妖が人を襲い、人を喰らう、この国――瑞國。
瘴気が生み出す妖と人間との共存は成し難ず、古来より人々は妖の脅威と対峙してきた。
炎が宵闇を食い尽くす。
破壊された結界。
社が燃え上がり、その奥でどす黒い瘴気の塊が蠢いている。
刀は折れ、護符は破れ、辺りに散乱していた。
地面には累々と伏せている兵士たち。
あるいは大量の血を流し、あるいは身体の一部を食いちぎられ、あるいは今際の呻きを上げ……。
直視にたえない惨状が広がっていた。
緩やかな反りを描く黒く光る刃が血に濡れ、社の前に突き立っている。
その黒刀の主を和未は知っていた。
燃えるような紅い瞳。
癖のない黒い髪。
戦場の鬼神と呼ばれる男。
妖討伐軍総大将――九鬼縁雅。
人間でありながら強すぎるがゆえに鬼神と呼ばれるほど畏怖されている縁雅が炎の中で横たわっている。
――お願い……。もうやめて……。
――これ以上は見たくない。
目を覆いたくなるほどの残酷な映像は容赦なく続いていく。
――もう、いやだ……。
縁雅の呼吸は浅く、体はもう動かないはずだった。
黒の装束は破れ、裂けた皮膚から血が溢れ出していた。
左胸元が白く光っている。
円環の紋。
存在を主張するように光を帯びている。
縁雅は震える腕で地を押し、どうにか体を持ち上げた。
自分の刀を地面から抜く。
縁雅の美貌が限度を超えた苦痛を語っていた。
静かに刀を構え、そして――勢いよく自らの胸へと突き刺した。
――いやっ……!!
縁雅の身体を貫通する血塗れの黒刀。
崩れ落ちていく縁雅。
――その瞬間、和未の世界は白く変化していた。



