***
「なんだい、その辛気くさい顔は。疲れ果てたサラリーマンみたいだよ」
帰宅した俺を見るなり、母さんが言った。
「うっさいなぁ、もう」
鬼ババめ、と心の中で毒づきながら通り過ぎようとすると、頭の上に何かを乗せられた。
(……なんだよ)
渋々手に取ってみる。
「饅頭?」
「三時のおやつ。遠慮せず食べな」
「……しかも賞味期限切れてる」
表示を目の前に突きつけるが、母さんは平然とした顔をしたまま、カラカラ笑った。
「大丈夫大丈夫。一日くらい過ぎたって、腹は壊れないよ。あたしは昼に食べたけど、なんでもなかったし」
「いらん」
「ああ、可哀想に!」
母さんは、急に芝居がかった声を出した。
「仏壇にお供えしたものを、ありがたく頂かないなんて! そんな息子に育てた覚えはなくってよ!」
床に崩れ落ちる下手くそな演技を見て、俺は心底呆れた。
(学校は学校で面倒なことになってるのに、家ではこれかよ……)
「……分かった。食べるから」
饅頭をテーブルに置き、台所で手を洗ってから椅子に座る。母さんは妙にウキウキした顔で、俺を見ていた。
「で? どうしたんだい」
訊ねながら、首を傾げる。
「また綺麗な女の子に恋でもしたのかい? しかも残念なことに幽霊だったとか」
「それなら、まだマシだよ」
俺は眉間にしわを寄せて饅頭をかじった。すると母さんが、当たり前みたいに温かいお茶を差し出す。それを飲んでから、重たい口を開いた。
「事態はもっと最悪」
「最悪?」
「学祭のクラスの出し物でさ。俺の霊能力を使うことになった」
一瞬の沈黙。そして――。
「それは面白そうだね」
母さんは満面の笑みで言った。
「これは悪霊を山ほど連れて、あたしが遊びに行ってやろうか?」
この人、本気でそれをやりかねない。
「やめてくれ。対処できないの知ってるだろ」
「まぁまぁ」
母さんは、カラカラ笑いながら言う。
「半人前のお前には、ちょうどいい修行じゃないか」
「その半人前具合を、クラスの奴らが分かってないんだよ」
俺は深いため息をついた。
「もし何か起きたら、どうするんだって言ったらさ――結局、幽霊が憑いてるかどうか視るだけになった」
「ほう」
「それにプラスして、タブレットの占いアプリを使うことになってさ」
母さんの眉が少しだけ上がる。
「なるほどねぇ……経費削減にもほどがあるだろ」
本当に人が来るのか、かなり怪しい。だが母さんはあっさり言った。
「いいじゃないか」
ぽん、と頭を撫でられる。
「経験を積むしかないんだからさ。これだって、立派な修行だよ」
俺はうんざりしながら、再びため息をついた。どう考えても不安しかない。だけど母さんは、少しも心配していないっぽい。それが逆に怖かった。
こうして俺は、不安だらけのまま――学祭当日を迎えることになった。
「なんだい、その辛気くさい顔は。疲れ果てたサラリーマンみたいだよ」
帰宅した俺を見るなり、母さんが言った。
「うっさいなぁ、もう」
鬼ババめ、と心の中で毒づきながら通り過ぎようとすると、頭の上に何かを乗せられた。
(……なんだよ)
渋々手に取ってみる。
「饅頭?」
「三時のおやつ。遠慮せず食べな」
「……しかも賞味期限切れてる」
表示を目の前に突きつけるが、母さんは平然とした顔をしたまま、カラカラ笑った。
「大丈夫大丈夫。一日くらい過ぎたって、腹は壊れないよ。あたしは昼に食べたけど、なんでもなかったし」
「いらん」
「ああ、可哀想に!」
母さんは、急に芝居がかった声を出した。
「仏壇にお供えしたものを、ありがたく頂かないなんて! そんな息子に育てた覚えはなくってよ!」
床に崩れ落ちる下手くそな演技を見て、俺は心底呆れた。
(学校は学校で面倒なことになってるのに、家ではこれかよ……)
「……分かった。食べるから」
饅頭をテーブルに置き、台所で手を洗ってから椅子に座る。母さんは妙にウキウキした顔で、俺を見ていた。
「で? どうしたんだい」
訊ねながら、首を傾げる。
「また綺麗な女の子に恋でもしたのかい? しかも残念なことに幽霊だったとか」
「それなら、まだマシだよ」
俺は眉間にしわを寄せて饅頭をかじった。すると母さんが、当たり前みたいに温かいお茶を差し出す。それを飲んでから、重たい口を開いた。
「事態はもっと最悪」
「最悪?」
「学祭のクラスの出し物でさ。俺の霊能力を使うことになった」
一瞬の沈黙。そして――。
「それは面白そうだね」
母さんは満面の笑みで言った。
「これは悪霊を山ほど連れて、あたしが遊びに行ってやろうか?」
この人、本気でそれをやりかねない。
「やめてくれ。対処できないの知ってるだろ」
「まぁまぁ」
母さんは、カラカラ笑いながら言う。
「半人前のお前には、ちょうどいい修行じゃないか」
「その半人前具合を、クラスの奴らが分かってないんだよ」
俺は深いため息をついた。
「もし何か起きたら、どうするんだって言ったらさ――結局、幽霊が憑いてるかどうか視るだけになった」
「ほう」
「それにプラスして、タブレットの占いアプリを使うことになってさ」
母さんの眉が少しだけ上がる。
「なるほどねぇ……経費削減にもほどがあるだろ」
本当に人が来るのか、かなり怪しい。だが母さんはあっさり言った。
「いいじゃないか」
ぽん、と頭を撫でられる。
「経験を積むしかないんだからさ。これだって、立派な修行だよ」
俺はうんざりしながら、再びため息をついた。どう考えても不安しかない。だけど母さんは、少しも心配していないっぽい。それが逆に怖かった。
こうして俺は、不安だらけのまま――学祭当日を迎えることになった。
