来世で会いましょう


 ―――深夜二時。
 俺は未だに寝れずにいた。とりあえず目を瞑っている状態だ。隣にいる律は目を閉じてはいるが寝ていないのは分かっているので下手に身動きは出来ない。
『両親に会いにいく』
 残りあと一つ・・・・・・。
 めでたいと思う反面、心中は穏やかではなかった。
 律が成仏出来る。苦しみや悲しみから解き放たれる。良い事なのに素直に喜べない自分に辟易(へきえき)する。
「・・・・・・律」
「・・・・・・まだ寝てなかったんだ。知ってたけど」
 律はいつも俺を汚れのない大きな目で見つめる。俺は手を伸ばし律の頬を撫でる。
「日曜日、律の両親に会いに行くか」
「えっ、本当?」
『両親』―――その言葉を出した途端、キラキラと目を輝かせる。まるで夜にだけ咲く花、月下美人(げっかびじん)のように美しい笑顔を見せた。月下美人という花は夜にだけ咲き、朝にはしぼんでしまうらしい。花言葉は、確か・・・・・・『(はかな)い美』『儚い恋』
 そして―――『ただ一度だけ会いたくて』
ニュアンスは少し違うが俺の今の心情に似ていると思った。
 俺は今、ちゃんと笑えているだろうか? 律が成仏する時、笑顔で見送る事が出来るだろうか? 
 瞼がじわじわとが熱くなってくる。鼻の奥がツンとする。涙が出てくる兆候に俺は律を抱き寄せた。涙を見せたくなくて、離れたくなくて、力強く抱き締めた。律もなにかを感じ取ったのかもしれない。いや、俺が泣いているのに気付いている。涙が溢れて止まらない。鼻を啜る音も隠せない。泣いていることを悟られないようにと頑張っているのに、きつく結んだ唇の間から嗚咽が漏れる。これでバレない方がおかしい。
 無言のまま律は俺の頭を抱きかかえるように抱き締めた。
本当は俺も声を大にして言いたい。「行かないでほしい」「ずっと傍にいてほしい」っと・・・・・・。けど律をあの鬼のような顔をした悪霊になんかにしたくない。気持ちが纏まらなくて、乱れて、気分が悪い。
 俺はリストが書かれたノートを思い出した。今すぐ全ての丸を消してしまいたい。記憶を持ったまま律と出会った瞬間に戻りたい。そして今よりずっと甘えたい。甘やかしたい。律との一日一日を大事に過ごしたい。
 暗い部屋の中で俺の(むせ)び泣く声だけが響いた。


 八月二十三日、日曜日。この日も相も変わらず猛暑日だった。
 俺は片手に和菓子が入った茶色い袋と律の好きな甘いイチゴのショートケーキが入った小さな箱を持って歩いていた。律の家は俺の家から徒歩で約二十五分はかかる。律に自転車で行かなくていいのかと訊かれたが断った。少しでも多くの時間を律といたかったからだ。
 昨日は何事もなかったかのように代わり映えのない日常を過ごした。目を覚ましたら律が俺を抱き締めていてくれていた。あの後、俺はいつの間にか寝てしまっていたらしい。それでも目が覚めるまでずっと抱き締めていてくれていたのだ。
「この格好じゃラフすぎ? スーツとか着てくれば良かったか?」
「いや。線香あげに行くだけなのにスーツって・・・・・・。ていうか持ってるの?」
「持ってない。でもTシャツにハーフパンツに黒のキャップだぜ?」
「何もないのにスーツ着てこられた方が困ると思う」
 俺は確かにと頷く。
「・・・・・・律のご両親は何歳?」
「え? えーっと、もう五十歳は過ぎてるよ。俺が死んだとき、母さんが四十五歳で父さんが四十七歳だったから、今は・・・・・・五十二歳と五十四歳だね。老けたかな?」
「はは。そりゃあ歳を重ねれば誰だって老けるだろ」
 そんな事を律と手を握り合いながら話していると「あっ、あそこ!」と声を上げ、一軒の家を指差した。
 目の前まで行くと、そこには立派な一軒家が建っていた。年月を重ねているはずなのに古さが全く感じられない。外観も海外スタイルで門から見える庭には色とりどりの花が咲いていた。
「・・・・・・お前、金持ちだったろ?」
「え。いや、普通だと思うけど」
「なわけあるか。めちゃくちゃ良い家じゃねえか。ここだけ海外だわ」
「海斗の家も良い家だと思うけど」
「俺の家を『普通の家』って言うんだよ」
