和未の頭上で縁雅の低い声が落ちる。
「縁雅様……」
縁雅の応諾の意を受けて和未は顔を上げた。
美の極致と例えても過言ではない縁雅の容顔が和未の狭くなった視界でぼやけている。
宿命を受け入れていた縁雅が和未と共に宿命に抗うことを選択したのだと。
和未の瞳は潤みが増し、輪郭をぼやかした。
「――必ず俺が斬る」
「……はい……」
「頼む」
「必ず、私が見つけます……」
言葉数が少なくても和未は縁雅の意を汲み取った。
(やっと本当の意味で縁雅様の隣に並べる……)
――共に死ぬためではなく、共に生きるために。
縁雅と和未は並んで封印の社へと歩みを進める。
先に禍津日神と対峙していたかのように、地面に突き刺さっていた黒刀を縁雅は片手で抜いた。
在るべき場所へと戻ったからか、来たるべき時が到来したからか、刀の円環の紋は今まで見たこともないほどに美しく光を帯びている。
封印の社は余すところなく火が舐めつくしていた。
炎々と風すら焼かれる。
どす黒い瘴気を炎が染め上げた。
息を吸い込むたびに気道がひりつく。
少しでも気を緩めれば押し潰されそうなほど空気が重い。
確かに社の中に存在している。
――禍津日神。
封印されているにも関わらず、たった一波で討伐軍を壊滅状態にさせるほど。
縁雅と並び立った和未は封印の社の奥へと目線を注ぐ。
「っ……!」
たったそれだけで強く拒絶されるように脳髄まで痺れが走って、和未は思わず俯いた。
「――和未」
「……大丈夫です」
もう一度、顔を上げる。
自分の呼吸が荒く、少しでも気を緩めたら足元から崩れ落ちそうで和未は自分を叱咤した。
(今度は逸らさない……)
目を凝らす。
業火を映す和未の瞳の色も縁雅と同じ緋色へ染め上がる。
鬼神さえ凌ぐような凄みさえ感じる真っ直ぐな和未の眼差し。
真正面からぶつかる風圧と全身を締めあげられているような苦痛で身体の外側から壊されそうになった。
それでも和未は禍津日神と正面から向かい合うように直視し続ける。
縁雅が和未を支援するように腰へと片腕を回した。
(隣には縁雅様がいる……)
一人ではないんだと、何よりも縁雅に支えられているのだと和未は踏み止まれた。
「あっ……」
炎の奥、更に奥。
ほんの一瞬だけ、闇の中で何かが光瞬く。
(禍津日神の核……)
「きゃっ……!」
認識した途端に強力な熱波が封印の社から放出されて、身体ごと後方に弾き飛ばされそうになる。
すかさず縁雅の腕の力が強まった。
和未の巫女服がはためく。
目を開けていられないほどの威力を持つ逆風。
高速で風が抜ける轟音が脳の奥にまで響く。
禍津日神からの拒絶だと和未には思えた。
「縁雅様……」
熱を持つ強風に唇さえ動かしづらい。
それでも和未は確信していた。
「核が見えました……。封印の効力が残る今しか……」
吠え狂うような風の中、和未は縁雅と視線を重ね合わせた。
もはや和未は縁雅の力だけでその場に留まっているような状態だった。
「――どこにある?」
「待ってください……」
脈打つ中心。
消えては、また一瞬だけ現れる。
広大な社の中で星のように瞬く一点。
脈打つ闇。
正確に縁雅に伝えるにはどうしたらいいか和未は思考を巡らす。
核を断つには、あの禍津日神が封じられている中心に流れに逆らって足を踏み入れる必要がある。
そして粒子ほど小さな核を正確に斬らなければならない。
器として死を選ぶのと同等――もしくは、それ以上に危険かつ無謀な行為に他ならなかった。
「縁雅様、このまま少し左にずれることはできますか?」
強烈な熱風に晒されている中、口を開くだけで内臓まで焼かれて水分が干上がりそうだった。
縁雅に支えられながら和未は、縁雅の位置が核のちょうど正面へとくるように、横へと移動する。
和未は逆風に逆らいながら人差し指を燃え盛る社の奥へと向けた。
「……この先の位置に核は現れます……。ただ、ほんの一瞬で、毛先ほど小さく……」
「到達させる」
縁雅は和未を片腕で支えながらも黒刀を構える手に力をこめる。
「合いが来ます。――その瞬間だけ核が浮かびます。私が合図を送るので真っ直ぐ……」
「待て」
縁雅が和未の言葉を遮る。
縁雅の言いたいことはわかっていた。
社へと縁雅が踏み込めば、支えを失った和未はこの風の咆哮に吹き飛ばされるだろう。
無事では済まされない。
「縁雅様……」
自分は大丈夫だとその場しのぎの安易な科白は言葉に出来ず、和未は縁雅の瞳を見据えて名前を呼ぶ。
和未が頃合いを間違えれば縁雅を危険に曝す。
判断の誤りは縁雅の死に直結してしまう。
和未の中に緊張と不安が渦巻いた。
「――和未」
けたたましく唸る風音でも確実に届く縁雅の低い声。
「――俺は和未の言葉だけを信じている」
