孤高の鬼神は、嘘つき巫女だけを信じている

 胸の奥から熱が広がる。

「――過去も、この先も変わらず」

 互いが瞳の奥底まで覗き込むような強固な視線の重なり。
 
(縁雅様が初めて二人の未来を告げた……)

 和未の瞳からは涙が溢れ出ていた。
 ずっと重ならなくて。
 届かなくて。
 和未は知っている。
 この窮状を二人揃って生き抜けるのが、どれだけ難しいことであるかを。
 それは縁雅も同様だろう。

(それなのに……)

 浸りたくなる気持ちを押し込めて、和未は向き直る。
 息を詰めて睨むように。
 真っ直ぐに燃え盛る封印の社に向けて。
 ――禍津日神へと。
 縁雅は和未を支えながらも、黒刀を横に構えている。
 血がしぶきながらも表情一つ変えず、和未の合図で、いつでも踏み込めるように。
 二人の集中力は極限にまで昇り詰めていく。
 和未は何も聞こえなくなっていた。
 視界全てに広がる“無“。
 封印の社すら和未の見える世界から消えていた。
 その“無“に胎動する禍津日神だけ。

(合いが来る……)

「今です!」
 
 和未が叫ぶ。
 瞬時に、縁雅が動く。
 一直線に、最速で。
 業火が覆いつくす社の奥へと踏み込み、和未の指定した位置へと迷いなく刃を振るった。
 ――世界が止まる。
 支えを失った和未の身体は、いとも容易に風圧に従って宙へと弾かれていた。
 灰燼(かいじん)()した封印の社の奥から絶叫のような振動が全域に走る。
 落ち葉のごとく軽々と強風の中を舞う和未は薄れゆく意識の中でそれを聞いていた。