来世で会いましょう


「ありがとう兄貴」
「はいはい、俺はここで待ってるから早めに戻ってこいよ」
 サクッ・・・サクッ・・・と、草木を踏み鳴らす音が辺りに響き渡る。
目の前には六階建ての大きな廃病院が天高く(そび)()っていた。
夜だからだろうか、不気味さが一層際立っているその廃病院の前には四人の男子高校生が顔を()()らせながら廃病院を見上げていた。
「十五年前に閉院って聞いたから、てっきりもっと綺麗な状態かと思ってましたが・・・・・・雰囲気ヤバいっすね」
「俺、ションベン漏らすかも」
「スマホの充電、後どれぐらいあったかな」
「もう帰りたくなってきた」
 各々好き勝手に喋る姿に、俺―――久瀬海斗(くぜかいと)はため息を漏らした。
恐怖心が勝り、人の声など耳に届いていないのだろう。ひとりごちる事で恐怖心を消し去ろうとしているのだ。落ち葉や草を踏みならしながら数歩前に出る。視線を再び廃病院へと向ける。
────旧心明(きゅうしんみょう)病院。三十年前に建設され、内科、整形外科、形成外科、眼科、皮膚科、小児科など多くの科が中に併設されていたという。十五年前なんてつい最近もいいところなのにネットで調べても閉院理由が何処にも書かれていなかった。唯一書かれていたのは『病院院長、謎の失踪』 ただ、これだけだ。つまり謎に包まれた病院だ。
たったこれだけの理由でも心霊スポットマニアや心霊系配信者には美味しいネタだ。実際に、ネット上には旧心明病院の動画が何本かアップされていた。見た限り、心霊現象等は映っておらず、ただただ重苦しい雰囲気を漂わせた病院内を歩き回っているだけの動画がほとんどだ。中には一目で分かるようなヤラセ動画まであった。
 七月二十五日。今の夏に「真夏日」という言葉は無くなってきた。毎日が猛暑だ。場所によっては四十度を超える酷暑の所もある。ここ何年かの夜は風が吹いても昼間の暑さを引き連れるように生温く、ねっとりと身体に纏わり付く。
 暑いし、来なきゃ良かった。

 ―――一か月前。
「今度の夏休み、みんなで心霊スポットに行こうぜ」
 部室内の静寂を破ったのはオカルト研究部の部長こと渡辺司(わたなべつかさ)先輩だった。
 オカルト研究部―――主に心霊について調査する部活だ。と、いうのは建前で、実際にはホラー漫画を読んだり、ホラー映画や心霊動画を見たりしているだけの部活だ。部員は部長の司先輩を筆頭に副部長の林大智(はやしだいち)先輩、桜庭颯斗(さくらばはやと)先輩―――そして俺を含めた四人だ。基本、運動部とは違い、オカルト研究部―――通称『オカ研』は土日の部活動はない。顧問の先生も気が向いた時にしか顔を出さない始末だ。みんな自由に過ごしている。ちなみに、俺は二年で先輩方は三年。先輩達が卒業をしたら部員は俺一人になる。部活を存続させるためには最低三人は新入生から入部希望がないと厳しい。来年の新入生が三人も入部してくる見込みはない。つまり、すでに来年の春には廃部が決定している部活なのだ。無理もない。俺達が通う心明(しんみょう)高等学校には数多な運動部と文化部がある。相当のオカルト好きじゃなきゃ入部なんてしてこないだろう。
 俺はただホラー映画やスプラッター映画が好きなだけであり、入部理由もサボりたかっただけ。
(かい)が入ってから行ってないよな。心霊スポット」
 ターンッと軽快な音を立て、司先輩はパソコンのEnterキーを押した。先輩の後ろで心霊動画を見ていた俺はパソコンに映し出された真っ黒な画面に目をやる。
「あー、確かに。俺達が一年の時は今より部員がいたから夏休みとか冬休みとかによく行ってたもんね」
 漫画から顔を上げ、天を仰ぎながら颯斗先輩が懐かしむように呟いた。
「いいね! 行こうよ、久し振りに。来年にはもうオカ研、廃部なんだろ? 思い出づくりにさ」
 机から身を乗り出し大智先輩が賛同する。この部活に対して思い入れもない俺はどちらでも良かったが雰囲気に呑まれ「いいすっね」と頷いていた。
「で、何処に行くんっすか?」
 俺は立ち上がり、司先輩の背中で見えなかった真っ黒な画面を覗き込む。そこに表示されていたのが旧心明病院だった。