紡がれる力 ―霊を宿す少年―

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 重い気分のまま、学祭当日を迎えた。校舎の外は色とりどりの装飾で飾られ、まるで別の場所みたいに華やかだ。でも俺の気分だけは、朝からずっとどんよりしていた。

 いつも以上にテンションが低いまま教室の扉を開けた瞬間、女子たちに囲まれた。

「おはよ~三神!」
「今日は、アンタにかかってるんだからね!」
「頼んだよ、霊能者様!」

 次々と声をかけられるが、俺はただ頷くしかなかった。正直、プレッシャーで胃が痛い。すると女子の一人が、なにかを差し出してきた。

「制服のままじゃ迫力ないしさ。三神の格好よさが出るように、演劇部から衣装を借りてきたよ!」

 手渡されたのは、くるぶしまである真っ黒なマントだった。

(これ、見た目はドラキュラなんだけど?)

 そんなことを思いつつ、とりあえず羽織ってみる。鏡を見る限り、霊能者というより“エセ霊能者感が二割増し”になっただけな気がした。とはいえ、ここまで準備してくれたことに、ちゃんと応えないといけない。

 俺はメガネを外し、振り返って微笑む。

「どう?」
「……え?」

 俺を取り囲む女子たちが固まった。

「三神、その目……どうしたの?」
「コンタクト入れてみた」

 本当は違う。メガネを外すと、霊能者の証である赤い瞳が現れるだけだ。

「うわ……」
「その格好でお化け屋敷に立ってたら、本気で怖いわ」
「でも、なんか雰囲気出てる!」

 教室が一気に盛り上がる。そこへ男子たちも登校してきて、さらに騒ぎが大きくなった。その中心に――なぜか俺がいる。

(――こういうの、結構悪くないかもな)

 今までは、遠巻きに見ているだけだった。でも、こうしてみんなと一緒に何かを作るのは、思ったより楽しくて、自然と笑みが浮かんでくる。

「神様仏様、三神様! 今日と明日、お客さんがいっぱい来ますように!」

 岡田がいきなり床にひれ伏して、隣にいた鈴木も真似をする。スマホを構えて、写真を撮る奴まで現れた。この時点で、もう完全にお祭り状態だった。

(――頼むから、母さんが悪霊をたくさん連れて来ませんように。あと、ヤバい霊を背負った客も来ませんように)

 心の中で本気で祈る。

 そして午前十時。空に大きな花火が上がり、学祭が始まった。予想していたような大混雑ではなかったが、思っていたより人は来てくれた。特に女子が多い。噂を聞きつけた男子も、ちらほら顔を出す。

 最初は、霊が憑いているか視るだけのつもりだった。でも気づけば、心霊写真の鑑定をすることになったり、呪われているかもしれない思い出の品など、次々と相談が持ち込まれた。もちろん、半人前の俺が対処できないものもある。そういうのは預かって、母さんに処理してもらうことにした。

 自分なりに完璧ではないけれど、それでも俺はちゃんと役目を果たせたと思う。

 そして学祭が終わる頃には、最初に感じていた不安は、どこかへ消えていた。さらに嬉しいことに、俺たちのクラスは――最優秀企画賞を受賞した。他のクラスがやっていない企画だったこともあり、評判が良かったらしい。その結果、学年末のお楽しみ会は理事長の全額負担になった。

 教室は歓声に包まれる。岡田が飛び跳ね、女子たちは抱き合って喜び、担任まで珍しく笑っていた。

 俺も思わず笑う。ちゃんと役に立てた。半人前でも、誰かの力になれた――そう思った、その瞬間だった。背筋が、ぞくりと冷えた。

 教室の窓の外、校庭の隅にある大きなイチョウの木の下で、真っ黒な人影がこちらを見ていた。顔は見えない。なのに、はっきり分かる。

(……あれ、ヤバいやつだ)

 周囲の霊とは格が違う。空気そのものが淀み、地面から黒い(もや)が滲み出ている。その影は――はっきりと笑った。そして次の瞬間、消えたのだった。