「縁雅様……」
縁雅の応諾の意を受けて和未は顔を上げた。
美の極致と例えても過言ではない縁雅の容顔が和未の狭くなった視界でぼやけている。
宿命を受け入れていた縁雅が和未と共に宿命に抗うことを選択したのだと。
和未の瞳は潤みが増し、輪郭をぼやかした。
「――必ず俺が斬る」
「……はい……」
「頼む」
「必ず、私が見つけます……」
言葉数が少なくても和未は縁雅の意を汲み取った。
(やっと本当の意味で縁雅様の隣に並べる……)
――共に死ぬためではなく、共に生きるために。
縁雅と和未は並んで封印の社へと歩みを進める。
先に禍津日神と対峙していたかのように、地面に突き刺さっていた黒刀を縁雅は片手で抜いた。
在るべき場所へと戻ったからか、来たるべき時が到来したからか、刀の円環の紋は今まで見たこともないほどに美しく光を帯びている。
封印の社は余すところなく火が舐めつくしていた。
炎々と風すら焼かれる。
どす黒い瘴気を炎が染め上げた。
息を吸い込むたびに気道がひりつく。
少しでも気を緩めれば押し潰されそうなほど空気が重い。
確かに社の中に存在している。
――禍津日神。
封印されているにも関わらず、たった一波で討伐軍を壊滅状態にさせるほど。
縁雅と並び立った和未は封印の社の奥へと目線を注ぐ。
「っ……!」
たったそれだけで強く拒絶されるように脳髄まで痺れが走って、和未は思わず俯いた。
「――和未」
「……大丈夫です」
もう一度、顔を上げる。
自分の呼吸が荒く、少しでも気を緩めたら足元から崩れ落ちそうで和未は自分を叱咤した。
(今度は逸らさない……)
目を凝らす。
業火を映す和未の瞳の色も縁雅と同じ緋色へ染め上がる。
鬼神さえ凌ぐような凄みさえ感じる真っ直ぐな和未の眼差し。
真正面からぶつかる風圧と全身を締めあげられているような苦痛で身体の外側から壊されそうになった。
それでも和未は禍津日神と正面から向かい合うように直視し続ける。
縁雅が和未を支援するように腰へと片腕を回した。
(隣には縁雅様がいる……)
一人ではないんだと、何よりも縁雅に支えられているのだと和未は踏み止まれた。
「あっ……」
炎の奥、更に奥。
ほんの一瞬だけ、闇の中で何かが光瞬く。
(禍津日神の核……)
「きゃっ……!」
認識した途端に強力な熱波が封印の社から放出されて、身体ごと後方に弾き飛ばされそうになる。
すかさず縁雅の腕の力が強まった。
和未の巫女服がはためく。
目を開けていられないほどの威力を持つ逆風。
高速で風が抜ける轟音が脳の奥にまで響く。
禍津日神からの拒絶だと和未には思えた。
「縁雅様……」
熱を持つ強風に唇さえ動かしづらい。
それでも和未は確信していた。
「核が見えました……。封印の効力が残る今しか……」
吠え狂うような風の中、和未は縁雅と視線を重ね合わせた。
もはや和未は縁雅の力だけでその場に留まっているような状態だった。
「――どこにある?」
「待ってください……」
脈打つ中心。
消えては、また一瞬だけ現れる。
広大な社の中で星のように瞬く一点。
脈打つ闇。
正確に縁雅に伝えるにはどうしたらいいか和未は思考を巡らす。
核を断つには、あの禍津日神が封じられている中心に流れに逆らって足を踏み入れる必要がある。
そして粒子ほど小さな核を正確に斬らなければならない。
器として死を選ぶのと同等――もしくは、それ以上に危険かつ無謀な行為に他ならなかった。
「縁雅様、このまま少し左にずれることはできますか?」
強烈な熱風に晒されている中、口を開くだけで内臓まで焼かれて水分が干上がりそうだった。
縁雅に支えられながら和未は、縁雅の位置が核のちょうど正面へとくるように、横へと移動する。
和未は逆風に逆らいながら人差し指を燃え盛る社の奥へと向けた。
「……この先の位置に核は現れます……。ただ、ほんの一瞬で、毛先ほど小さく……」
「到達させる」
縁雅は和未を片腕で支えながらも黒刀を構える手に力をこめる。
「合いが来ます。――その瞬間だけ核が浮かびます。私が合図を送るので真っ直ぐ……」
「待て」
縁雅が和未の言葉を遮る。
縁雅の言いたいことはわかっていた。
社へと縁雅が踏み込めば、支えを失った和未はこの風の咆哮に吹き飛ばされるだろう。
無事では済まされない。
「縁雅様……」
自分は大丈夫だとその場しのぎの安易な科白は言葉に出来ず、和未は縁雅の瞳を見据えて名前を呼ぶ。
和未が頃合いを間違えれば縁雅を危険に曝す。
判断の誤りは縁雅の死に直結してしまう。
和未の中に緊張と不安が渦巻いた。
「――和未」
けたたましく唸る風音でも確実に届く縁雅の低い声。
「――俺は和未の言葉だけを信じている」



