【続編♡】かわいい美形の後輩が、俺にだけメロい2


旅行の日以来、千冬と会うと必ずディープキスをするようになった。
特に、千冬の家を出る直前が多い。
俺を駅まで送る前、二人でバイトに行く前、月曜の授業に向かう前…。
二人でのんびり過ごす時間はたくさんあるのに、何故か千冬は、ゆっくりはできないタイミングでこの深いキスを求める。


「ち、ふ…ゅ…、」
「…はっ、……」


小さな玄関で、俺の声と千冬の浅い呼吸が交じる。
自動点灯のダウンライトが消灯してから、どのくらい経ったか俺はもう分かんねぇ。
深いキスの最中、俺は上手く考え事ができないくらい、ぼうっとしてしまうからだ。


「せん、ぱい……」
「ぁ、ん…っ、」


服の上から、千冬が俺の腰を撫でる。
体のラインを確認するように下から上へ。
背中はドアに貼り付けられ、金属の冷たさが少しずつ体に伝わってくるけど、千冬に触れられているところだけは、異様に熱い。

このまま、千冬の体温をもっと感じたい。もっと深く、千冬が欲しい───。


「……っ、はぁ、…はぁ…、ごめ、なさい、…はぁ…」


突然、千冬が唇を離し、人の動きに反応したダウンライトが点灯する。
千冬の長いまつ毛を伏せられ、頬に影が落ちた。
あの日からもう何度もディープキスはしているけど、終わり方はいつもこんな感じだ。
千冬が俺の体を少し触ったと思うと、急にキスが終わり、体を離す。

俺には他に経験がないから分かんねぇけど、これがディープキスのやり方の正しい作法なのか?
俺は少し、…物足りない、けどな。
千冬の手も体温も、もっと感じていたいって思ってしまう。


「………ち、ふゆ…」


千冬の服の端を掴み、キスの余韻から抜け出せないままぼんやりと千冬を見上げた。

千冬は甘い焦茶の瞳を揺らし俺を見下ろす。
千冬の喉がごくりと鳴って、数秒間じっくり何かに吸い込まれてるかのように俺を見つめたけど、すぐに顔を逸らした。


「……こ、これ以上は、…、…。俺、…かなり、危ない、ので……」


なんだか苦しそうな表情。
千冬に拒否されて寂しい気持ちを覚えるけど、俺も現実を思い出す。
俺たちは、これから授業に向かわないといけねぇんだった。

千冬の言う通り、このままもう一度キスに夢中になってると、授業の開始時間に間に合うか危ないのは確かだ。
さすが千冬。しっかりしてんな。


「……うん、悪ぃ」


まだ身体に熱を感じたまま、微妙な笑顔を作って誤魔化す。
月曜一限の遅刻常習犯の俺のペースに、千冬を巻き込むなんて良くない。

千冬はそんな俺を見て少しだけ困ったように微笑み、俺の頬を指の側面で撫でる。


「はぁ…こんな顔の伊織先輩を外に出したくないです」
「こんな顔?」
「伊織先輩、やっぱり今日は二人でサボりませんか?」
「は?急に何言ってんだよ」
「伊織先輩を怖がらせるようなことは絶対しないので…!」


珍しく駄々をこね始めた(?)千冬を横目に、上着を羽織る。
良くねぇな…。ちゃんと授業出ねぇと落単するぞって、しっかり言ってやんねぇとな。


「分かったから、とにかく出ようぜ。ギリギリになって無駄に走りたくねぇし。な?」
「………はい…」
「ほら、上着」
「…ありがとうございます」


千冬の上着は、アイボリーのオーバーサイズダッフルコート。
こんなん、千冬じゃねぇと似合わねぇだろ。
俺の言葉に渋々従いながら、上着を羽織る千冬。見た目はかっこいいのに、子供みたいに不服そうにしてる千冬に小さく吹き出した。
しょうがねぇやつ。


外に出ると、12月下旬の冷たい空気が頬を刺した。
人通りのない静かな道は、朝は特別冷えている。
ポケットに手を突っ込んだまま、恨めし気に小さな太陽を見上げてみた。
職務怠慢だ、もっとあったかくしやがれ。


「伊織先輩、手、繋ぎましょう?」
「ん」


柔らかな千冬の声に、怪我が治った右手を差し出す。
千冬は優しく俺の手を包むと、手を繋いだまま自分のコートのポケットに突っ込んだ。
途端に右手はこたつの中みたいな温かさに触れる。


「わ、あったけぇ!」
「カイロを入れてきてみました」
「最高だな。体ごと入りてぇわ」
「体ごとですか?ふふ。僕にカンガルーみたいなポケットがあると良かったですけど…うーん…」


