宴会部屋。
田山が、苛立ったように額を抑えながらウロウロと畳の上を行ったり来たりしている。
「つまりなんだ、ここにいない連中は、その見えない『ゴースト監督』とやらに消されちまったってことなのか?」
「……とりあえず座んなよ、田山さん。気が散る」
柳澤が呆れたようにため息をつく。ソワソワと落ち着かない様子のまま、どすん、と田山は柳澤の正面に腰を下ろした。
「キコ、茶」
「……無理です」
横柄な田山のオーダーに、キコが栗田の背中に隠れるようにして首を振る。田山は信じられないものを見るようにキコを見たが、異常な状況を察してか、何か言いかけて口をつぐんだ。
はぁ、と田山から長いため息が漏れる。
「その怪異ってのは、まだ続くのか?」
「おそらく。カチンコが鳴って、モニターに映像がきたら確実に何かが起こる」
柳澤は、青い光を放ち続ける襖のスクリーンを睨みつけながら言った。
「……あれ、プロジェクターに繋いでんの、タブレットか?」
「あぁ、俺の私物です」
部屋の隅で、柳澤から一番遠い席に座ったまま腕を組んでいた杉山が、無表情で顔を上げる。
田山がゴソゴソと自分のビジネスバッグを漁り出した。中から、社用端末のタブレットを取り出す。
「……これにも、映らねぇかな」
「見せろ」
柳澤が田山から引ったくるように奪い取り、電源を入れる。
暗い画面が立ち上がり――そこには、プロジェクターと同じ、無機質なブルースクリーンが映し出された。
「アオイ、これ」
柳澤が、その青い画面を杉山に向ける。杉山は眉を微かに顰め、それを見た。
「同じようなブルースクリーンっすね……。カチンコが鳴れば、そっちにも映るかもしれません」
「モニターが二つになった!」
キコが、唯一の対抗策が増えたことに少しだけ嬉しそうな声を上げる。
「でも……モニターが増えても、さっき久保さんや純さんが消されたみたいな理不尽な怪異じゃ、どうしようもないですよね……」
柳澤のすぐ隣に座っている神坂が、絶望したように肩を落とした。柳澤がチラリと神坂を見下ろす。
「でも、どんな怪異が来るかわからないよりも、画面で『見える』方が対処はできますよ」
怯えるモデルを宥めるように、柳澤が優しく笑いかける。
その笑顔につられて、神坂も少しだけホッとしたように微笑みを返した。
ドン……ドン……。
ふいに、天井の板を隔てた真上から、重い音が響いた。
「え?」
栗田がビクッと上を向く。
「なんか、聞こえませんでした?」
ドン、ドン、ミシッ、ミシッ。
明らかに、上の階の廊下を『誰か』が歩き回っているような足音。
「ま、まだカチンコ鳴ってねぇよな!?」
田山が、顔から血の気を引かせて焦ったように叫ぶ。
「もしかして、消えた誰かが戻ってきたのかも!? さっきの、柳Dと杉山さんが霧の中から戻ってきたみたいに!」
キコがガバリと身を起こし、期待を込めて天井を見上げた。
柳澤は深く腕を組んで考え込む。
「こんな状況だから、絶対ありえねぇとも言い切れねえんだよな……」
唸るように言う。
「よーし!」
田山が決意したような声をあげ、勢いよく立ち上がった。
柳澤の手からタブレットをひったくる。
「俺が見てくる!」
「いや、一人じゃ危ねぇって」
柳澤が眉を下げて止める。田山は、部屋の隅でずっと冷ややかな目で自分を観察していた杉山をパッと見た。
「おい杉山、お前デカいし力あるだろ。一緒に来てくれよ」
名指しされた杉山は、少しだけ沈黙した後、感情の読めない顔で軽く肩をすくめた。
「……了解す」
「じゃあ、俺も」