 あっけらかんと言い切る律に「自覚なしかい!」っとツッコミを入れる。誰がどう見たって立派な家だ。俺の家も一軒家だが、ここまで立派な建物ではない。数ある似たような一軒家の一つだ。俺はインターフォンに手を伸ばす。家に行くにつれ、話し合い、律とは同い年設定で通す事に決めた。本木拓也の時と同じように・・・・・・。でなければ話が合わない。後輩という設定でいこうと思ったが年が離れすぎている。俺が小一の時、律は小六だ。約七歳は離れている。接点など持ちようがない。話し合った結果、嘘と事実を混ぜることに決まった。馬鹿正直に「律の幽霊に会いました!」なんて言ったら気分を害するに決まっている。
 ―――ピンポーン。
『はい』
 インターフォン越しに女性の透き通るような声がした。お姉さんがいるとは聞いてないから、多分お母さんだろう。五十代とは思えない若々しい声だ。
「あっ。こ、こんにちは。急にすいません。俺は・・・・・・俺は、律の・・・・・・律の恋人の久瀬海斗です」
・・・・・・・・・・・・反応がない。しばらくすると小さな声で「あの子、彼氏がいたのね」と聞こえた。良かった、今のところは気分は害してないようだ。
『ちょっと待っててね。今、門を開けに行くから』
「はい。ありがとうございます」
 俺は野球部員のようにキャップを取り、頭を下げた。高鳴る鼓動を抑えようと深呼吸を繰り返す。
「恋人?」
 嬉しそうに問いかけてくる律に、小声で「事実だろ」と返した。
 玄関ドアはすぐに開かれた。一人の女性が門まで走ってくる。律のお母さんだ。髪を緩くウェーブしたミディアムヘアにゆったりとした薄茶色のロングワンピースがよく似合っている。声からも感じていたがとても五十代には見えなかった。門前まで来ると顔がはっきりと見て取れる。顔立ちも整っていて見た瞬間、すぐに律は母親似だということが分かった。
「こ、こんにちは。急にすいません。律の恋人の久瀬海斗です! これつまらない物ですが」
 俺はまた頭を下げ、台詞のように同じ言葉を言った。緊張しすぎて吐きそうだ。
 持ってきた袋を差し出す。律のお母さんは門を開け「えぇ⁉ わざわざ良いのに・・・・・・。ありがとう」と笑顔で袋を受け取った。
「良ければ中に上がって。律も喜ぶわ」
 ニッコリと笑う律のお母さんに笑顔を返し家の中に招かれる。歩き方、物の受け取り方、上品な笑顔、ドアを静かに閉める姿。一挙手一投足(いっきょしゅいっとうそく)が上品だった。母さんとは正反対だなっと思うと笑みが溢れた。
「お邪魔します」
 通された部屋はリビングとダイニングキッチンがくっ付いたLDKの広々とした部屋だった。当たり前だが俺ん()や本木家より広い。いや、広すぎる。天井にはチューリップ型をしたシーリングライトが吊るさっている。チューリップ型の照明なんてドラマでしか見た事がないと呆気に取られていると大きなテレビの前のソファに誰かが座っていた。後ろからでもガタいの良さが分かる。
「お父さん、律の彼氏さんがいらしたわよ」
 律のお父さん―――。俺は背筋を伸ばし、振り向いた父親に頭を下げた。
「こんにちは。律の恋人の久瀬海斗です」
 律のお父さんは少し驚いた顔を見せた後、笑顔で「暑い中、いらっしゃい」と迎えてくれた。律とは違い、肌は地黒だ。似ている所と言えばくっきりとした目鼻立ちくらいだろうか。
「海斗くん、色々持ってきてくれたのよ。どうぞ、座って」
 俺はダイニングテーブルに案内された。ガラス製のテーブルの上には白い花瓶に淡いピンクと黄色の花が生けられていた。あまりの華やかさにすっかり恐縮してしまった俺は大人しく席に座る。
 これの何処が普通の家なんだよっと膝に置いた手に緊張の汗が滲む。
「海斗くん、レモンティーとか飲めるかしら?」
「あ、はい! ありがとうございます!」
 失礼だと分かっていても家の中を見渡してしまう。俺は場違いな場所に来てしまったのではないかと不安になった。軽いパニックに陥っていると芳醇なコーヒーの匂いが鼻腔をついた。
「・・・・・・良い匂いですね」
「海斗くんもコーヒーが良かったかな?」
