ぼくはフードで顔を隠しながら、開かれたままの入口からそっと建物の中に入る。
すぐ正面にある受付には、今は人がいない。きょろきょろと辺りを見渡し様子を見ていると、奥の方からアキラさんと女の人の声がした。
「……あ、ちょうどよかった! 悪いけど、俺迷子送り届けてくるからちょっと抜けるわ。残り俺いなくても大丈夫だろ?」
「えー? まあいいけど。明日からセット変えるし、バラシまでには戻ってきてよね? あたしらだけじゃ大変だから」
「おう、わかってる。か弱い女の子に力仕事なんてさせられないからな。俺に任せて可愛い子は応援だけしてて」
「あはは、アキラってば相変わらずチャラいなぁ」
女の人はご機嫌な様子で、何やら楽しそうだ。二人から見付からないように、ぼくは柱の陰に隠れた。
アキラさんは、劇団内で頼りにされている。次回作の予定も決まっている。居なくなっても誰からも悲しまれないであろうぼくとは、大違いだ。
そんな風に居場所も人望もあるアキラさんを、なにも持っていないぼくが殺す。
その光景を想像して、ぼくは小さく震えた。素直に感じる羨ましさと妬ましさ、ぼくなんかがそれらを奪ってしまう申し訳なさと、やはり重すぎる罪を犯す恐怖。それから、勝ち組を引きずり下ろす快感に似た、卑劣で痛快な気持ち。
いろんな感情が溢れる中で、ぼくはさながら宗教画にでもするように、扉のポスターの中で佇むリヒトさんに向かって祈りを捧げた。
「……神さま。ぼくは、まだ迷っています……でも、待っていてください。きっと、やり遂げてみせます……力を貸してください」
そうして誓う罪は、誰のための行動なのか。やり遂げなくてはいけないというゴールだけが明確で、理由も目的も、もはやぼくの中で、わからなくなっていた。
「……よし、お待たせ、少年。行こうか」
少しして、アキラさんは片手を上げ爽やかな笑顔で駆け寄ってきた。
優しく善良で、誰からも愛される圧倒的な太陽のような光。傍に居るだけで劣等感が刺激されて、苦しかった。
そんな存在を暗い土の中に埋めたなら、ぼくはきっと息がしやすくなる。
いや、そもそもこいつ相手に、リヒトさんとの儀式である埋葬をする必要もないかもしれない。
彼にはぼくらの聖域である教会に、足を踏み入れて欲しくなかった。
そうだ。彼にはリヒトさんの知らない、どこか光の当たらない場所に沈んでもらおう。
そんな素晴らしい考えが浮かび、ぼくは先ほどよりも自然と笑顔が作れた。
「はい、よろしくお願いします。アキラさん!」



