
これは罪を隠すのではなく、タイムカプセルのように大切な時間を留めるための作業だ。
「これでよし、と……」
小さな穴はすぐに掘り終わり、そこに宝物の入った白い箱を祈るように埋める。
「……ありがとう。あなたは確かに、ぼくの神さまでした……」
どうしたって胸の中にある寂寥感。あの頃感じていた万能感も、絶対的な救いも存在しないと知ってしまった。
けれど、そのぽっかりと空いた穴を埋めてくれる柔らかな光を想い、ぼくはそっと顔を上げる。
「行かなきゃ」
そしてたくさんの罪と許しの埋められた廃墟の教会を背にして、通い慣れた薄暗い森を一歩一歩進んだ。
アキラさんのお見舞いを無事終えたら、明日にでもタクロウくんとヨイチくんのイジメについて記したノートを学校に提出しよう。
彼らの進路に影響するか、学校で揉み消されるかはわからないけれど、ちゃんと自分なりに決着をつけよう。
これからも生きるのなら、いつまでも嘆いているわけにはいかない。
お母さんについても、自分なりにけじめをつけよう。勝手に売ってしまったものは取り返せないけれど、いつかお母さんが帰ってきた時に、特別な紅茶を淹れて、腰を据えてきちんと話をしてみよう。
これまでのことと、これからのこと。とっくに壊れてしまった家族の修復なんて無理かもしれないけれど、壊れた先にある別の光もあるのだと、ぼくはもう知ったのだ。
「……これから、か」
犯した罪は消えない。埋めて、眠らせただけ。いつか必ず罰を受ける。
そのいつかを迎えるまで、ぼくはきっとこれからも罪を重ねながら、逃げることなく生きていくしかないのだ。
不安もたくさんあるけれど、ぼくはもう、一人じゃない。
やがて森を抜け、拓けたその先で、夕陽の赤が目に沁みて思わず目を細める。
日が沈むのが大分早くなった。もうじきぼくにとって特別な季節も終わりだと、時間の流れに少し感傷的になる。
すると、不意に優しい声が響いた。
「ユウヒくん」
「あ……リヒトさん!」
少し先で待つ彼は、光の中で優しく微笑んで、導くように手を振っていた。
ぼくはその姿を見て、地面に伸びる黒い影を追うように駆け寄る。
「先に来てたんだね、お待たせ。……さあ、行こうか」
「はいっ!」
追い付いた影は二つ並び、共にでこぼことした道を進む。ぼくは時折振り返って、その影を慈しんだ。
そんなぼくの様子を見て、隣を歩くリヒトさんは柔らかな笑みを浮かべる。
「ふふ。夕陽、眩しいね」
「……はい、光が眩しいです」
神さまのいないこの世界で、彼はこれからも、ぼくの光で在り続けるだろう。



