【続編♡】かわいい美形の後輩が、俺にだけメロい2



俺と千冬が包帯を買って車に辿り着くと、丁度カゲヤン達も車に戻ってきたところだった。
千冬が預かっていた鍵で車を開け、男子勢は朝と同じく外で着替え始める。
マンティスとマロが、俺の右手を見て口を開いた。


「伊織、カゲヤンから聞いたぞ。ヒロインムーブで救護室に運ばれたらしいな。大丈夫か?」
「『ピンク髪のアイドルがドラマの撮影してたらしい』って他のお客さんが噂してたよぉ。それで?お姫様の怪我はどんな具合なのぉ?」
「…お前ら、心配してんのか冷やかしてぇのかどっちだよ」


ぞんざいな口調で答えると、二人はニヤニヤ笑ったまま「もちろん心配してる」と返してきた。
コイツら…。


「大した怪我じゃねぇよ」
「でも利き手使えんのやろ?めっちゃ不便やん」
「あー、まぁ…」
「大丈夫です。伊織先輩の身の回りのことは、全て僕が手伝いますから。伊織先輩、ウェア脱がせるので手上げてください」
「おう」
「はぁ、さすが千冬っちだねぇ。伊織、世話焼きな彼氏がいて良かったねぇ」
「彼氏というか、保護者だな」
「過保護すぎんねん」


横でなんやかんや言ってる友人らに、わざと白けた目を向け抗議する。相変わらずニヤついてるアイツらには、何も堪えてないみてぇだけど。
とにかく後輩の千冬に頼りっぱなしなの俺をイジれて楽しいみてぇだ。
うぜぇ…。


「伊織先輩、ブーツも脱げますか?」
「ああ、それは自分で……うわっ、」


ブーツに左手を引っ掛け、片足を上げて脱ごうとしたところでバランスを崩す。
しかしそれを予期していたかのように、千冬が俺の身体をぎゅっと抱いて支えた。


「ふふ、大丈夫ですか?」
「悪ぃ。ありがとな、千冬」


ウェアから着替えた今は、千冬の体の感覚がより近い。
千冬のしっかりした胸板に顔を埋めたまま、はにかんだ笑顔で見上げた。
柔らかい瞳が、優しく俺を見る。
脇の下から背中に回された腕は、少しだけ力を強めたようだった。

体温が、じわりと上がる。


「…すっ、すぐ脱ぐから、ちょっと頼らせてくんね?」
「もちろんです」


無性に気恥ずかしくて、俺は顔を隠すように下を向いた。
右手で体を支えられない俺は、千冬に支えられたままもう一度ブーツに手をかけようとする。
次の瞬間、体がぐっと持ち上げられ、足が地面から離れた。


「わ!」
「僕が…脱がせてもいいですか?」
「え、…い、い…けど…」
「ありがとうございます」


千冬は綺麗に微笑むと、車の後部座席に俺をそっと下ろす。
開いたままのドアから、足を外に出すように横向きに座らされ、俺の足元に千冬が跪いた。
俺の右足に丁寧に触れ、下から俺を見つめる。
優しくも熱い視線を送るピンク髪の美形は、映画とかに出てくる、忠誠を誓う騎士みてぇな感じ…。


「伊織先輩のお世話ができて嬉しいです」
「ほんと世話焼きだよな…あ、お前のウェア汚れんぞ」
「構いませんよ」


千冬が自分の膝の上に俺の右足を乗せる。
ブーツのダイヤルを操作して、足を締め付けていたワイヤーを緩めると、踵部分と俺のふくらはぎを優しく掴んだ。
柔らかい膨らみに千冬の指先が沈む。


「ふぁ…、」
「……」


ぎゅっと圧迫されると、スノボで疲弊した筋肉がほぐれる。気持ちよさに息が漏れた。
千冬はピタリと手を止め、ゆっくり手を動かした。下から上へ、指先が、服の上から優しくさすり上げる。
膨らみをそっと揉まれ、筋をなぞられ、気持ちよさに瞼が落ちる。