 前に座っていた律のお父さんに「あ、いや。コーヒーは俺にはまだ大人の味です。何故かアイスコーヒーは飲めるんですけどね」と肩を竦め苦笑した。
 俺はコーヒーが苦手だが何故かアイスコーヒー飲める。プチトマトは食べれても普通のトマトは食べれないのと同じだ。俺はコーヒーのあの苦さがどうも口に合わない。まぁ、アイスコーヒーも普通に苦いが・・・・・・。どうしても飲まなきゃいけない場面では砂糖やミルクがかかせない。今の所そんな場面には遭遇はしていないが。
「あら、律が好きなイチゴのショートケーキ! 三個も。律の分までありがとう」
「いえ。律がショートケーキ好きなの知ってたんで・・・・・・あげたくて」
 俺は隣室の(ふすま)が開放された和室が目に入った。俺の目線の先に気付いたのか、お父さんが立ち上がり「律はここにいるんだ」と案内をしてくれた。頭を下げ和室に入ると簡素なお仏壇が部屋の隅に置いてあった。開かれた扉には桜の花が散りばめられていて綺麗だった。傍には律の笑顔の遺影が置かれていた。
「・・・・・・・・・・・・」  
 遺影を見た瞬間、俺は律がこの世にいないのだと現実を叩き突けれたような強い衝撃に襲われ涙が溢れた。律は今も俺の傍にいる。俺の傍にいて喋って、笑って、怒って、照れて、手を繋いで、抱き締めて、キスをして・・・・・・。なのに仏壇という小さな箱を見た瞬間、現実に引き戻された気がした。まるで誰かに『もういないんだよ』と言われた気がした。近くにいたお父さんに「すいません」と頭を下げ、手の甲で涙を拭った。すると後ろから抱き締められる感触がした。間違いなく律だ。律は耳許で「大丈夫。俺はここにいるよ」と囁いた。俺は小さく頷きながらも涙が止まらなかった。律のお父さんは俺の肩に手を置き、後から来たお母さんも背中を静かに摩ってくれた。

 俺は出されたティーカップに口を付けレモンティーを一口飲んだ。甘くて美味しい。
「すいません。急に泣いてしまって・・・・・・」
 律のお母さんは「大丈夫よ」と笑みを浮かべ、同じようにティーカップに口を付けた。
「律が亡くなって七年。・・・・・・七年も想ってくれてありがとう」
 ズキンと胸が痛んだ。俺は七年も律を想っていない。約一ヶ月前に廃病院で会っただけだ。それに付き合って一週間も経っていない。
 ―――本当のことを言ってしまおうか?
 頭の中でそんな考えが過ったが止めた。こんな突拍子もない話をしたらご両親を余計に悲しませるかもしれない。もしかしたら怒らせてしまうかもしれない。俺には真実を話す勇気が出なかった。
 俺はテーブルに(ひたい)がつくほど頭を下げた。
「律を守れなくてすいませんでした。七年も線香の一つもあげに()ず、すいませんでした」
 また瞼が熱くなる。泣くまいと下唇を噛んだが、やはり駄目だった。
「良いのよ、海斗くん。貴方にも何か理由があったんでしょう? こうして律を忘れずにいてくれてるだけで本当に嬉しいのよ」
 母親の隣に座っている父親も小さく何度も頷いている。真一文字に結ばれた口は怒っているのではなく俺と同じように泣くまいと必死に口を結んでいるのだとすぐに分かった。
「あ、の・・・・・・こんな事を訊くのはアレなんですが・・・・・・律がゲイだということは」
 小さく首を振り「知らなかったわ」と答えた。
「あの子の書いた遺書に書いてあったの。・・・・・・・・・・・・言ってくれたら良かったのに」
 テーブルの隅にある木製のティッシュ箱からティッシュを一枚取り、目頭に強く押し当てた。
「私は男同士というのはよく分からないが息子を幸せにしてくれる人なら性別なんて関係ないと思っている」
 そう口を開いたのはお父さんの方だった。「性別など関係ない」その言葉に父さんが浮かんだ。
「・・・・・・俺の父親も全く同じ事を言ってました」
 俺は自分を落ち着かせるように深呼吸をし、自分の目を指差した。
「お母さん、お父さん。俺、目付き悪いでしょ?」
 突然の突飛な質問に律の両親はキョトンとした顔をする。