千冬のカンガルー発言に俺が笑っている隣で、千冬はコートのボタンを外し始めた。


「伊織先輩、」
「どした……わっ、」


千冬がコートの中に俺ごと入れて上から抱きしめた。
頬に当たるライトグレーのニットの柔らかさと、千冬の胸板の硬さ。
千冬の匂い……。


「これなら伊織先輩を隠せていいかもしれません」
「……これじゃ歩けねぇだろ」
「僕が運びますから、先輩は歩かなくて大丈夫です」
「アホ、絵面が酷ぇから放せ」
「う、」


道端で一つのコートに包まる成人男性二人。
珍妙すぎるだろ。
離れがたさをぐっと我慢して千冬の体を押し返すと、千冬が大袈裟に「やられた」演技をする。
こいつ、たまにアホだよな。
笑いながら千冬を見れば、千冬も嬉しそうに笑い返した。
冷たい朝の空気も、弱々しい日差しも、千冬が隣にいると爽やかで美しい景色に変わる。
幸せだ。


「あ、伊織先輩」
「ん?」
「………あの、今度の週末、なんですけど…」
「おう?」


二人で少し笑ってから、千冬が躊躇い気味に俺を呼んだ。
白い息を吐きながら話す千冬は、なんだか少し歯切れ悪い。

今度の週末といえば、クリスマス。
なんと俺は、千冬が欲しいであろうゲームソフトをちゃんと用意してある。
良かったな千冬。お前の恋人、立派なサンタクロースだぞ。


「その…、ネズミーランドとか、行きますか?」
「え!」
「……」


なんだか恥ずかしそうに俺をチラチラ見る千冬。
俺はすっかりいつも通り千冬の家でのんびりする週末を想定していたから少し驚いた。

反応のない俺に、千冬は焦ったように付け加える。


「あのっ、ちゃんと、日帰りで!その…、あ、伊織先輩の家まで、えっと、家の前まで!送りますし…!」
「…?おう?」
「ほんとに!あの、純粋に!、変な意味はなくてっ、ク…クリスマス、なんで…、ちょっと違うデートが、いいかなって、思っただけで…」


確かに、急に泊まりはホテル押さえるの難しいだろうしな。
謎に言い訳のようなものまで付け加え始める千冬。
どうした?


「お前が行きてぇなら行くけど」
「僕は伊織先輩と二人でいれるならどこでも嬉しいです」
「おー、俺も」
「……、」


千冬とテーマパーク。確かに楽しそうだし行きたい。でもちょっと引っかかるのは、千冬に用意したクリスマスプレゼントのこと。

ネズミーランドで、ゲームソフトを渡すって、……なんか微妙じゃね?
すぐ遊べねぇし、持ち歩かねぇとだし……。


「あのさ、ネズミーランドは楽しそうなんだけど…、」
「は、はい」
「…俺、クリスマスはお前の家で過ごしたい…な?」
「え…」


千冬が立ち止まる。
プレゼントのことはあくまで秘密だ。
バレてくれるなよと願いながら千冬を見上げ、言葉を続ける。
内緒にしたい気持ちが優ったせいか、ちょっと小さい声になってしまう。


「千冬と二人きりで、ゆっくりしたい、かな……」
「…………」


千冬が顔を赤くして固まる。
反応がねぇ。
ダメか?と尋ねるつもりで首を傾げてみるも、千冬は栗色の瞳を微かに揺らすだけだ。
なんか、…処理落ちしてる?


「千冬?大丈夫か?」
「あ、…は、い」


千冬はそれだけ言うと黙って俺と手を繋ぎ歩き出す。
コートのボタン、開いたままだけど寒くねぇのかな。
そっと横顔を伺うと、千冬は妙に真剣な表情で、懸命に考え事をしてるようだった。
なんだろ。


「千冬、ネズミーランドでもいいからな?千冬と行くの楽しそう…」
「いえ!僕の、家で…。」


千冬がチラリと横目で俺を見る。
煌めく焦茶の瞳は、微かに熱を帯びているように見えた。


「じゃあ昼は外で食って、夜は何か美味ぇもん買ってきて食おうぜ?」
「…はい」
「やっぱクリスマスだからチキンかな」
「…そう、ですね」
「ピザとかもいいよな」
「はい…」


変な千冬。やっぱりネズミーランドに行きたかったのか?
なんか変だけどまあいいかと、空いている方の手でスマホを取り出し、カレンダーアプリを開く。

千冬の誕生日までは…、あと1ヶ月半か。
ネズミーランドチケット代って二人分でいくらだ?
冬休みに短期バイトすれば足りるかな…。

不意に、繋がれた手の力がぎゅっと強められる。
千冬を見ると、千冬はふぅー…と長めに息をつき、いつもの優しい微笑みで俺を見た。


「楽しいクリスマスデートにしましょうね」
「だな!」
「大好きです、伊織先輩」
「…お、おう…。……俺も…」
「ふふっ」


千冬が好き。
千冬になら、なんでも与えてやりてぇなんて思ってしまう。

でも同時に、もっと、千冬の愛を感じたいとも……、思ってしまう。


千冬と同じように俺もふぅ、と息を吐いてみる。
白い煙は少し蟠ってから、冷たい空気に溶けていった。