母親が亡くなるよりも前のことは、正直あまり覚えていない。
静かに穏やかに、安らかに目を閉じた母の棺に張り付くようにうなだれて、終始一言も話さない父親の、
希望を見失ってしまったような、生きることを諦めたようなあの表情が、地面にへばりついたガムのように、しつこく脳裏にこびりついている。
母が骨壺に収まったあの日から、父親に当たる人物とまともに会話をした覚えはない。
電子機器を介して交わされる、業務連絡と言った方が適切な文字のやり取りだけが、俺と父親との関係が、
ギリギリ共に暮らす家族であると証明しているようなものだった。
居住者が一人欠けてしまった上に、一家の大黒柱がほとんど帰宅してこない一軒家は当時齢8の小さな子供であった俺にはあまりにも広く、
とても恐ろしく感じられた。心のよりどころであり一番触れ合うぬくもりを失ってしまった俺は、
父親に迷惑をかけぬように、とめどなくあふれ出て止まらない寂しさと悲しさから目を背けるように、
母親が生きていたという確かな痕跡から少しでも目を背けるために、自分で世界をコントロールできるゲームの世界にのめり込んでいった。
