子どものころ、千葉直人はヒーローになりたかった。
マンガに出てくるような主人公。悪の組織と戦うスーパーヒーロー。
大人になって気づいた。この世に悪の組織なんてなかった。
かわりに立ちはだかっていたのは、日本をとりまく社会問題。
貧困。差別。格差社会。人口減少。外国人問題。そして日本人同士の分断。
そのどれもが、放っておいていいものではない。なんとかしなければ……。
直人は今朝、夢を見た。とてもリアルな夢だった。
国会議事堂をとりかこむ数万の民衆。日本政府に異をとなえる反逆者たち。
それをむかえうつ、警察機動隊。火炎瓶がとびかい、放水車が出動し、
道路に無数の負傷者がころがっている。そんな夢だ。
マジであせった。夢とは思えないリアリティー。
激化するデモ隊に業を煮やした政府は、武力鎮圧を決断。
荒ぶる民衆に装甲車がつっこんでいくまさにそのとき、直人は目がさめた。
ひどい夢だ。まだドキドキしてる。
だって装甲車だぜ。せっぱ詰まりすぎ。
めざめた直人は、ふとんの中でしばらく考えていた。
いまの日本にはたくさんの問題が山積している。
このままでいいわけがない。オレだってなんとかしたい。
いや、なんとかしなきゃいけない。でもどうすりゃいい?
お金もない。権力もない。
なにも持たないハタチのオレに、なにができるっていうんだ。
高卒で上京して、近所のスーパーでアルバイトをしながら、安アパートでひとり暮らし。
さえない男の三段活用。いわゆる貧困層ってのは、オレのことをいうんだろうなぁ。
そんなこともふくめ、いまの状況を、この社会をなんとかしたい。なんとか変えたい。
そう思っている。思ってはいるけど、なにをどうすれば……。
ピンポーン!
ふいに玄関のチャイムが鳴った。
枕もとのスマホに手をのばす。八時二十分だ。
だれだよ、こんな朝っぱらから。
そんな簡単に、ひとんちのチャイムを鳴らすなよ。
いつもなら出ない。まだ寝ている時間だ。
こんな失礼なチャイム、ガン無視だよ。
でもまぁ、きょうは起きてるし。出てやらんこともないけどな。
掛け布団をはいで、直人は玄関へむかった。
「はーい」
ドアをあけると、ひとりの少女が立っていた。
「あ、あのー、突然おじゃまして、すみません。こんな朝はやく、非常識ですよね」
高校生くらいの女の子。ひどくおびえた様子。
「わたしも迷ったんです。チャイム。押すかどうか。だけど押さないと、はじまんないし。もうしわけないなぁと思いながらも押しちゃいました。ごめんなさい」
「べつにいいけど」
「え?」
少女が顔をあげる。
「きょうはもう起きてたから。これが寝ているときなら話はちがうよ。チャイムには出ない。オレ、睡眠を邪魔されるのが、いちばん嫌いなんだ」
「わかります。わたしもそうです。せっかく気持ちよく寝ているのに、むりやりお母さんに起こされると、むきーってなります」
ふんばるように顔を赤らめ、少女が力説する。
「あったかいおふとんで惰眠をむさぼることがしあわせの絶頂だということをお母さんは知らないんです。わたしとは、決定的に価値観がちがうのです」
「そうなの?」
「はい。だからわたしは、むきーってなるんです。つまり、そういうことですよね?」
「……まぁ、そうかな」
「よかった。価値観の共有。第一関門、クリアです」
「それで?」
「それで?」
ぽかんとした顔で、少女が見つめる。
「それでキミは、オレになんの用があるの?」
「あっ……そうですよね。それを言わないとダメですよね」
おでこをぺしっとたたき、少女がやっちまったぁみたいな顔をする。
「わたし、いつもそうなんです。言わなきゃいけないことを言わないで、どうでもいいことばかりしゃべって。バカですよね、ほんと」
「そんなことはないと思うけど……なんの用事?」
「はい。とつぜんで申し訳ないんですけど、救世主になっていただけませんか?」
真顔で少女が見つめる。頭にへんな髪留めをしている。クマの形のヘアピンだ。
念のため、直人は聞きかえした。
「救世主?」
「はい」
「だれが?」
「あなたが」
「オレが救世主になるの?」
「そうです」
「なんで?」
「もちろん、日本を救うためです」
見あげると、さわやかな秋晴れだった。文句のつけようのない青空がひろがっている。
どうやらこれ、玄関先でする話じゃなさそうだ。
「とりあえず、ここじゃなんだから、部屋のなかへどうぞ」
「恐縮です」
ぺこっとおじぎをして、少女はなかに入った。
マンガに出てくるような主人公。悪の組織と戦うスーパーヒーロー。
大人になって気づいた。この世に悪の組織なんてなかった。
かわりに立ちはだかっていたのは、日本をとりまく社会問題。
貧困。差別。格差社会。人口減少。外国人問題。そして日本人同士の分断。
そのどれもが、放っておいていいものではない。なんとかしなければ……。
直人は今朝、夢を見た。とてもリアルな夢だった。
国会議事堂をとりかこむ数万の民衆。日本政府に異をとなえる反逆者たち。
それをむかえうつ、警察機動隊。火炎瓶がとびかい、放水車が出動し、
道路に無数の負傷者がころがっている。そんな夢だ。
マジであせった。夢とは思えないリアリティー。
激化するデモ隊に業を煮やした政府は、武力鎮圧を決断。
荒ぶる民衆に装甲車がつっこんでいくまさにそのとき、直人は目がさめた。
ひどい夢だ。まだドキドキしてる。
だって装甲車だぜ。せっぱ詰まりすぎ。
めざめた直人は、ふとんの中でしばらく考えていた。
いまの日本にはたくさんの問題が山積している。
このままでいいわけがない。オレだってなんとかしたい。
いや、なんとかしなきゃいけない。でもどうすりゃいい?
