おかえりなさい、俺の英雄


『俺の家さ、父ちゃんいなくて。母ちゃんはずっと働いてるから帰ってもだれもいなくてつまんねーの!』
軽い、いつもの調子で何気なくそう告げられたのは、光留が俺に構い始めてから二週間ほどが経ったある日の帰り道のことだった。

引っ越してきて一カ月たってようやく知った、光留が俺にやたらと構う理由。
一つは、俺と光留が同じく片親であり、家に一人でいることが多い家庭環境に置かれていること。
そして二つ目は——

『今日は弘也の家でいいよな?』

「うん。」

俺たちの家が、隣同士であること。隣の家に、よく似た家庭環境。親に構われない子供たち。
子供ながらに感じたシンパシーが、光留が俺に構う理由だったのだ。
そんな俺たちがお互いの家を行き来するほどの仲になるまで、そう時間はかからなかった。
飢えている子供同士であっても、久しいぬくもりに触れてしまったら離しがたくなるから。

放課後二人で下校して、荷物を自分の家に置いたら、すぐにどちらかの家に身を寄せた。
同じテーブルに教科書を広げて宿題をして。ゲームをして。マンガを読んで。
一人だけの音のない部屋でただ時間が過ぎ去るのを待つように過ごしていた時が噓みたいに、光留と一緒に過ごしていると時間が過ぎるのが早くて。
二人で過ごす時間が増えていくと同時に、夜が来るのが怖くなった。一人になるのが怖くなった。
光留に構われるよりも前は、一人でも平気だったはずなのに。怖くなんてなかったはずなのに。
でもそれは光留も同じだったみたいで。夜中に枕を抱えて半泣きでインターホンを押しに俺の家まで来た光留は、俺がドアを開けたとたんに見栄を張って涙を袖で急いでぬぐい、

『夜更かししちゃおうゼ!俺たち共犯だ!』

なんてのたまったものだから、俺は笑いながら光留を家に招き入れた。


子供用の小さな布団に、小さな子供二人で身を寄せ合って。
狭いとかもうっちょっと端に寄れ、なんて最初は言い合っていた文句も、久方ぶりに感じた人肌の温かさにお互い安心して。
気が付いた時にはお互いの体に腕を回して、抱き合う形で眠っていた。
布団の冷たさに目を覚ますことも、孤独感に押しつぶされそうになりながら時間がたつのをただひたすら待ち続けることもなかった。
母親が死んで以来ぐっすり眠ることができたのは初めてだった。
目が覚めるまで寝ていたのは光留も同じで、二人そろって寝坊して、遅刻して、先生に怒られる羽目になってしまったけど。