教会に罪を埋めて帰ったあと、ぼくはいつものように食事をして、いつものようにお風呂に入って、いつものように宿題をして、いつものように布団に入ってから、ようやく「とんでもないことをしてしまったんじゃないか」と実感した。
痛む手に残るシャベルの重たさも、土を被せていく感覚も、頭をくらくらさせる夏の暑さも、静かな布団の中ではひどく鮮明だった。
「……ぼく、本当に死体を埋めたんだ……」
自覚すると手がわずかに震え、目を閉じると土をかける度に揺れた白い手を思い出した。
あの後、友達の死骸が入った箱を見知らぬ死体の傍に埋めるのを躊躇ったぼくに、彼はシャベルを貸してくれた。
「きみの友達のための穴だ、きみの好きな場所に掘るといいよ」
「はい……ありがとうございます。えっと……」
ぼくは少し考えたあと、教会から見える一番大きな木の根本に深い穴を掘った。ざくざくと響く土を掘り返す音が、蝉の声と重なって不協和音のようだった。
無心に掘り進めながらも、脳みその奥の方ではまだ葛藤があった。
それでも穴は完成した。傍で見守ってくれていた彼を見上げると、小さく頷いてくれた。
「それくらい掘れば十分だよ。……さあ、眠らせてあげよう」
「はい……」
そこに恐る恐る赤い箱を入れると、掘り起こした土の湿った香りだとか、少しだけ低い温度だとか、箱から漂う死の匂いだとか、そんなものが一気に押し寄せてきて、ぼくは非日常的な、何か崇高な儀式をしているような気持ちになった。
ミーティアの死骸を箱に詰めて、隠し場所を探していた時のような焦りはなく、ようやく正解に辿り着けた時のような、そんな安心感があった。
心の中で最後にミーティアに謝って、箱の上に土をかけ、安らかに眠ってほしいと、そっと穴を埋めた。箱が見えなくなり、死の匂いが封じられ、ぼくの罪は土の底。
呼吸を忘れていたのか、やがて平らになった地面に向けて深く息を吐くと、最後まで見守っていてくれた彼は変わらず穏やかな笑みを浮かべたまま、ぼくの頭を柔らかく撫でた。
「……うん、よくできました。これできみの苦しみは、もう見えないね」
「あ……あの、ぼく……」
「大丈夫だよ。穴は閉じて、罪は深い眠りの底……せっかく埋めたんだ。暴くのは、今じゃない。今は苦しみも悲しみも、もう何も見なくていいんだよ」
ずっとずっと苦しかった。自己嫌悪と悲しみと苦しみと、焦りと恐怖と罪悪感。胸の内に溢れていたすべての黒くてどろどろしたものが、箱と共に完全に穴の中に埋められたのだと感じた。
人間を殺し埋めていた彼への恐怖は不思議となく、ぼくはその優しい声とぬくもりに、確かに許された気持ちになったのだ。
「……あの人は、今のぼくを許してくれた……埋めれば、罪は眠りにつくんだ……」
死体を埋めるなんてとんでもないことをしたのに、心の波が穏やかになったお陰か、単に肉体労働をしたせいか、ひさしぶりに自然と眠気が来た。
明日も学校だと思うと憂鬱な気持ちにもなったけれど、今夜は何も考えず、ぼくの神さまがくれた安心感に身を任せたかった。
「……」
部屋の隅、ハンガーにかけた制服は土に汚れていたけれど、それを見咎める人は居なかった。いつもなら惨めなその扱いも、今ばかりは都合がいい。
目を閉じて、改めて奇跡のような出会いを反芻する。すべての罪をなんでもないことのように埋め隠し、ぼくに許しをくれた美しい神さまは、『御影リヒト』と名乗った。
それが本名かどうかもわからないけれど、その響きはぼくの中で特別な祈りになった。
「リヒトさん……ぼくの、神さま……」
閉じた目蓋の裏に、彼の姿を描いた。その夜はしばらくぶりに、悪夢を見ることはなかった。