柳澤が立ち上がりかける。
「バカ、お前まで来たら、ここ女の子だけになっちゃうだろ!」
田山が、手で制するように柳澤を押し留めた。そして、隣に座る神坂へあからさまな視線を送りながら、ニヤリと軽口を叩く。
「お前はここで、みんなを守れよ。特に、神坂ちゃんな!」
「モデル贔屓サイテー」
「田山P、ひどーい。」
栗田とキコから小さなブーイングが上がる中、田山は「ははっ」と軽く笑い、「杉山、行くぞ!」と張り切って暗い廊下へと出て行った。
杉山も、静かにそれに続く。
「アオイ……気をつけろよ」
柳澤が思わず声を上げる。立ち止まった杉山が、振り返った。柳澤を一瞥する。
「………」
一切の返事をすることなく、無言のまま暗闇へ消えていった。
「はぁ、全く……」
柳澤は杉山の明らかな苛立ちを含んだ態度に、 困ったように前髪を掻き上げた。
「杉山さん、なんか怒ってました?」
キコが不思議そうに首を傾げる。
「珍しいですね。いつも柳Dには絶対服従みたいな感じなのに」
キコの的を射た言葉に、栗田は「あはは……」と引きつった愛想笑いを浮かべた。
「柳澤さんと杉山さんは、大学がご一緒なんですか?」
神坂が柳澤を見る。
「あぁ、そうなんです。映画のサークルが一緒で」
「同じ就職先にまで行くって、すごい絆ですよね」
「いや、俺が大手制作会社にいたあいつを、無理やりこっちの会社に引っ張ってきちゃって」
感心したように言う神坂に、柳澤は少し照れたように肩をすくめた。
「あいつの撮る画が、俺の頭の中にある映像に一番しっくりくるんで。つい、欲しくなっちゃって」
「大学時代から、お二人は映画作ってたりしたんですか?」
神坂が穏やかに微笑み、首を傾げる。
「めっちゃ撮ってましたねー。サークルでの制作の方が楽しくて」
柳澤は、どこか懐かしむように、ふと目を細めた。
昔の記憶が蘇る。
大学四年。卒業制作の時期のことだ。
本来なら学科のゼミで作るべき作品だったが、柳澤は就活そっちのけで、サークル内の後輩たちを巻き込んでショートフィルムを撮っていた。
『カメラマン、アオイにまた頼みたいんだけど』
タバコを吹かしながら気楽に告げると、杉山は困ったように顔を顰めた。
『卒制なんすから、ちゃんと四年同士で撮った方が良くないですか? 俺、まだカメラそんな上手くないっすよ』
自信なさげに頬をかく杉山の肩を、柳澤はバンッと強く叩いた。
『上手い下手じゃねぇのよ。俺が「こういう画が欲しい」って感覚で言った時に、お前が一番近いものを撮ってくれるからさ』
『……それは、ケイさんがアウトプットが下手すぎるんですよ。このシーンをいい感じに!とか、雰囲気で!とか言うから、みんな裏でわかんねえよってキレてんす』
杉山が、呆れたように笑う。
柳澤は「うっ」と言葉に詰まり、顔を顰めた。
『そりゃ、そうなんだけどさ……。でも、お前はわかるじゃん!』
柳澤が子供のように喚く。
『俺の頭の中、わかってくれるやつがいりゃあ、それで良いんだよ』
その言葉に、杉山はふっと鼻で笑い、少しだけ口元を緩めた。
『……まぁ、やりますけど』
『よっしゃ! これで俺の卒制も安泰だわ』
柳澤は、手に入れた最高の相棒に向けて、ニヤリと笑いかけた。
回想が途切れる。
「今思えば、マジでロケハンとか素材撮りとかに付き合わせまくって、あいつの夏休みとか潰してたな……」
苦々しい顔で柳澤が呟くと、栗田がくすくすと笑った。
