孤高の鬼神は、嘘つき巫女だけを信じている

 幹子の言葉は絶対だった。
 
「ただし、軽率な言葉は慎みなさい。討伐軍の手を煩わせることも、無用な混乱を招くことも許しません」
「……はい」
「違反した場合、もしくは結城和未の兆視が不確かであると証明された場合……」
「……」
「即刻、巫女庁から除名いたします」

 幹子の発言に大広間が一気にどよめいた。
 つまりは和未の兆視の力を証明できなければ、巫女庁で居場所がなくなる実質上の最後通牒。
 和未の実家は地方の小さな古社・結城神社の神官家。
 幼少期より和未には兆視の力が目覚めていた。
 結城神社では和未の力で災いの兆しや妖の気配を言い当てることが多々あり、その噂が中央にまで届いてしまったほど。
 和未は僅か12歳で有望な巫女候補であると巫女庁から打診を受けて、上げられた。
 巫女庁より()しを受けることは、選ばれし証とされる。
 結城神社としては名誉なことで父も母も和未を誇りとして送り出してくれていた。
 そんな和未が巫女庁から追放されて、どんな顔をして家族の元に戻れというのだろう。

(……いいえ。例え、追放されたとしても絶対に行く……)

 自己の心配よりも、和未の言葉を信じると唯一告げてくれた縁雅の役に立ちたかった。

(私でも、あの人に待っている未来を変えられるかもしれない……)

 和未に迷いはなかった。

「承知いたしました」

 落ち着きながらも力強く返事をした和未に幹子は(おもて)にこそ出さなかったものの内心でたじろいだ。
 和未は大広間から退室する。
 回廊に出ると、無意識に大きく息を吐いていた。
 張り詰めていたものが緩み出していく。

「大人しくしていれば良かったのに……」

 声をかけられて振り返れば、腕を組んで立っている茅乃の姿があった。

「自分の立場を悪くするだけなんだから、大人しくしていれば良かったのよ。和未は巫女庁のほうから見込んで招き入れた選ばれし者なんだから、例え“嘘つき巫女“と呼ばれていようと、役に立ってなかろうと、黙っていれば置いてもらえていたわ」

 茅乃の声が真綿のように和未の胸を締めつける。

「和未が討伐軍に同行したところで、何も出来はしない。今からでも取り消してきなさいよ。あの兆視は間違いでしたと」

 茅乃に反論できなかった。
 
(私に出来ることは何もない。――兆視以外に何も……)

「例え、そうだとしても見えたのに何もしないでいるのだけは……嫌です」

 茅乃へと小さくも、はっきりと告げる和未。
 和未を見つめていた茅乃は眉を顰めた。

「見えた……って私にはわからない感覚だわ。見えない未来より見える現実のほうが大切じゃないかしら」

 茅乃はそう言葉を残し、廊下の向こうへと歩き去っていく。
 和未は茅乃の背中を見送った。