「これでイジメられてたんです。『目付きが悪くて気に入らない』って。教科書を隠されたりノートを捨てられたりしました。辛かったけど両親には言わなかったんです。・・・・・・いえ、言えなかったんです。言ったら悲しませるんじゃないか、とか色々考えちゃって・・・・・・。多分、律も同じだったと思います。お母さんとお父さんに心配をかけたくなくて言えなかったんだと思います。どうか自分を責めないで下さい。律はお母さんとお父さんが自分を責めることを望んではいません」
 律のお母さんは「そうね」と小さく頷きながらティッシュで涙を何度も拭っていた。お父さんも涙を絶対流さまいと顔を上げ、上の方を見ては頷いていた。

 俺は律の部屋にいた。
あの後、涙を拭っていた律のお母さんは笑みを溢し「もし良かったら律の部屋から何か貰っていってくれる? きっと律も喜ぶわ」と二階の律の部屋に案内してくれた。中に入ると部屋は綺麗に片付けられていた。埃一つないと言っても良い。きっと定期的に掃除されているのだろう。木製の勉強机に木製の棚、それに木製のベッドに薄い黄色のカーテンは部屋に温かみがあふれていた。
 机の上には小さな観葉植物とアロマキャンドル。二つのフォトフレームが置かれていた。一つは高校の入学式で撮った写真だろうか。『祝 入学式』の縦看板を挟むように律と両親が立っていた。もう一つは・・・・・・中学の卒業時の写真だろうか。胸に『卒業おめでとう』の胸章が着けられている。律は笑顔で誰かと肩を組んで笑っていた。―――本木拓也だ。
 パタンッ。気付けば俺は、そのフレームを机に伏せていた。
 俺は棚に近付く。下の段には小説が沢山並べられていた。上にはアルバムらしき本が四冊ほどある。手を伸ばし触れた三冊目の青のアルバムを取る。開けば中学生時代の律の写真が綺麗に収められていた。入学式から始まり、一年、二年、三年、卒業式。なかには勿論、学年ごとに撮られたであろう文化祭や体育祭の写真や修学旅行の写真もある。どれを見ても隣にはあの本木拓也がいた。俺は小さくため息をつき、続きと思われる緑のアルバムを取り出した。高校時代の写真だった。ペラペラと捲っていると遺影に使われたであろう笑顔の律の写真もあった。俺はその写真を袋から取り出す。
「ありがとう」
 声がした方に振り返ると律が立っていた。
「代弁してくれてありがとう」
 律はもう一度俺にお礼を言った。俺は首を左右に振り「俺も同じだったから・・・・・・。そうかなって思って言っただけ」と答えると、写真を掲げる。
「この写真、貰って良いかな?」
「えー。なんでその写真? もっと良い写真あるでしょ」
 俺は写真を見つめ笑った。
「これがいい。この律がいい」
 律は不服そうだったが「まぁ、海斗がそれでいいなら」と了承してくれた。あとはご両親の許可を貰うだけだ。
「あ。あとお前、アイツとの写真多過ぎ。マジ不愉快」
「あの時は仲が良かったから・・・・・・何、嫉妬?」
 俺は舌を出し「そうだよ。わりぃか」と素直に答えた。
「本木拓也は存在しません。律は俺の恋人です」
 何それと笑う律は嬉しそうに頬を赤らめていた。すると律は何かを思い出したかのようにベッドの方まで行き、カッパのぬいぐるみを俺に渡してきた。
「このネガッペも持ってってよ」
 ネガッペ・・・・・・。確か何年か前にSNSから流行ったカッパのキャラクターだ。ネガティブな発言しかしないのが、年代問わず共感を生み人気に拍車がかかったとかなんとか。ネガッペもネガティブとカッパをかけた名前だと聞いた事がある。
「あと、これね」
 次に律は小説が沢山並べられている棚に行き、十冊ほどの小説を渡してきた。しかも全てあの分厚い本でお馴染みの中村ヒカルの作品だ。
「重ッ! てか俺が小説苦手なの分かってて渡してきてるだろ」
「あっ、バレた? でも全部俺が好きな小説。何回も読み返した。俺の好きな物、海斗にももっと知ってほしいんだ」
「ふぅん」と間の抜けた返事をしたが、内心は凄く照れくさい。
 俺はチラリと小説に目を向ける。やっぱり全てが分厚かった。・・・・・・これを俺に読めと? などと考えていると前触れもなく、律が後ろから抱き締めてきた。
「大丈夫。俺は海斗の傍にいるから・・・・・・ちゃんと見てる。大好きだよ」