「杉くん、毎回休み明けの授業に一人だけ真っ黒に日焼けしてくるから、『やっぱりあの顔だから、裏でめちゃくちゃ遊んでるんだ』って女子の間で噂のマトでしたよ。先輩の制作に付き合わされて、全く遊んでなかったのに」
懐かしむように栗田が言う。柳澤は申し訳なさそうに眉を下げる。
「せっかくのあいつの大学時代の前半、全部俺が消費しちまったなぁ……」
「でも、杉くんめっちゃ楽しそうでしたよ。顔には出しませんけど。柳Dが卒業していなくなってからも映画は撮ってましたけど、なんか、どっかつまんなそうでしたもん」
栗田がクスクスと笑いながら、当時の杉山の様子を暴露する。
「……はぁ……めっちゃ青春。……てぇてぇ」
それを聞いていたキコが、両手で口元を覆い、興奮を抑えたような声でボソッと呟いた。
柳澤はそんなキコに肩をすくめると、神坂に背を向け、ごそごそと冷え切った靴下を脱ぎ出した。
「柳D、何してるんです?」
キコは両手をそのままにしつつも、訝しげに眉を顰める。
「いや、さっき外に飛び出た時、靴履かなかったからさ。靴下が霧でビショビショに濡れてて、気持ち悪くて」
ポイッ、と丸めた靴下を部屋の隅に放り投げる。
「へえ。霧の中ってやっぱり濡れるんですね。あんな濃い霧の中を歩いたことないから、わかんなかったです」
キコがあっけらかんと言った。
その言葉に、栗田が眉を寄せ、不気味なものに気づいたように首を傾げる。
「え……でも、田山さん……霧の中から来たのに、スーツとか、全然濡れてなくなかった……?」
ポツリと、静かな部屋にその呟きが落ちた。
「え?」
柳澤が、悪寒に顔を上げて栗田を見た、その瞬間。
――カァァンッ!!
空気を叩き割るような、あの音が鳴った。
全員の身体が、ビクリと大きく跳ね上がる。
「鳴った!」
キコが悲鳴を上げて栗田にしがみつく。
「杉くん達が、まだ上の階なのに……!」
栗田が両手で口を覆い、絶望的な顔で天井を見上げた。柳澤はバクバクと暴れる心臓を抑えながら、襖のプロジェクターを睨みつける。
フッ、と青い光が瞬き、映像が浮かび上がった。
モノクロで、傷だらけの荒い粒子。薄暗い廊下と、その先を歩く田山の背中が映っている。
「……8ミリフィルム?」
柳澤が愕然と呟く。
映像の中で田山が振り返り、カメラに向かって何かを言っている。だが、音声は全く聞こえない。すると、カメラ自体が頷くように、上下に大きく揺れた。
「え、これ……アオイの目線か?」
定点カメラではなく、誰かの目を乗っ取ったような一人称視点。田山が、手元にあるタブレットをカメラに向けて見せてくる。杉山の大きな手がそのタブレットを掴むと、そこにはプロジェクターの映像が引きの画角で映り込んでいた。
「え、向こうの画面には何が映ってるんですかね……?」
首を傾げるキコを、柳澤が振り向いて見る。
「あ、え!? 次は私が映ってる!」
キコの叫びに、柳澤がバッとプロジェクターの画面を見る。すると、プロジェクターに映し出された『杉山が持っているタブレット』の中に、再びこちら側のプロジェクターが入れ子のように映り込んだ。
「あ……? こ、これって、まさか」
柳澤は震える手を持ち上げ、自分の目の前にかざしてみた。すると、杉山の手の中のタブレットにも、全く同じように『柳澤の手』が映り込んだ。
「……向こうのタブレットに映ってんの、俺の目線だ」
柳澤が、震える声で呟く。
二点のPOV視点。一人称のようなカメラアングルで描かれるホラー映画の代表格といえば。
「まさか……」
映画のルールの答え合わせをしたくても、その思考を共有できる相棒はここにはいない。
「もう嫌、怖い……っ」
