久遠は場を見回しながら妖艶に笑う。
討伐軍は自然と水平に広がった。
封印の社と――妖と相まみえるように。
人間と妖が雌雄を決する。
『今度は器に邪魔をさせない』
久遠が視線を据えた先は中央に位置する縁雅と和未だった。
『器諸共、人間を根絶やしにしてやろう』
地面の裂け目という裂け目から妖が出没する。
数えられる量ではなく小型から人間以上の大きさを持つ妖まで多種に渡った。
小型から中位の異形、もしくはそれ以上まで。
群れというより流れとして妖が大量に押し寄せてきた。
「展開!」
涼成の号令が響き渡る。
刀を抜いた兵が妖群と衝突するように駆けていく。
結界巫女は符を切り、詠唱を奏でる。
たちまち、封印の社の前は血なまぐさい戦場へと変わり果てた。
「雑妖に対処しつつ、異形に気をつけよ」
「やつらには知性がある」
涼成と玄信が妖に刀を振るいながら、全体へ指示する。
『どこまでやれるか見物だな』
久遠は何もない空間で歩を進めていく。
上から人間と妖との抗争を満足げな表情で俯瞰していた。
文字通り高みの見物だった。
この場を掌握しているのは間違いなく久遠である。
人間側は耐久では足りない。
禍津日神の封印が決壊する。
加えて、妖は次々に瘴気から生み出される中、境界を越えて揃った人間の数は減ることはあっても増えることはない。
明らかに人間側に分が悪かった。
(それでも……)
和未は久遠の核を探るべく、久遠へと目を凝らした。
恐らく以前と場所を変えている。
縁雅が実力で久遠を上回ろうとも核を断たなければ、いくらでも再生可能であり、勝つことはできない。
「縁雅様……」
縁雅は和未の隣に立ち、久遠へと踏み込まない。
縁雅が和未から離れれば久遠は和未を真っ先に狙いに来るだろう。
和未しか核を見破れない。
今の戦場で動いていないのは三者だけだった。
「結城様」
結界巫女の一人が和未と縁雅の元へと駆け寄ってきた。
結界巫女の中でもとりわけ老練な巫女だ。
「私が命に代えても守りの結界を結城様に張ります」
「……え?」
「結城様にしか妖の核は見破れません。しかし、縁雅様は結城様を守ろうとする余りに、あの久遠という妖にまた止めを刺せなくなっては困るでしょう」
真剣に訴える結界巫女は和未の手を握った。
「”嘘つき巫女”などと、周囲の噂に同調し結城様を下に見ていました。いえ、私だけでなく巫女庁全体が……」
「……」
「しかし、今回、結城様と行動を共にして認識が誤っていたのだとわかりました。結城様は遥かに視えすぎるのだと……。恐らく巫女頭の大久保様よりも兆視の能力がお有りになります。だから誰も結城様を理解できなかった……」
「……」
「縁雅様は気がついていらっしゃったと存じますが」
縁雅は否定も肯定もせず黙っていた。
結界巫女は矢継ぎ早に言葉を紡ぐ。
「私たち人間は妖に敗北するわけにはいかないのです。瑞國の未来のためにも、この先に生まれゆく新たな生命のためにも……。禍津日神の復活だけは何としてでも阻止しなくてはなりません。そのためには縁雅様と結城様どちらも欠かせません」
そう言い切ると結界巫女は和未へと一枚の護符を渡し、瞼を閉ざし詠唱を放つ。
和未の周囲へと幾重にも淡い結界が張られていく。
縁雅は結界巫女の決死の意を汲みとった。
「――和未を任せた」
黒刀を片手に縁雅は一陣の風のごとく久遠へと最短で距離を詰める。
空中上で踏み込んだ。
刃同士が激しくぶつかり合う。
衝撃で生み出された風が和未のいる位置まで伝播した。
『やっと、お互い本気が出せるな』
縁雅と久遠は刃と刃を噛み合わせながら至近距離で視線を交し合う。
久遠と会話する気など端からないのか、縁雅は唇を引き結んだまま下がって間合いを取り直した。
すかさず、久遠が横へと刃を薙ぐ。
速い。
縁雅は半歩引く。
掠めたのか縁雅の頬から一筋血が伝った。
今度は最短の一閃で、久遠の首筋を斬る。
断ち切ったはずのそれは久遠の残像。
縁雅は半歩踏み替えて、背後へと切り返す。
再び激しく刃同士がぶつかり合った。
鋭く甲高い音が響き渡る。
今までの手合いとは両者の凄みが格段に違う。
敗北は死と同義。
和未は固唾をのんで縁雅と久遠の斬り合いを見守りながら久遠の核を探った。
(……わからない……)
両者の動きが瞬きより速いこともあるが、久遠の核が見つけられない。
和未は焦燥感に駆られ、渡された護符を握り締める。
和未の傍らでは結界巫女が詠唱を続けてくれていた。
気配を感じて和未は縁雅から視線を外す。
一体の人型の妖が腕を振り上げて、結界巫女に襲いかかろうとしていた。