 これまた律の普段言わない言葉に俺はまた泣きそうになった。今の律が放つ『大好きだよ』は『さようなら』に感じられるからだ。『もうすぐお別れだね』と言われている気分だ。嬉しいはずの言葉が今はとても切ない。俺はぐっと涙を堪え、無理矢理に笑顔を作った。でなければ絶対に泣いてしまう。律を悲しませたくはないし困らせたくない。
「うん、知ってる。・・・・・・俺も大好き」
 俺は腕の中の荷物を強く抱き締めた。

 大量の荷物を持ち、俺はリビングに戻った。
 大量といっても大半が中村ヒカルの小説だが。
「あら、沢山見つけたのね。袋用意するから待っててね」
 そういうと律のお母さんは和室へと消えていった。律のお父さんは俺が抱えている小説を見つめていた。
「全部、律がよく読んでた小説だ」
「知ってるんですか?」
「ああ。よくリビングで読んでいたからね。同じ本ばかり繰り返し読んでて呆れを通り越して感心したな」
 懐かしむように目を細めながらテレビ前のテーブルを見つめていた。
「お父さん、読みますか?」
 俺は小説を差し出すと、大きな手を左右に振った。
「無理無理。老眼が始まってね。小説なんて字が小さくて今じゃ読むのが大変だよ」と笑った。
「これぐらいで入るかしら」と、ガサガサと音を立て紙袋を持ってきたお母さんにお礼を言い、紙袋に荷物を入れた。
「あっ。そうだ、これ・・・・・・アルバムから持ってきてしまったんですが貰ってもいいですか?」
 俺はハーフパンツのポケットから写真を取りだした。
「この写真・・・・・・。海斗くんも気に入ってくれたのかしら? 良い笑顔よね」
「はい。凄く可愛いと思います」
 俺は恥ずかしげもなく、はっきりと言った。隣にいた律は唇を尖らし「格好いいって言われたいんだけど」と小言を言っていた。
「あらぁ~・・・・・・。ふふっ、いいわよ。私達も持ってるから、大事にしてあげてね」
 ありがとうございます、と頭を下げると俺はそのまま口を開いた。
「あ、あの・・・・・・俺・・・・・・」 
 俺は自分の足の爪先を見つめる。今から発する言葉が恥ずかしくて口ごもる。深呼吸をして高鳴る鼓動を落ち着かせた。
「俺、この先も律以上に良い人って現れないと思ってるんです。だから、今世では駄目でしたが・・・・・・来世で律を俺にください!」
 俺はより深く頭を下げた。俺はこの先、恋をするつもりはない。この先もずっと律の恋人でありたい。
 すると頭上から上品な笑い声が聞こえたきた。俺は頭を上げる。多分、顔は真っ赤だろう。
「海斗くんはそんなに律が好きなのね。・・・・・・なら私は来世でもう一度この人と一緒にならないとね」
 肩を叩かれたお父さんは「そうだな」と豪快に笑っていた。
「でも、もし他に好きな人が出来たら・・・・・・海斗くんはそのまま先を進んでね。自分の人生をちゃんと歩んでちょうだい」
 俺は短く返事をすると「また来てもいいですか?」と訊いた。
「勿論よ」と白い歯を見せ笑ったお母さんにホッと胸を撫で下ろし「今日はありがとうございました」と何回も頭を下げた。
 お父さんとお母さんは玄関まで見送ってくれた。律は両親の顔を焼き付けるようにジッと見つめている。
「ありがとう。父さん、母さん」
 肩にポンッと手を置くとお父さんは何かに反応したように触れられた右肩に手を乗せた。
「・・・・・・お邪魔しました」
 別れの挨拶を告げると、律は両親の間をすり抜け俺の隣に来た。

 雨宮家の洋風な塀の前を歩いていると律が立ち止まり目を閉じた。
「どうした?」
「んー? 父さんと母さんが海斗の話してる」
「えっ⁉」
 思わず出てしまった大きな声に口を押さえ「なんて?」と小声で訊いた。
「『ロマンチックな子ね』って言ってる」
 律は可笑しそうに笑っていた。
「・・・・・・良いだろ? ロマンチックな男」
「来世で俺と一緒になってくれるの?」
 ニヤニヤと意地悪な笑みを浮かべながら律が訊いてきた。
「うるせぇ。・・・・・・なるに決まってんだろ」
 さっきから顔が死ぬほど熱い。俺は真っ赤な顔を見られないようにぷいっと背けた。
 律は嬉しそうに俺に隣に来て手を握った。