神坂が、声を詰まらせながら柳澤の腕にすがりついてきた。
『お前が守れよ』
先ほど、田山に言われた言葉が脳裏をよぎる。ずっと後輩の杉山に守られてばかりだった、情けない自分。ここからは、自分が矢面に立たなければ。
「だ、大丈夫ですよ。ギミックさえ見つけられれば、きっと対処できますから……」
柳澤は、自分に言い聞かせるように呟き、神坂の華奢な背中を慰めるように優しくさすった。
*
一方、その頃。
二階の全ての部屋の調査を終え、田山と杉山が薄暗い廊下に出た時に、そのカチンコは鳴った。
「おい、今、カチンコっぽい音が聞こえたぞ!」
廊下の一番奥で、田山が焦ったように周囲をキョロキョロと見回す。
「田山P、タブレットを」
杉山が短く告げると、田山は焦りながら鞄からタブレットを取り出した。映っているのは、青白い光を放つ襖のプロジェクターの映像。
杉山は訝しげに首を傾げた。
「なんだこれ……」
映っているのは、間違いなく一階の宴会部屋だ。そしてその画面の中には、まさに今『タブレットを持っている自分の手』と、横にいる『田山』の姿が映り込んでいる。
「俺の目線が、下のプロジェクターに映ってる?」
「なんか、随分ガサガサしてんな、この映像」
田山が画面を覗き込み、顔を顰める。
「いや、ガサガサしてるのはプロジェクターに投影されてる『俺の視点』だけっすね。宴会部屋自体は、色があるけど暗所特有のデジタルノイズがひどい。……民生機っぽいっ画質すね」
杉山が口元に手を当てながら冷静に分析していると、画面がぐるり、と動き、怯えるキコの顔がアップで映った。キコが画面の中で何かを言うと、またぐるり、とプロジェクターの方を向く。
「……これ、ケイさんのPOV視点になってるんだ」
「POVって、一人称視点ってことか? じゃあ柳澤の目が、カメラに乗っ取られてるってことか?」
田山が首を傾げる。
杉山の脳裏に、ある映画の名前が浮かび、嫌な予感がした。
「……とりあえず、下に戻りましょう」
そう言いかけた、その時だ。
画面に、神坂の顔がドアップで映し出された。
神坂が怯えたように身を寄せると、柳澤の手が、彼女の背中を優しく撫でるのがはっきりと見えた。
「おお、あいつ、こんな状況でちゃっかりやるな」
田山が、下卑た笑いを浮かべてニヤリとする。
杉山は目を逸らしながら、無言でタブレットを田山の胸に押し付けた。
胃の奥底に、真っ黒なモヤがどろりと広がる。柳澤の隣に誰かがいるのを見るたびに、八年間散々味わってきた、ひどく惨めな感情だった。
ここ最近は柳澤に特定の相手がいなかった。だから、すっかり油断していた。
杉山は小さく頭を振り、はぁ、と、そのドロドロとしたモヤごと、すべての息を肺から吐き切る。
「下に戻りますか」
完璧な『冷静の後輩』の仮面を被り直し、顔を上げる。
すると、田山がニコニコと、頬が裂けそうなほどの満面の笑顔で、こちらを至近距離で見つめていた。
「惨めだなァ」
「……は?」
「つらい?」
田山は、およそ人間とは思えないニンマリとした歪な笑みを浮かべて、杉山の顔を覗き込んでくる。
杉山の背筋に、ヒヤリと氷のような悪寒が走った。
「田山P……? 何、言ってんすか……」
「あんまり辛いようならさァ」
田山が、杉山の肩をポン、と軽く叩いた。
「――もう、止めようか?」
その瞬間。
田山の輪郭が、急激にカメラのピントが外れたように、ぼやっとブレて歪んだ。
