ぼくの神さま。


 すっかり朝を迎えた教会の裏庭で、汗と土まみれのぼくたちは、埋葬の儀式を終えた安堵から、お互い自然と笑みを浮かべる。
 罪を重ね土に汚れていても尚、朝陽に照らされた彼は美しかった。

「……ユウヒくんは今日も学校だよね? 大丈夫? 今から帰って支度したとして……間に合う?」
「今日はもうサボっちゃおうかな……」
「おや……悪い子だね」

 リヒトさんは咎めるでもなく、いつものように優しい笑みを浮かべてくれる。この微笑みの温度は、演技ではなく本物なのだと嬉しくなった。
 無理にいい子でいなくてもいい、悪い子でも自らを過度に罰しなくてもいい。すべてを知ってくれている彼の前では、取り繕わなくていいのだ。ぼくはそのことに、ひどく安心する。

「……そうですよ。ぼく、悪い子なんです」
「ふふ、僕もだよ。お揃いだね?」
「リヒトさんとお揃いなら、大歓迎です」

 長い夜が明け、どこか清々しい気持ちだった。
 このまま帰るには目立つからと、一度二人で教会に戻り、小部屋で洗面や着替えを済ませる。汗拭きシートで身体を拭うと、汚れた汗と土と共に、身体にこびりついた重たい気持ちもすっきりとする気がした。
 心地好い疲労感にそのまま眠りたくなるけれど、そういうわけにもいかない。
 リヒトさんが洗面台で髪を洗っている間、シャンプーの香りに癒されるようにうとうととソファーで微睡んでいると、不意にリヒトさんの脱いだ服から震動音が聞こえた。

「……? リヒトさん、なんか、動いてます」
「え? あ、電話かな……?」

 濡れた髪をタオルで拭いながら、リヒトさんはポケットから白いカバーのスマホを取り出す。ここで彼がスマホに触れるのを初めて見た。
 二人だけの世界だと信じていたこの場所で、リヒトさんが外と繋がる機械に触れる。
 なんとなく寂しい気持ちの中、改めて彼が都合のいい神さまではなく人間なのだと実感した。
 そんなぼくの視線の先、リヒトさんは液晶画面に表示された文字を見て、タオルを取り落とし驚いたようにして電話に出る。

「……っ、……もしもし、アキラ!?」
「え……っ!?」

 思わず声が出て、慌てて手で口を塞ぐ。静かな空間で、微かに電話の向こうの声が聞こえた。
 たまに咳き込みながらも、無事を伝えるアキラさんの明るい声。
 どうやら意識が戻ったらしい。リヒトさんは心底安心したようにして、少し泣きそうな顔をしていた。

「……そう、よかった……。うん……そっか」

 ぼくは罪の発覚を恐れ不安な気持ちになったけれど、それ以上に安堵した。
 ぼくは殺人犯にならずに済んだ。そしてリヒトさんに、悲しい死を重ねさせずに済んだのだ。

「うん……お見舞いに行くよ。ユウヒくんも連れていく。……彼、とても心配していたから」

 どうやらアキラさんは、ぼくのことを悪くは思っていないらしい。寧ろ溺れた姿を見せたことに、申し訳なさを感じているようだった。
 その咳混じりの声に、いっそおまえのせいだと罵って欲しい気持ちになったけれど、罪は既に土の底だ。
 罪悪感による自罰はなしにしても、ぼくはきっとアキラさんの顔を見る度に、罰を受けている気持ちになるのだろうと考える。

「……そっか、生きてたんだ……よかった。……二人で分け合ったから、半分になった? それともかけ合わさって、二人分の罪で相殺されて、いっそ死なずに済んだ……?」

 思わずそんなことを考えたけれど、今は彼が無事だった喜びだけでいっぱいだ。
 すっかり昇ったまぶしい陽の光を受けつつ、ぼくは彼のお見舞いに何を持っていくべきかと、ぼんやりと考えた。