来世で会いましょう

 
 俺は太陽の光で目が覚めた。眩しくて目許に手を翳す。
「・・・・・・・・・・・・律!」
 飛び上がるように起きた俺は隣を見た。そこにはいつもいるはずの律はいなかった。俺は部屋を見渡し、開け放たれた窓の下を見た。俺の部屋はリビングの上にあるから庭の霊道が少し身を乗り出せば見える。いつも一人か二人は俯きながら歩いているはずなのに今日は人っ子一人いなかった。ただ、緑の芝生だけが日差しに照らされ青々と生えていた。
 俺は次にスマホを手に取った。すばやくロックを解除すると写真フォルダを開く。一枚一枚、写真を左にスクロールしていくが律が写っている写真がなかった。写真は、ただ壁を撮らえた写真や自撮りのような写真だけがあった。花火大会で撮ったポン太の写真はあったが律はいない。律という存在が消えた。微かなオーブだけが写ってる。それくらいだ。―――霊感がなくなった。
 落ち着きをなくした俺は部屋中を歩き回った。何か律に繋がる物を探した。すると何かを踏んだ。足を退けるとリストが書かれたノートだった。俺は(すが)るようにノートを拾い上げるとページを捲る。
『両親に会いにいく』という項目に丸が書かれていた。俺は書いた覚えがないので多分律が書いたのだろう。ふっとある文字が目に入った。ノートの下に何か書かれている。

『海斗へ 短い間だったけど毎日が楽しくて幸せだった。ありがとう。あっ、浮気は禁止だからね! 大好きだよ。来世で会いましょう。 律より』

 そして律が書いた『初めて恋人が出来た。嬉しい』という文字も残っていた。
 気付くと俺はノートを握りしめ泣いていた。濡れた目を彷徨わせると部屋の端には律のお母さんが律の遺品を入れてくれた紙袋が置いてあった。()って袋まで行き、中身を(あさ)ると律の写真が出てきた。溢れる涙の端に自分の腕が映った。昨日の夜の噛み痕だ。微かなオーブ、遺品、写真、噛み痕。それらは、律がいた事を如実(にょじつ)に物語っていた。
 俺は泣いた。声を押し殺すわけでもなく、子供のようにわんわんと声を上げて泣いた。しばらくすると部屋の外からドタドタと階段を駆け上がってくる音がした。一階まで泣き声が聞こえたのだろう。ノックもなく父さんと母さんが入ってきた。
 父さんと母さんは俺が泣いていることにひどく驚いていた。それもそのはずだ。親の前で泣いたのなんて何十年ぶりだろう。母さんは俺の背中を摩り「どうしたの⁉ 何処か痛いの⁉」と訊いてきた。父さんも心配そうに「どうした⁉ 何か嫌なことでもあったのか⁉」と訊いてくる。俺はそんな両親の心配をよそに、声をあげて泣いた。

 目の前には湯気が立ったお茶が置かれていた。俺は茶飲みを手に取り、お茶を一口啜った。泣きすぎたせいだろう。目が重い。
「少しは落ち着いた?」
 母さんは補杖をつき、父さんは腕を組みをし俺を見ていた。時刻は八時過ぎ。二人共とっくに仕事に行っているはずの時間だった。
 俺は考えた末、全てを話す事に決めた。誰にも話さないようにしようと思っていたが両親には聞いてほしかった。雨宮律という一人の人間の事を・・・・・・俺が人生で一番だと言い切れるほど愛した愛おしい恋人の事を・・・・・・。
「・・・・・・聞いてほしい事があるんだ」
 二人は身を乗り出し、真剣な眼差しで次の言葉を待っていた。普段はあんなに騒がしい二人なのにこんな真面目な顔もするんだなと思うと逆に笑えてきた。俺も真っ直ぐに両親を見据える。
「頭がおかしくなったとか思わないでほしい。証拠になるか分からないけど証拠もあるんだ」
 ―――父さん、母さん。俺の話を聞いてくれ。そしてこの荒唐無稽(こうとうむけい)な話を信じてほしい。

「七月下旬にオカ研の先輩達と廃病院に行ったんだ―――」