【続編♡完結】かわいい美形の後輩が、俺にだけメロい2


クリスマスデート当日。
寒さと朝に弱い俺に合わせて、待ち合わせは昼過ぎから。今日は外で軽く食ってから、駅北で買い物をして、後は千冬の家でまったり過ごそうというプランだ。
プレゼントのゲームも持ってきたし、夜は千冬とオールでモリカー対戦も楽しそうだな。


「うわぁ、やっぱすげぇ人混み。待ち合わせ場所変えた方が良かったか?」


時刻は待ち合わせ時間の20分前。
思ったより早く着いてしまった。


「ま、千冬のピンク頭なら目立つからすぐ分かるか」


早々に自己完結し、近くの壁に背を預けスマホを取り出した。
寒過ぎ。空気が冷たすぎるわ。
マフラーに鼻まで埋めて首をすくめる。

俺が適当に指定した集合場所は、待ち合わせの定番スポットでもあり、かなり混み合っていた。
しかも、どうやらこんなタイミングで有名人も来ているらしく、少し離れた時計台の麓にはちょっとした人だかりもできていた。
通りかかる人の声を聞くに、アイドルだかインフルエンサーだかなんだかじゃねぇかって言ってるけど…。
ま、なんでもいいけど───


「あっ、伊織先輩!」
「、ち……千冬っ!?」


声に顔を上げると、千冬が先ほどの人だかりを掻き分け、飛び出してきた。
真っ直ぐに俺に駆け寄り、キラキラの瞳で微笑む。
てか、それより…!


「お前、髪…!」
「はい。黒にしてみました。……どう、ですか…?」


俺の手を両手で包み、眉を下げて俺の顔色を伺う。
千冬の手、俺より冷てぇ。いつから外にいたんだよ…?

千冬は、不安と、ほんの少しの期待が入り混じった心細そうな表情をしている。
俺の反応を一瞬たりとも見逃さまいというかのように、焦茶の瞳が懸命に俺を見つめた。


「どうもなにも…」
「……?」


首を傾げ、俺を覗き込む千冬。
柔らかなパーマは残っているけど、印象が全然違ぇ。
黒い髪は千冬の肌の白さを存分に引き立てて、千冬からは、儚さと大人っぽい色気が漏れ出ている。
正直、なんかドキドキしてしまう。
しかも、ピンクっていう目立つ色がなくなったせいで、千冬の整った骨格や、すっと通った鼻筋とか、アーモンド型の瞳に甘い平行二重とか、とにかく千冬本来の美形力がむき出し状態だ。
暴力だ。美の暴力ってやつだ。


「に、似合っ…てる、けど……」
「はい、」
「……なんか、見慣れねぇ、っていうか……、」


普段、「可愛い」っていう印象に隠れていた端正さが浮き彫りになっているせいか、俺は、…き、緊張…する。
千冬を直視するのが恥ずかしくて、そっと視線を落とした。


「中身はいつもの僕ですよ。それに、これも今日だけです。シャンプーでとれるので」
「え!そうなのか!?」


驚いてパッと顔を上げると、千冬の整った顔が至近距離にいた。栗色の瞳が溶けるように細められている。
心臓に悪い…。

思わずまた顔を逸らそうとすると、千冬が指の背で俺の頬を撫でた。指先は頬の中心から耳の上部へ滑り、髪を耳にかけるように耳の裏を通る。


「頬、赤いですね。伊織先輩は今日もとってもかわいいです」
「……、」


煌めき蕩ける栗色と目を合わせる。
千冬の背後には、先程まで群れを作っていた人たちが遠くから千冬の様子を伺っているようだった。
何でこいつは、いつもこんな目立つんだよ。
いつものことなのに、胸の奥が少しモヤっとした。


「伊織先輩と一緒にクリスマスを過ごせるなんて、僕、本当に嬉しいです」
「……それは…、俺も」
「ふふ、幸せです。ありがとうございます。伊織先輩、今日は欲しいものがあったら何でも僕に言ってくださいね。全部プレゼントします」
「…学生の分際でいうセリフじゃねぇだろ」
「クリスマスじゃなくても、いつでも言って欲しいです」
「おい、先輩の話を聞きやがれ」
「わっ、あはは!」


千冬の首元に冷えた手を差し込んでやると、千冬は反射的に首を縮め子供みたいに笑った。
こいつ、……調子乗ってるな?
千冬のいつもの笑い声に緊張がほぐれると、千冬から手を取られ指を絡める。

握り直された千冬の手は、少し温かくなっていた。





千冬が予約してくれていたカフェは、駅から少し歩いたところにあった。
店内は、ウッドテイストの柔らかくも高級感のある雰囲気。ゆったりしたBGMと、優しい日差しに輝くクリスマスデコレーションが、まるで絵本の中の世界みたいだ。


「うわ、すげぇ!これ全部食えんの?おもちゃみてぇ!」
「ふふっ、そうですね」


運ばれてきたプレートには、ミニサイズのスイーツと軽食が可愛らしく並んでいる。
どれもツリーやサンタ、雪だるまなどクリスマスモチーフの形をしていて、思わず俺も食う前にスマホのカメラを向けた。
サンタ帽を被ったミニテディベアみたいなこれはカップケーキで、皿に並ぶツリーや雪だるまはデカマカロンらしい。
すっげぇ…!


