ぼくの神さま。


「ん……?」

 ステンドグラス越しの色とりどりの光が眩しくぼくを照らし、ぼんやりと目を覚ます。
 固い長椅子の上でそのまま眠ってしまったらしい。首や腰が痛く、泣き腫らした目蓋がやけに重たかった。

「そっか、ぼく……アキラさんを……」

 頭がガンガンとして、身体も重い。家に帰る気にもなれず、学校にも行きたくない。
 けれどもしアキラさんのことが発覚したとして、翌日に休んでいるから怪しいなどと目をつけられても困る。
 そこまで考えて、今日は土曜日で学校は休みであることを思い出した。
 夜の内はあれだけぐるぐるして思考も散漫だったのに、今は思いの外理性的に考えられていることに気付き、思わず自嘲する。

「……今日明日は、ここに引きこもろう」

 ぼくは罪を少しでも雪ぐため、教会という聖域に居座る決意をした。
 二階へ続く階段を登り、いつもの小部屋へと向かった。すっかりくたびれたソファーに寝転がり、小窓から差し込む朝日の中ぼんやりと天井を見上げる。

 宙に舞った埃が、日の光を受けてキラキラと宝石の粒のように輝く光景を眺めながら、昨日彼に届かなかった手をそっと伸ばした。

「ぼくは、この埃だ……誰にも気付かれないのに、隅っこにいる、邪魔者の……ゴミ。……でも、光に照らされてる時だけ、綺麗でいられる……」

 リヒトさんに許される時だけ、ぼくは生きていていいのだと感じる。ぼくを救ってくれるのは、いつだって彼だけだった。

「ぼくの光……ぼくの、神さま」

 ぼくは、リヒトさんに罪を正直に告白しようと決めた。その結果どうなるとしても、神さまの御心次第だ。
 その日は自らの罪と向き合いながら、裁きの時を待つ罪人にしてはひどく静かで穏やかな一日を過ごした。
 この場所にあったはずの温かな記憶も、これが最後になる気がして一つ一つ大切に噛み締める。

 もし警察に行く事になるなら、もう二度とここには来られないかもしれない。いっそリヒトさんがぼくを殺してくれればいいのにとさえ思った。

「……」

 リヒトさんに殺されるなら、きっと幸せだ。それはこれまでにも何度も考えたことだった。
 生きて彼の傍にいる方がいいと願っていたけれど、今にして思うと贅沢だった。はみ出しもののぼくには、もともと生きる価値もなかったのだ。

 タクロウくんたちも、ぼくを見下しながら「よく生きていられるな」と言っていた。お母さんだって、小さな頃から「生まなきゃよかった」と何度も吐き捨てた。

「はは……なんだ、そっか」

 ぼくの昔からの悪い癖。都合の悪いものを隠す癖。ずっと気付かないふりをしてきたけれど、本当はずっと知っていた。

「ぼくは、最初から存在してちゃいけなかったんだ」

 ぼくさえいなければ、ミーティアも死なずに済んだかもしれないし、櫛が壊れることもなかったし、みんなの私物が失くなることもなかった。そして、アキラさんが溺れることもなかった。

「リヒトさんに、殺されたい……ぼくの存在ごと、この命という罪を埋めて欲しい……他でもない、あなたに……」

 罪を抱えきれない今、すべてがそこに収束した。悲観しているつもりはなく、ただ唯一の正解だと思った。
 最期に見るのがあのひとの顔だと思うと、自然と笑みが浮かぶ。
 やはり御影リヒトという美しき殺人鬼は、ぼくにとって神さまだったのだ。


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