「あの、雨宮くん、これ……」
「ありがとう、小日向さん」
数日後、旧校舎で待ち合わせた小日向さんはひっそりと、星之瀬さんの手鏡を渡してくれた。
「大丈夫? 同じの探せそう? あれならわたし、一緒に買いに行こうか……?」
「ううん、大丈夫だよ。ちゃんと自分で用意する。そのために先に持ってきて貰ったんだし……大事にならないよう、明日にでも渡すよ」
「うん、わかった……」
彼女の大切な手鏡が、近所の雑貨屋さんで買った品だと教えて貰ってはいた。けれど女子の私物なんて、柄を伝えられたとしても同じものを用意できないからと、先に本物を盗んで渡して貰ったのだ。
星之瀬さんはタクロウくんのように窃盗だなんて騒ぎ立てるタイプでもない。現物を見て同じのを買い次第、すぐに返すと伝えていた。
そして、約束の手鏡の受け渡しが済むと、小日向さんは少し躊躇いがちに、盗んだシャープペンシルを失くしてしまったのだとぼくに話してくれた。
「そっか……残念だったね」
「うん……」
案の定ぼくを疑っているようだったが、それを口にすることはない。なにしろ証拠も動機もないのだから。
ぼくは彼女の慎重さに感謝しつつ、出来るだけ明るい声で伝える。
「でも、おまじないはすり替えが一年間タクロウくんにバレなければいいんだから、大丈夫だよ」
「……そっか。わたしの手元になくても、タクロウくんにバレなければいいんだ……」
「そう。だから、このおまじないは、二人だけの秘密だよ」
「うん!」
翌日、ぼくは星之瀬さんの鏡をそのまま返した。でっち上げのおまじないのために、好きでもない女の子と同じものを用意するなんて面倒なことをする気力もなく、必要性も感じなかったのだ。
「はー……やっと終わった」
作戦を終え、ぼくと小日向さんはただのクラスメイトへと戻った。
最初小日向さんは、何かと声をかけてきて、ぼく経由でタクロウくんと仲良くなりたそうにしていたけれど、ぼくと居るとシャープペンシルを盗み失くした罪を思い出すのか、次第にその手の接触してくることはなくなっていった。
そうしてぼくは誰にも責められることなく、あらゆる嘘と罪を重ねて、その証を手に入れたのだ。
「……お母さんのピンクの口紅、ヨイチくんの黄色と水色のストラップ、タクロウくんの紫色のシャープペンシル、小日向さんのミントグリーンのポーチ……これ全部、ぼくの罪だ」
黒い箱の中に色とりどりの罪を納め、教会でリヒトさんと共に埋葬する日を夢見る。
ぼくにとって罪は既に苦しみではなく、神さまの導く幸せへの切符だった。
「ありがとう、小日向さん」
数日後、旧校舎で待ち合わせた小日向さんはひっそりと、星之瀬さんの手鏡を渡してくれた。
「大丈夫? 同じの探せそう? あれならわたし、一緒に買いに行こうか……?」
「ううん、大丈夫だよ。ちゃんと自分で用意する。そのために先に持ってきて貰ったんだし……大事にならないよう、明日にでも渡すよ」
「うん、わかった……」
彼女の大切な手鏡が、近所の雑貨屋さんで買った品だと教えて貰ってはいた。けれど女子の私物なんて、柄を伝えられたとしても同じものを用意できないからと、先に本物を盗んで渡して貰ったのだ。
星之瀬さんはタクロウくんのように窃盗だなんて騒ぎ立てるタイプでもない。現物を見て同じのを買い次第、すぐに返すと伝えていた。
そして、約束の手鏡の受け渡しが済むと、小日向さんは少し躊躇いがちに、盗んだシャープペンシルを失くしてしまったのだとぼくに話してくれた。
「そっか……残念だったね」
「うん……」
案の定ぼくを疑っているようだったが、それを口にすることはない。なにしろ証拠も動機もないのだから。
ぼくは彼女の慎重さに感謝しつつ、出来るだけ明るい声で伝える。
「でも、おまじないはすり替えが一年間タクロウくんにバレなければいいんだから、大丈夫だよ」
「……そっか。わたしの手元になくても、タクロウくんにバレなければいいんだ……」
「そう。だから、このおまじないは、二人だけの秘密だよ」
「うん!」
翌日、ぼくは星之瀬さんの鏡をそのまま返した。でっち上げのおまじないのために、好きでもない女の子と同じものを用意するなんて面倒なことをする気力もなく、必要性も感じなかったのだ。
「はー……やっと終わった」
作戦を終え、ぼくと小日向さんはただのクラスメイトへと戻った。
最初小日向さんは、何かと声をかけてきて、ぼく経由でタクロウくんと仲良くなりたそうにしていたけれど、ぼくと居るとシャープペンシルを盗み失くした罪を思い出すのか、次第にその手の接触してくることはなくなっていった。
そうしてぼくは誰にも責められることなく、あらゆる嘘と罪を重ねて、その証を手に入れたのだ。
「……お母さんのピンクの口紅、ヨイチくんの黄色と水色のストラップ、タクロウくんの紫色のシャープペンシル、小日向さんのミントグリーンのポーチ……これ全部、ぼくの罪だ」
黒い箱の中に色とりどりの罪を納め、教会でリヒトさんと共に埋葬する日を夢見る。
ぼくにとって罪は既に苦しみではなく、神さまの導く幸せへの切符だった。