「千冬、これ、クリームの中にフルーツ入ってんぞ。めちゃくちゃ美味ぇ!」
「はい」


スイーツも軽食のサンドウィッチやキッシュも、次々口にしては感動する。
ここマジで美味い。また来てぇ。
雪だるま形のマグカップに入ったコーヒーを飲みながら千冬を見る。
机に頬杖を付き、蕩けるような瞳でずっと俺を見つめている。
……口にクリーム付いてたか…?


「……千冬、食わねぇの?」
「ん?」
「俺の顔に何かついてたか?」


口周りに何もついてないことを確認してから千冬に問いかける。
千冬は視線はそのまま、頬を緩めた。大切な景色を焼き付けるかのように、一度だけ、ゆっくり瞬きをする。
今日の千冬は、深いモスグリーンのふわふわニット姿。ゆったりしたシルエットで、綺麗な顔に添えられた手には、長めの袖がかかっている。
この店の雰囲気にも合ってるし、何より千冬自体がどこにいても絵になるなぁ、なんて眺めながら千冬の返答を待った。


「伊織先輩がかわいすぎて、つい」
「……は?」
「僕、伊織先輩と付き合えて、本当に幸せです」
「は…、はぁっ?急に何の話だよ」
「照れてるんですか?かわいい…」
「ちょ、おいっ、」


千冬が手を伸ばし、長い指で俺の下唇の下部をくすぐるように撫でた。
こんなとこで、そんなふうに触るなよ。
……恥ずかしいし、…もっと、触れてほしくなっちゃうだろ…。


「いいから早く食えよ、クリーム溶けるぞ」
「はい。わかりました」


自分でも顔が赤いのが分かる。
目を細めて優しい声で返事をする千冬は、やっぱりなんか大人っぽい。
ドキドキうるさい鼓動を感じながら、俺はトナカイ型のクッキーを摘んだ。
なんか、別の話題にしよう。
これ以上千冬のペースに呑まれてたまるか。


「あ、そうだ。そういえば一昨日、学部の女子が例の『爆メロ高校生』のこと話してたわ」
「女子、ですか?」
「おう。なんか、実はプロのアーティストだとか、実は本業はモデルだとか、いろいろ噂が出てるらしい。すげぇ人気だよな。千冬もステージ上がってたけど、ステージ裏とかで見てねぇの?」


トナカイクッキーはジンジャーブレッドだった。甘さの中にスパイスが効いたクリスマスっぽい味。美味ぇ。
千冬に視線を戻すと、千冬はマグカップを置いて俺を見返した。
あ、唇が少し尖ってる。


「………その『女子』と、伊織先輩は仲がいいんですか?」
「は?」
「………」


なんか拗ねてる?
今度は何だよ?
トナカイの鼻部分を齧りながら千冬に答える。


「別に、顔見知りくらい。特に話さねぇし。その話も別の女子としてたのが偶然聞こえただけだし」
「!、そうなんですね」
「おう。で、どうなんだよ?」
「ふふ、伊織先輩は鈍感なとこも含めて僕は大好きです」
「………質問の内容と答えが噛み合っていないね、雨宮くん?」


咳払いし、教授のモノマネで返してやる。
千冬にはすぐに伝わったようで、楽しそうな笑い声を上げた。
自分のモノマネの出来に満足する俺に、千冬はにっこり笑う。


「伊織先輩、あれは僕ですよ」
「僕?」
「はい。黒髪でロックを演奏した『高校生』は、どうやら僕のことみたいです」
「えっ…、えぇ!?」


掴んでいたトナカイクッキーが皿の上に落ちる。
は、マジで?
「爆メロ高校生」って、千冬のこと!?
いや、「高校生」……!?


「僕も学部の知り合いに動画を見せられて、びっくりしました」
「だって、お前、『高校生』って…」
「誰が言い出したんでしょうね。さすがにちょっと恥ずかしいので、僕だってバレなくて良かったです」


黒い髪を揺らし、ふふ、と笑う千冬。
驚いた…、けど、同時に酷く納得した。
千冬だもんな…。歌もギターも上手かったし、あんなにカッコ良かったし。
噂にならない方がおかしい…か……。

ステージから飛び降り、俺を連れ出した黒髪の千冬を思い出す。
光る汗も、メガネの奥で揺らめいた瞳も、全部全部、宝石のように綺麗だった。
…あの日の千冬は、俺だけの思い出だと思っていた…。


「そういえば、クリスマスプレゼント、結局何がいいか思い付きましたか?」
「あ?…あー、」
「遠慮せずになんでも言ってください。伊織先輩に頼まれたら、何でも用意します。服やバッグとかでも、インテリアでも、…家電でも……住む場所、とかでも…」
「ぶっ!あはは!」
「本気ですよ?二人で使うものは、一緒に選びたいですけどね」