「ふぅっ…」


熱を持った手が膝裏まで届くと、少しくすぐったかった。
でも気持ちいい。
力が抜ける。
千冬は掴みやすい場所を探っているだけだろうに、俺はマッサージでも受けてるかのような気分だ。


「……伊織、先輩…」
「んぁ?」


名前を呼ばれて千冬を見る。
ピンク髪の美形は、眉尻を下げ、赤い顔をしていた。
霜焼けだな。痒くならねぇといいけど。


「あの…、その、声…」


栗色の瞳は少し暗くて、喉がごくんと上下するのが見えた。
あ、息だけじゃなくて声まで漏れてたのが聞こえてたらしい。
恥ずっ。

俺は恥ずかしさをヘラリと笑って誤魔化して、首を傾げ視線を合わせる。


「悪ぃ。千冬の手が気持ちくて、つい、な」
「……」
「マッサージ気分で力抜けちゃったわ。へへっ」
「……そう、ですか…」
「おう。あ、手伝ってくれてありがとな」
「…いいえ、恋人の特権ですから」


千冬は口元だけ優しく微笑むと、長いまつ毛を伏せ目を逸らした。
そのあとは口をぎゅっと閉じ、黙々と手を動かす。
両足のブーツを脱がせて、俺の車内用のサボサンダルを用意してくれる。
世話慣れしてんなぁ。さすが四人兄弟の長男。


「ブーツとボード、返却してきますね。伊織先輩はここで待っててください」
「おう。ありがとな」
「千冬クン、伊織の分は俺が持つから一緒に行こや」
「ありがとうございます、カゲヤン先輩」
「柚月チャンらはまだ着替えとんのかな?マンティスも一緒に行くやんな?」
「ああ、行く。…女子達も終わったらしい、柑奈氏が出てきた」
「じゃあ僕と伊織でお留守番しとくねぇ。みんないってらっしゃ〜い」
「ありがとな、カゲヤン」


カゲヤンは俺を振り返ると、親指を上げグッドサインを見せながら、ややウザいキメ顔でウインクをして見せてくれた。
早く行け。

カゲヤンに肩を叩かれた千冬は、カゲヤンと何か話しながら去っていく。
千冬もだいぶ打ち解けたよなぁ…、なんてぼんやり見ていた俺はハッとして俺はマロを呼び止めた。


「なぁ、マロ」
「なに〜?」


糸目の友人は、自分のボードを片付けながらいつものようにふわふわした調子で聞き返してくる。
俺がマロに聞きたいのは、もちろん、さっきのことだ。

困った時は信用できる友人に相談。
そしてタイミングよく、マロ知将に話せるチャンス。
これを逃すわけにはいかねぇだろ。


「千冬のデコって……えっと…、触りたくなんねぇ?」
「………」


微妙な顔で黙ってしまったマロに、俺は心の中で首を傾げた。
うん?聞こえてなかったか?


「千冬のデコ。なんか触りたく───」
「はぁ、伊織ぃ…。なるわけ無いでしょ?」
「っええ!?」


マロは俺に向き直ると、呆れを隠しもせずに大袈裟にため息をついた。


「だってお前…、…そもそも千冬のデコ見たことあるか?」
「そんなの覚えてないけど、見たとしても、な・ら・な・い。あのねぇ伊織、そう思うのは伊織だけだからぁ」
「……へ?」
「ほんと、しょうがないなぁ」


マロは後部座席に座ったままの俺に、席を詰めるよう手で払うジェスチャーをする。
大人しく従い横の席に移ると、マロが隣に乗り込んできた。

薄く覗く瞳が、静かに俺を見る。


「そう思うのは、伊織が千冬っちのことが好きだから。恋人だから」
「……」
「伊織は、僕とかカゲヤンとか、マンティスでも良いけど、『触れたい』って思う?」
「はぁ?思わねぇよ気持ち悪ぃこと言うな…痛ぇっ!」


マロが俺の左頬をつねった。
なんでだよ。


「僕だってお断り。でも伊織は、千冬っちとは手も繋ぐしハグもするでしょ?」
「……お、おぅ…」
「それはどうして?」


どうして、って…。
マロに問われて、自分の左手に視線を落とした。

千冬が握ってくれた左手の温度。
何度も抱き止めてくれた腕の力強さ。
もうしばらくされていない、キスの甘さ…。


「千冬が…、してくれるから?」
「……ねぇマジで言ってるぅ?じゃあさ、僕が伊織にキスしたいって言ったら、伊織はしてくれるの?」
「はあ!?」
「例えばの話!」
「マロとはしねぇよ!気色悪ぃこと言うな痛たたたたた!」


今度は両頬を思い切り引っ張られた。
痛ぇよ、キモいこと言ったのはそっちだろ?


