この日は満月だった。
部屋を暗くし、カーテンを全開に開き、窓を開け、網戸にする。見上げた月は不気味なくらい大きく、綺麗だった。俺は律と満月を眺めながらベッドに横になっていた。俺が月を見ているなか、律はずっと俺を見つめていた。
「何? 見られすぎて穴空きそうなんだけど」
「ははっ、ごめん。・・・・・・あのさ、海斗」
「今日の満月、不気味じゃね? 明日ニュースになるかもな」
その先の言葉を聞きたくなくて、律の話を無理矢理遮った。本当は耳を塞ぎたい。出来るならこの場から逃げ出したい。
すると視界全体に律が広がった。額を押しつけられている。俺は逃げられないと悟ると涙が溢れた。
「・・・・・・俺も・・・・・・俺も連れて逝ってほしい」
「え?」
「俺も律とあの世に逝きたい。俺も連れて逝ってほしい」
「な、何言ってんの。海斗はまだ若いんだから・・・・・・俺の分まで生きてよ」
眉を下げ笑う律はどこか寂しそうで悲しそうだった。けど俺はそんな表情でさえも美しいと感じた。白く細い綺麗な指で涙を拭われる。
「無理。一緒に逝きたい・・・・・・」
「駄目だって。海斗にはまだ未来があるんだから」
「・・・・・・・・・・・・同じ年に生まれたかった。でも俺は最低な人間だから・・・・・・律がいじめられてるのを見ても、見て見ぬふりをしてたかもしれない。アイツに偉そうに言ったけど、俺も所詮は同じなんだ。・・・・・・記憶を持ったまま、律が生まれた年に生まれ変わりたい。そして強くなって、律と仲良くなって、俺が守る」
目尻から垂れる涙が耳の輪っかの部分・・・・・・耳輪に溜まっていく。
「見て見ぬふりは悪いことじゃないよ。みんな、庇ったら次は自分がいじめられるかもって気持ちが少なくともあるはずだから。俺も誰かがいじめられたとしても助けなかったと思う・・・・・・。そうだ!」
律は何か妙案を思いついたように顔を明るくした。
「海斗が天寿を全うしたら迎えに来てあげる」
「そん時俺はヨボヨボの爺さんじゃねぇか」
「ヨボヨボの海斗も俺は好きだよ」
互いに見つめあったまま沈黙が続く。俺は手の甲で涙を拭うと再び律を見つめた。
俺は今、律を困らせている。困らせたいわけじゃないのに。笑顔で見送るはずだったのに。俺は覚悟を決める。
「輪廻転生って信じる?」
突然の質問に律はキョトンとしながらも小さく頷いた。
「輪廻転生って生まれ変わりだよね? あると思うよ。テレビでも前世の記憶を持って生まれてきた子がいるって特集でやってたりするし。実際、その子が名乗った名前が過去の記録に残ってたりするくらいだしね」
「うん。前世の記憶を持って生まれてくる人は少なくて、多くは前世で事故死をしたや殺された人、戦死した人らに多いらしい。俺と律は多分、生まれ変わっても記憶はない。成仏した後の事は分からないけど、生まれ変わりがあるなら、また人間に生まれ変わってきてほしい。この心明町に。俺も何とかしてでも、また人間に生まれ変わって律と同じ年に生まれるから・・・・・・来世で一緒になろう」
笑うと目に溜まった涙が一気に溢れる。涙で滲む視界には同じように涙を流しながらも笑顔を絶やさない律がいた。律は俺を強く抱き締めて声を殺し泣いていた。
「大丈夫。人生って長いようで短いからさ。すぐ、会いに行く」
「うん、待ってる。・・・・・・海斗、愛してる。本当にありがとう。リストにない事までしてくれて・・・・・・嬉しかった」
俺は自分の腕に噛みついた。これ以上泣いたら駄目だ。最後は笑顔で見送ろう。
「・・・・・・二ヶ月も一緒にいれなかったけどさ、俺は人生で一番楽しかったし幸せだった。誰よりも良い思いをしたと思ってる」
「うん、俺も人生で一番幸せだった。俺の事が視えたのが海斗で本当に良かったと思ってる」
「・・・・・・律、愛してる。この先もずっとずっと・・・・・・絶対来世で会おう」
「うん、俺もずっとずっと愛してる。・・・・・・来世で会おう」
気付けば俺の唇には律の唇が重なっていた。ほんのり冷たく、ほんのり温かい、マシュマロのような唇。
―――最後のキス。別れのキス。
俺はその唇の感触を、身体の感触を、忘れないように強く抱き締め、キスをした。
すると急激な睡魔に襲われ、瞼が落ちてくる。狭くなった視界に映ったのは律の笑顔だった。
『海斗、愛してる。絶対にまた会おう』