千冬のいつもの下手な冗談に吹き出す。
破産すんぞ?
笑っていたせいで、後半は千冬が何を言ってたかよく分かんなかったけど、そんな何でも買える大学生いねぇから。
本当おもしれぇな。

結局俺は、ドッキングステーションをリクエスト。ノートパソコンにUSBとかSDカード複数接続するための拡張デバイスだ。
美味しい食事を終え、商業施設が立ち並ぶ駅北で買い物をする。
駅直結の電器屋の中は、ゲーム目当ての客が多くて外より混んでいた。


「これがいいわ。頼めるか?」
「もちろんです。…これだけですか?もっとプレゼントしたいです」
「もっと、って。どっちがお願いしてる立場か分かんねぇな」
「僕ですよ」
「逆だろ」


二人で笑い合って、ゲーム購入者の行列に混じりレジ待ちをする。
やっぱりここでも千冬のスタイルの良さや顔の強さは目立つ。
俺たちの会計の番が近付いたところで、千冬が俺に躊躇いがちに言った。


「あの、……ゆび…、…ア、アクセサリーとかは、どう、ですか……?」
「へ?」


千冬が俺の反応を伺う。
アクセサリー?
プレゼントの話か?
俺、そんなの着けたことねぇけど。


「千冬には似合うかもしれねぇな。でも俺は、身に着ける系って苦手だしなぁ」
「っ、……そうですか…」
「お前が欲しいなら───」

「あれっ?もしかして、『爆メロ高校生』?」


「爆メロ高校生」の名が聞こえて、俺と千冬は同時に振り返った。
そこにいたのは、レジ待ち列の折り返しで、ちょうど隣り合った男。
千冬が俺を隠すように俺の前に進み出て、俺と男の間に立つ。
すかさず男と一緒にいた友人グループらしき男女複数人が千冬を見て騒ぎ出した。


「うそ!『爆メロ』くん!?」
「えっ、ガチイケメンじゃん。ヤバッ」
「うわ、本当に高校生?これであの演奏とか、メロすぎるんだけど!」
「お前ら黙れって。なぁ、そうだよな?学祭の時、俺の代わりにステージ立ってくれただろ?」


男の言葉に記憶が呼び起こされる。
そうだ、なんか見たことある気がしたけど、この男、あの日泥酔してたギター兼ボーカルの男だ!
胸がソワソワして、俺は千冬の手から商品を奪い取るとレジカウンターに置き、一方的に店員に伝えた。


「すみません!これ、やめます!」

「俺、『爆メロ高校生』くんに会いたかったんだよ!ちゃんとお礼、言っときたくて───」
「千冬、行くぞ」
「えっ、」
「あ、ちょっと!?」


驚く男を差し置いて、人混みを掻き分け走り出す。
なんでそんなことしてるのか、自分でもわからなかった。
爆メロ高校生の正体が判明したところで、千冬が匿名活動している歌い手だってバレたわけじゃない。
そもそも悪いことをしてるわけじゃねぇし、あの男だって、千冬に文句があるのではなく、礼が言いたいと言ってた。

なのに、
なのに、俺は、どうして…。


改札を潜り抜け、ホームで呼吸を整える。
流石にあの男たちもついては来なかったらしい。


「はぁ、はぁ……、ごめん、急に走って」
「僕は大丈夫です。さっき、僕が『バレたら恥ずかしい』って言ってたから、あの場から連れ出してくれたんですか?」
「………、」


多分、違う…。
呼吸を整えながら、気持ちと考えを整理しようとする。
その沈黙を肯定と受け取ったのか、千冬は柔らかく微笑んだ。


「嬉しいです。僕のために、ありがとうございます」


少し蒸気したピンクの頬で微笑む千冬。
俺は曖昧に頷き返すけど、全く腑に落ちない。
なんで逃げたんだろ。
違うって、一言言えば良かっただけなのに。


「……買い物は明日にして、千冬ん家行かね?…なんか、疲れたわ」
「ふふ。はい、そうしましょうか」


乗り込んだ電車は、夕方から出かける客で混み合っていた。
クリスマスだもんな…。


「先輩、こっち」
「ん」


千冬に誘導されて壁際に立つと、千冬が俺の横に手を付いた。
電車が動き出すと、人に押され、更に距離が近づく。
支えを求めて、思わず千冬の腹に手を添えた。

千冬の、体だ…。

硬い腹筋。脳裏に、旅行の時に大浴場でみた千冬の上裸がフラッシュバックした。
体温が上がる。
千冬が今どんな顔してるか気になって見上げると、千冬は眉をピクリと上げ、「狭い?」と小声で問いかけた。
狭い。でも、今はそれがいい。
首を横に振って答え、再び視線を千冬の腹に戻す。


「千冬、」
「どうしました?」
「…………、なんでもねぇ」
「…やっぱり狭いですよね。すぐ着きますからね」
「……おう」


もっと、近付きたい。
服の厚みがもどかしい。
千冬の肌の温度を感じたい。
千冬の肌の感触を知りたい。
千冬の反応をもっとみたい。

自分の恥ずかしい欲求に、軽い眩暈がした。