「僕だってイヤだから。もう、なんで分かんないかなぁ〜?」
「……なんか、ごめん」
「ほんとだよ。でもさ、その違いが理由」
「その違い?」
「友達と、恋人。伊織にとってだって、その二つって同じ存在じゃないでしょ」


まあ…、そう…だけど…。
「恋人だから、デコに触れるのが恥ずかしい」ってことになるか……?
うーん。


「あのさ、俺が分かんねぇのは、その…、デコは、…千冬のデコは…、なんか…恥ずかしくて触れねぇ…っつうか……」


マロの眉がぴょこりと上がり、口の端は少し意地悪そうに釣り上がった。


「へえ〜?なんだ、伊織は超絶鈍感男だと思ってたけど、感覚では結構分かってるだぁ〜?」
「はぁ?何がだよ?分かんねぇって言ってるのに…」
「まあさ、触りたいなら触ってみればいいじゃん」
「えっ、……キモくねぇか?」
「今の伊織の方がよっぽどキモキモだからぁ。別に恋人なんだし、顔くらい触ってもいいでしょ。『触りたい』も、『ハグしたい』も、『キスしたい』も、恋人だから。千冬っちはむしろ喜ぶと思うけどぉ?」
「喜ぶ…?」
「ほら、もうみんな帰ってきたよ。あ、千冬っちには、さっきの例え話は絶対言わないでよねぇ?いい!?」
「お、おう?」


強めの念押しをされ頷くと、マロは俺の肩を軽く叩き車を出た。
やべぇ、マロの話、難しくてよく分かんなかったわ。
てか、結局、どうしてデコを触るのが恥ずかしいのか分かんなかったし……。


「伊織先輩、戻りました。僕のいない間に困ることはありませんでしたか?」
「おう、問題ねぇよ」
「良かったです。……何か考え事ですか?難しい顔してます」
「そうか?」
「はい。悩んでる伊織先輩も、すごく可愛いです」
「…は?」


砂糖をこぼしたような、甘い甘い笑顔。
相変わらず意味わかんねぇ褒め言葉だけど、まあいいか。
千冬が俺の隣に乗り込むと、カゲヤンと柚月も前の席に乗り込んだ。


「もう出るで?ほな、点呼ーッ!」
「点呼?」
「はい!柚月!」
「千冬!」


カゲヤンの呼びかけに柚月、千冬が挙手して笑いながら返事をする。
小学生かよ。
そう心でツッコミつつも、俺も堪えられず笑いながら挙手する。


「伊織!」
「岳斗ぉ!よし、全員おるな!」
「「「岳斗?」」」
「もうええねん!そのくだりは!てか柚月ちゃんは俺の名前で呼んどるやろ!」


笑い声に包まれた車が発進する。
隣の千冬が、俺にそっと語りかけた。


「伊織先輩、クレープ屋さん、今日はもう終わりでした。また明日、食べましょうね」
「あ、おう!」


怪我のアクシデントですっかり忘れていた、いちごプリンクレープ。千冬に言われてその存在を思い出す。
明日はゲレンデにいてもやることねぇなと思っていたけど、楽しみが一つ追加されたな。


「ふふ、楽しみですね」
「だな?」


俺が思っていたことと、同じ言葉を千冬が口にするから、俺の心はポカポカしてくる。

ピンクの前髪は整えられていて、あの白いデコは隠れていた。
俺は何故かそれに安心する。

あとで、…あとで、触ってみよう。
それで、何かわかるかも知れねぇし。

嬉しそうに微笑む恋人の横で、俺も口の端を緩めた。