紡がれる力 ―霊を宿す少年―

***
「なんだい、その辛気くさい顔は。疲れ果てたサラリーマンみたいだよ」

 帰宅した俺を見るなり、母さんが言った。

「うっさいなぁ、もう」

 鬼ババめ、と心の中で毒づきながら通り過ぎようとすると、頭の上に何かを乗せられた。

(……なんだよ)

 渋々手に取ってみる。

「饅頭?」
「三時のおやつ。遠慮せず食べな」
「……しかも賞味期限切れてる」

 表示を目の前に突きつけるが、母さんは平然とした顔をしたまま、カラカラ笑った。

「大丈夫大丈夫。一日くらい過ぎたって、腹は壊れないよ。あたしは昼に食べたけど、なんでもなかったし」
「いらん」
「ああ、可哀想に!」

 母さんは、急に芝居がかった声を出した。

「仏壇にお供えしたものを、ありがたく頂かないなんて! そんな息子に育てた覚えはなくってよ!」

 床に崩れ落ちる下手くそな演技を見て、俺は心底呆れた。

(学校は学校で面倒なことになってるのに、家ではこれかよ……)

「……分かった。食べるから」

 饅頭をテーブルに置き、台所で手を洗ってから椅子に座る。母さんは妙にウキウキした顔で、俺を見ていた。

「で? どうしたんだい」

 訊ねながら、首を傾げる。

「また綺麗な女の子に恋でもしたのかい? しかも残念なことに幽霊だったとか」
「それなら、まだマシだよ」

 俺は眉間にしわを寄せて饅頭をかじった。すると母さんが、当たり前みたいに温かいお茶を差し出す。それを飲んでから、重たい口を開いた。

「事態はもっと最悪」
「最悪?」
「学祭のクラスの出し物でさ。俺の霊能力を使うことになった」

 一瞬の沈黙。そして――。

「それは面白そうだね」

 母さんは満面の笑みで言った。

「これは悪霊を山ほど連れて、あたしが遊びに行ってやろうか?」

 この人、本気でそれをやりかねない。

「やめてくれ。対処できないの知ってるだろ」
「まぁまぁ」

 母さんは、カラカラ笑いながら言う。

「半人前のお前には、ちょうどいい修行じゃないか」
「その半人前具合を、クラスの奴らが分かってないんだよ」

 俺は深いため息をついた。

「もし何か起きたら、どうするんだって言ったらさ――結局、幽霊が憑いてるかどうか視るだけになった」
「ほう」
「それにプラスして、タブレットの占いアプリを使うことになってさ」

 母さんの眉が少しだけ上がる。

「なるほどねぇ……経費削減にもほどがあるだろ」

 本当に人が来るのか、かなり怪しい。だが母さんはあっさり言った。

「いいじゃないか」

 ぽん、と頭を撫でられる。

「経験を積むしかないんだからさ。これだって、立派な修行だよ」

 俺はうんざりしながら、再びため息をついた。どう考えても不安しかない。だけど母さんは、少しも心配していないっぽい。それが逆に怖かった。

 こうして俺は、不安だらけのまま――学祭当日を迎えることになった。