お金もない。権力もない。
なにも持たないハタチのオレに、なにができるっていうんだ。
高卒で上京して、近所のスーパーでアルバイトをしながら、安アパートでひとり暮らし。
さえない男の三段活用。いわゆる貧困層ってのは、オレのことをいうんだろうなぁ。
そんなこともふくめ、いまの状況を、この社会をなんとかしたい。なんとか変えたい。
そう思っている。思ってはいるけど、なにをどうすれば……。
ピンポーン!
ふいに玄関のチャイムが鳴った。
枕もとのスマホに手をのばす。八時二十分だ。
だれだよ、こんな朝っぱらから。
そんな簡単に、ひとんちのチャイムを鳴らすなよ。
いつもなら出ない。まだ寝ている時間だ。
こんな失礼なチャイム、ガン無視だよ。
でもまぁ、きょうは起きてるし。出てやらんこともないけどな。
掛け布団をはいで、直人は玄関へむかった。
「はーい」
ドアをあけると、ひとりの少女が立っていた。
「あ、あのー、突然おじゃまして、すみません。こんな朝はやく、非常識ですよね」
高校生くらいの女の子。ひどくおびえた様子。
「わたしも迷ったんです。チャイム。押すかどうか。だけど押さないと、はじまんないし。もうしわけないなぁと思いながらも押しちゃいました。ごめんなさい」
「べつにいいけど」
「え?」
少女が顔をあげる。
「きょうはもう起きてたから。これが寝ているときなら話はちがうよ。チャイムには出ない。オレ、睡眠を邪魔されるのが、いちばん嫌いなんだ」
「わかります。わたしもそうです。せっかく気持ちよく寝ているのに、むりやりお母さんに起こされると、むきーってなります」
ふんばるように顔を赤らめ、少女が力説する。
「あったかいおふとんで惰眠をむさぼることがしあわせの絶頂だということをお母さんは知らないんです。わたしとは、決定的に価値観がちがうのです」
「そうなの?」
「はい。だからわたしは、むきーってなるんです。つまり、そういうことですよね?」
「……まぁ、そうかな」
「よかった。価値観の共有。第一関門、クリアです」
「それで?」
「それで?」
ぽかんとした顔で、少女が見つめる。
「それでキミは、オレになんの用があるの?」
「あっ……そうですよね。それを言わないとダメですよね」
おでこをぺしっとたたき、少女がやっちまったぁみたいな顔をする。
「わたし、いつもそうなんです。言わなきゃいけないことを言わないで、どうでもいいことばかりしゃべって。バカですよね、ほんと」
「そんなことはないと思うけど……なんの用事?」
「はい。とつぜんで申し訳ないんですけど、救世主になっていただけませんか?」
真顔で少女が見つめる。頭にへんな髪留めをしている。クマの形のヘアピンだ。
念のため、直人は聞きかえした。
「救世主?」
「はい」
「だれが?」
「あなたが」
「オレが救世主になるの?」
「そうです」
「なんで?」
「もちろん、日本を救うためです」
見あげると、さわやかな秋晴れだった。文句のつけようのない青空がひろがっている。
どうやらこれ、玄関先でする話じゃなさそうだ。
「とりあえず、ここじゃなんだから、部屋のなかへどうぞ」
「恐縮です」
ぺこっとおじぎをして、少女はなかに入った。
