ぼくの神さま。


「……全部、僕の罪なんだよ」

 人の死体と同じサイズの人形を埋め始めたのは、それこそぼくが最初に遭遇したトモルさんの埋葬が初めてだったのだという。
 殺人鬼役で人形を死体に見立てて演じて以来、人に近いものでないと罪を重ねにくくなったらしい。

 リヒトさんは厄介だと笑ったけれど、だからあの日の彼は、本物の死体を埋めているような、あんなにも説得力のある魅力的な殺人鬼だったのだろう。

 大きな穴を掘り埋めるのは思いの外重労働だったと、あの日手伝ってくれて助かったと、彼は懐かしむように目を伏せた。

「リヒトさん……」

 彼の周りのたくさんの死。その原因のどれもが確かにリヒトさんに関わってはいたけれど、直接手を出したわけではない、不運な偶然とも言えるものだった。
 けれど、彼は一つ一つの罪に対して同じだけの重さを感じているようだった。ようやく人が入るくらい大きな穴を掘り終えて、一息吐く。
 そして額に伝う汗を拭うようにして、腕でそっと目元を押さえた。

「あとは、そうだな……大好きだった牧師さんもお母さんも。……僕さえいなければ、みんな死なずに済んだのにね」
「……っ」

 それはぼくも抱えてきた想いだった。
 ぼくさえいなければ、壊さずに済んだ。ぼくさえいなければ、みんな幸せだった。ぼくが全部悪い。だから、神さまに殺されたかった。

 けれどぼくを救ってくれる神さまだと思っていたリヒトさんも、ぼくと同じ苦しみを抱えた人間だった。優しく繊細な、臆病な人だったのだ。

 それは共感と、同じ孤独の中に在る喜び。弱さを見せてくれたことへの特別感と、線の内側の彼の柔らかな心に触れられたという手応え。
 しかしそれと同時に感じたのは、ずっと信じて心の支えにしてきた神さまが偽物だったという失望と、ぼくを殺して救ってくれるはずの殺人鬼は虚構に過ぎなかったのだという絶望。

 ずっと隠してきたであろうその弱さを垣間見て、理解した瞬間、僕の信じていた神さまの偶像に、音を立ててヒビが入るのを感じた。

「幼い頃からそうなんだ。僕が特別心を寄せたり、信じてしまった相手が僕を裏切ると、その人はいつも死んでしまう……」
「リヒトさん……」
「だから、僕は人を信じたくなかった。自分の中で一定のラインで線引きをして……必要以上に踏み込まれないように気を付けていた」

 これまで感じた壁が意図的なものだったのだと、彼の言葉に幾度も引かれた境界線を思い出す。

「だから劇団に入ったんだ。板の上に立っている間は、僕は役を生きる別人で居られた。私生活でも、演じて、隠して、本心さえ傾けなければ、平気だと思った。……でも、ダメだね。ぼくは神さまじゃない、完璧にはなれない。……みんな僕が殺した。みんな、僕の罪なんだよ」

 少し震えた声に気付き、ぼくは視線を向ける。穴をまっすぐ見下ろすリヒトさんの顔は、髪に隠れてよく見えなかった。

「そんなの……裏切る人が悪いんです。リヒトさんは、なにも悪くない……」

 そう告げながらも、心の中は複雑だった。ぼくもまた、信じていた神さまである彼に裏切られたようなものだ。
 これまでくれた優しさも、嬉しかった言葉も、すべて演技だったのかと、そんな絶望を覚えた。
 神さまに近付きたくて、彼の傍に居るために、罪を犯したこともあった。しかしそれさえも幸せで、彼のためならば何でも出来ると本気で思っていた。
 けれどそれはすべて、塗り固められたまやかしだったのだ。

「……」

 アキラさんに会ってリヒトさんの外の世界での日々を知って、薄々そんな予感はしていた。でも見ないふりをしてきた。きっと見たくないからと、アキラさんを消そうとした部分もある。
 リヒトさんは何度も伝えてくれていたように、神さまではなくただの人間なのだ。彼が完璧なのだと、勝手に盲信したのは、ぼくだった。