「危なっ……」
討伐軍は自然と水平に広がった。
封印の社と――妖と相まみえるように。
人間と妖が雌雄を決する。
『今度は器に邪魔をさせない』
久遠が視線を据えた先は中央に位置する縁雅と和未だった。
『器諸共、人間を根絶やしにしてやろう』
地面の裂け目という裂け目から妖が出没する。
数えられる量ではなく小型から人間以上の大きさを持つ妖まで多種に渡った。
小型から中位の異形、もしくはそれ以上まで。
群れというより流れとして妖が大量に押し寄せてきた。
「展開!」
涼成の号令が響き渡る。
刀を抜いた兵が妖群と衝突するように駆けていく。
結界巫女は符を切り、詠唱を奏でる。
たちまち、封印の社の前は血なまぐさい戦場へと変わり果てた。
「雑妖に対処しつつ、異形に気をつけよ」
「やつらには知性がある」
涼成と玄信が妖に刀を振るいながら、全体へ指示する。
『どこまでやれるか見物だな』
久遠は何もない空間で歩を進めていく。
上から人間と妖との抗争を満足げな表情で俯瞰していた。
文字通り高みの見物だった。
この場を掌握しているのは間違いなく久遠である。
人間側は耐久では足りない。
禍津日神の封印が決壊する。
加えて、妖は次々に瘴気から生み出される中、境界を越えて揃った人間の数は減ることはあっても増えることはない。
明らかに人間側に分が悪かった。
(それでも……)
和未は久遠の核を探るべく、久遠へと目を凝らした。
恐らく以前と場所を変えている。
縁雅が実力で久遠を上回ろうとも核を断たなければ、いくらでも再生可能であり、勝つことはできない。
「縁雅様……」
縁雅は和未の隣に立ち、久遠へと踏み込まない。
縁雅が和未から離れれば久遠は和未を真っ先に狙いに来るだろう。
和未しか核を見破れない。
今の戦場で動いていないのは三者だけだった。
「結城様」
結界巫女の一人が和未と縁雅の元へと駆け寄ってきた。
結界巫女の中でもとりわけ老練な巫女だ。
「私が命に代えても守りの結界を結城様に張ります」
「……え?」
「結城様にしか妖の核は見破れません。しかし、縁雅様は結城様を守ろうとする余りに、あの久遠という妖にまた止めを刺せなくなっては困るでしょう」
真剣に訴える結界巫女は和未の手を握った。
「”嘘つき巫女”などと、周囲の噂に同調し結城様を下に見ていました。いえ、私だけでなく巫女庁全体が……」
「……」
「しかし、今回、結城様と行動を共にして認識が誤っていたのだとわかりました。結城様は遥かに視えすぎるのだと……。恐らく巫女頭の大久保様よりも兆視の能力がお有りになります。だから誰も結城様を理解できなかった……」
「……」
「縁雅様は気がついていらっしゃったと存じますが」
縁雅は否定も肯定もせず黙っていた。
結界巫女は矢継ぎ早に言葉を紡ぐ。
「私たち人間は妖に敗北するわけにはいかないのです。瑞國の未来のためにも、この先に生まれゆく新たな生命のためにも……。禍津日神の復活だけは何としてでも阻止しなくてはなりません。そのためには縁雅様と結城様どちらも欠かせません」
そう言い切ると結界巫女は和未へと一枚の護符を渡し、瞼を閉ざし詠唱を放つ。
和未の周囲へと幾重にも淡い結界が張られていく。
縁雅は結界巫女の決死の意を汲みとった。
「――和未を任せた」
黒刀を片手に縁雅は一陣の風のごとく久遠へと最短で距離を詰める。
空中上で踏み込んだ。
刃同士が激しくぶつかり合う。
衝撃で生み出された風が和未のいる位置まで伝播した。
『やっと、お互い本気が出せるな』
縁雅と久遠は刃と刃を噛み合わせながら至近距離で視線を交し合う。
久遠と会話する気など端からないのか、縁雅は唇を引き結んだまま下がって間合いを取り直した。
すかさず、久遠が横へと刃を薙ぐ。
速い。
縁雅は半歩引く。
掠めたのか縁雅の頬から一筋血が伝った。
今度は最短の一閃で、久遠の首筋を斬る。
断ち切ったはずのそれは久遠の残像。
縁雅は半歩踏み替えて、背後へと切り返す。
再び激しく刃同士がぶつかり合った。
鋭く甲高い音が響き渡る。
今までの手合いとは両者の凄みが格段に違う。
敗北は死と同義。
和未は固唾をのんで縁雅と久遠の斬り合いを見守りながら久遠の核を探った。
(……わからない……)
両者の動きが瞬きより速いこともあるが、久遠の核が見つけられない。
和未は焦燥感に駆られ、渡された護符を握り締める。
和未の傍らでは結界巫女が詠唱を続けてくれていた。
気配を感じて和未は縁雅から視線を外す。
一体の人型の妖が腕を振り上げて、結界巫女に襲いかかろうとしていた。
「危なっ……」