直後。ジジジ……と、古い映写機の中でフィルムが焼き切れるような嫌な音が鳴る。スーツの胸元に、茶色い焦げ跡が浮かび上がったかと思うと、プツプツと不気味な穴が開き、瞬く間に全身へと燃え広がっていく。
視界に、ザザーッと幾筋もの激しいフィルムノイズの線が走った。
高熱に当てられたように、田山の目と口がグニャリと醜く膨らんで歪み、真っ黒に縮れて小さく丸まっていく。鼻をつく、セルロイドフィルムが焼け焦げる強烈な異臭。
「た、田山……さん……?」
杉山は、急速に原型を留めなくなっていく『それ』を前に、完全に声を失った。
*
一階、宴会部屋。
残された四人は、襖に投影されるプロジェクターの青白い映像を食い入るように見つめていた。
「……今回は、視点が変なだけで何も起こらないですね」
栗田が、祈るような神妙な面持ちで言う。
「もーー、早く終わってよぉ……」
キコが半泣きの声を上げる。
画面の中では、なぜか田山がニコニコと笑っていた。
「田山さん、こんな時も笑ってるとか、プロデューサーってメンタルすご……」
キコが呆れたように呟く。
だが、画面の中で杉山の手が田山にタブレットを押し付けた、次の瞬間。
ザザッ、ビリビリッ。
強烈なノイズが画面を引き裂いた。
「なんだっ……!?」
柳澤が身を乗り出してプロジェクターを睨みつける。激しいフィルムノイズの合間に、田山が『異常なほど頬を吊り上げた満面の笑み』を浮かべて、カメラを真っ直ぐに見据えていた。
ぞわりと、柳澤の全身の毛穴が粟立つ。
再び激しいノイズが走り、映像が途切れ途切れに明滅する。画面の中の田山が、どんどんとその笑顔を醜く歪ませながら、カメラへ迫ってくる。
ジリジリ、ジリジリと、杉山が後ずさっているのがわかった。
「え、なんか、田山さんおかしくないですか!?」
神坂が悲鳴のような声を上げた、その時。
田山の顔面に突然、焼け焦げたような茶色い穴が開き、映像が爆発したようにノイズだらけになった。
ザーー、と砂嵐のような激しいノイズが画面いっぱいに広がり、完全に視界が塞がれる。
「アオイ……ッ!!」
柳澤は弾かれたように立ち上がり、周囲の制止も聞かずに宴会部屋を飛び出した。薄暗い一階の廊下を全速力で駆け抜け、軋む階段を一段飛ばしで駆け上がる。
「アオイ!!」
二階の廊下に飛び込んだ柳澤は、ハッとして息を飲んだ。
薄暗い廊下の一番奥。
突き当たりの壁の隅に向かって、力無く俯いて佇む、背の高い男のシルエットが見えた。杉山だ。
(――なんだ、あれ)
どこかで見た、強烈に見覚えのあるその異様な立ち姿に、柳澤の心臓が大きく軋み、警鐘を鳴らす。
無意識に踏み出そうとした足が、床に縫い付けられたようにピタリと止まった。
もし、この空間のルールが、本当にあの映画のオマージュだとしたら。
あの「壁に向かって立つ後ろ姿」に近づいた者が、背後から見えない何かに襲われて、終わる。もし監督が自分でも、そういう撮り方をすると思う。
恐怖で足がすくみ、全身から嫌な汗が吹き出す。頭の中の理性が、全力で引き返せと警告している。
しかし、このまま、あいつを放っておいたら?
『また、俺の部屋ですか』
『だったら、寝ないでください』
あの無愛想で、生意気で、でも絶対に自分から離れようとしなかった杉山の顔が、次々と脳裏に浮かび上がる。
『いますよ』
霧の暗闇の中で手首を掴まれた、あの大きく包み込むような手の『熱さ』。
それを思い出した時。
「アオイッ!!」
理屈も、恐怖も、映画のルールも、すべて消し飛んでいた。
柳澤は、自分でも気づかないうちに床を蹴り、壁に向かって立つ杉山の背中へと全速力で駆け出していた。
